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たくらみ

 アデン王は憂鬱だった。大事な客であるサラサ王女に冷たく当たってしまったことを後悔していた。彼女は何と言っても隣の大国であるラジア公国の王女だ。友好な関係を築かねばならないのに無下な態度を取ってしまった。

 しかしだからと言って幼い頃の口約束を本当にしようとする気はなかった。ラジア公国の王女との結婚を喜ぶ者もあるかもしれないが、反対する者もあるだろう。このトキソ国がラジア公国の属国になってしまうと警戒して・・・。だからこれは簡単な話ではない。


 アデン王はいつものように執務室に入った。そこでいつものように周りの者に聞いた。


「リーサはおらぬか?」

「リーサはサラサ王女様のところにおります」

「そうだったな。まだ解放してもらえぬか?」

「いえ、王女様のご希望があり、しばらくはそこでお仕えするそうです」

「そうか・・・」


 アデン王はため息をついた。


「王様。王女様のところから2人の侍女が参りました。リーサの代わりにお仕事のお手伝いをとのことです」


 確かに見慣れない侍女が2人、部屋にいた。


「何でもお申し付けください」


 侍女たちは頭を下げた。王女付きだから有能には違いないが・・・。


(リーサの代わりは務まらぬだろう)


 リーサは優秀な女官だ。よく気が利いて仕事ができる。それに自分のことをよくわかってくれているし、そばにいるだけで気が休まる。そんなリーサだからサラサ王女に気に入られても仕方がないが・・・と思った。しかしいつまで王女のそばにいるのか、いつ戻ってくるのか・・・アデン王は気になっていた。もしかして王女に何か考えがあって無理にそうしているのかも・・・。


(次に王女と顔を合わせた時にリーサのことを聞いてみるか・・・)


 アデン王はそう考えて、今日も忙しい執務をこなしていくのであった。


 ◇


 女官室でイルマ女官長がため息をついていた。


「こんなときにリーサがいなくなってしまって・・・」


 急に訪問してきたサラサ王女を迎えて、王宮内はあわただしくなり女官たちは忙しくなった。失礼のないようにおもてなしをしなければならないからだ。そうなると人手が足りなくて日頃の業務がおろそかになる。


 一方、カーラはいい気味だと思っていた。彼女はリーサが何か不始末をしてサラサ王女のところに連れていかれたと聞かされていた。


(せいぜい油を搾られたらいいわ! 自業自得よ!)


 だがリーサがいないとなると・・・


(王様のもとに女官は誰も行っていないわ)


 それに気づいたカーラがイルマ女官長の前に出て言った。


「私が王様のもとに行ってまいります」

「いえ、それはいいのよ」


 不思議なことにイルマ女官長は断った。


「どうしてでございますか?」

「サラサ王女様の侍女が2人も派遣されてきているのよ。王女の強い希望でね」


 カーラは肩透かしを食った気分になった。この好機に王様に取り入ろうとしていたのに・・・。

 ため息をついて席に戻ったカーラにスギノが話しかけた。


「カーラさん。ご存じ? リーサのこと」

「サラサ王女様のもとにいるんでしょ」

「そのことよ。うわさでは謁見の間をのぞいていたんですって。それで王女様のご不興を買って連れていかれたっていうことなのよ」

「そうなの」


 それを聞いてカーラは心の中で喜んだ。これに乗じて気に食わないリーサをここから追い出せるかもしれないと・・・。


「スギノさん。ちょっとお願い。私、少し行くところがあるから。女官長に聞かれたらうまいこと言ってね」


 カーラは女官室を抜け出した。


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