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尋問

 サラサ王女の一行は王宮の離れを滞在場所に与えられた。賓客を迎える大層な場所である。そこは質素な王宮よりも豪華に作られ、きらびやかな装飾がなされていた。そして王女のためによいかおりのする香が焚かれていた。

 そこの広間に侍女たちに取り押さえられたリーサが連れてこられた。何が始まるかと思っていると、ドアが開いてサラサ王女とドルネ侍女長が入ってきた。周りにいた侍女たちはすぐに片膝をついた。


「これ! ひざまずくのだ!」


 そう言われてリーサは慌ててその場にひざまずいた。サラサ王女がその前に置かれている椅子に腰を下ろした。


「リーサと言ったな。どうしてあのようなところにいた?」


 ドルネ侍女長が尋ねた。それに対してリーサは頭を深く下げて答えた。


「申し訳ありません。少し気になって・・・。ラジア公国のサラサ王女様の美しさは我が国まで聞こえておりますので・・・」

「それが無礼と思わなかったか!」


 ドルネ侍女長が責め立てるのをリーサはさらに深く頭を下げていた。


「いや、それはよい。お前に聞きたいことがある」


 サラサ王女は尋ねた。その声は優しかった。リーサは恐る恐る顔を上げた。王女は穏やかな表情でリーサを見ていた。


「私にわかることでしたら何なりとお聞きください」

「では聞こう。お前は王宮勤めをして長いのか?」

「いえ、ここ2年ばかりでございます」

「2年か・・・」


 それがサラサ王女には意外なようだった。


「それまでどうしておったのだ。王宮勤めをするようになったのは?」

「私は身分の低い騎士の娘でございました。しかし王様が父を執行官に抜擢になり、私もその縁で女官として勤めるようになったのでございます」


 リーサは朝駆けの件を伏せて、取り繕って答えた。だがサラサ王女は腑に落ちぬことがあった。


「王様はなぜ騎士だったお前の父を執行官にしたのか? お前を気に入ったからなのか?」


 その言葉にリーサは頬を赤くしながら大いにあわてた。そんな恐れ多いことと即座に否定した。


「そんなことは決してございません。私などを・・・」

「それならなぜ? 何かわけがありそうだ。隠していることがあるな? 詳しく話してみるがよい」


 サラサ王女には隠せないように思われた。リーサは(変に嘘を言うよりも本当のことを言った方が誤解を受けなくていい)と話し出した。


「この国は前の大臣のドラスらの専横よってまつりごとが乱れておりました。その一党は新しくいらした王様の耳に政の乱れについて何も入らないようにして、騙していたのでございます。そのため何とか国の窮状を訴えようとして、ケガをした父に成り代わり朝駆けに出ました。そこで一番乗りをした者は直接、王様とお話ができるからです。私は何とか一番乗りを勝ち取り、またこの地にいらしたハークレイ法師様のお助けにより王様に訴えることができたのでございます。それで父は取り立てられ、私はかねてから希望していた王宮勤めができるようになったのです」


 その話にサラサ王女はおおきくうなずいた。


「そんなことがあったのか。よくわかった。それでお前は王宮でどのように働いているのか?」

「私は王宮の皆様の仕事のお手伝いをしております。といっても掃除をしたり、お食事を運んだりなどですが・・・」


 リーサはそう答えた。するとサラサ王女がまた尋ねた。


「王様のご様子はどうだ? 私は王様のことが知りたいの。お前の目から見たことを教えてくれ」

「はい。王様は公務で忙しくされております。まともに食事をとる暇もないほどです」

「ほう。そんなにお忙しくされているのか」

「はい。お体に障ると思い、できるだけ食べやすくて体に良い物を選んでお運びしております。それでもなかなかお手をつけられないので、無理に食べていただいております」

「なかなか大変なようだ」

「はい。最近では私も少しご公務のお手伝いをしております。執務室でずっと・・・。王様はお優しく私のような者でもいたわってくださいます。折に触れていろいろなお話もしていただきました。昼の食事の時も一緒に・・・」


 リーサは何か楽しくなって王様との日常を話していた。それを聞くサラサ王女は顔こそ平静を保っていたが、その右手はハンカチをぎゅっと握り締めていた。


「たまに夜の散歩にもお供いたします・・・」


 リーサはまだ話し続けていた。サラサ王女はそれにもう耐えられないところまで来ていた。


「もうよい・・・」

「はい」


 リーサにはサラサ王女の機嫌が悪くなっているように見えた。何か、気に障ることを言ったかと思ったが、サラサ王女の心の内まではわからなかった。


「私をもう王宮に戻していただけないでしょうか。多分、やることがたくさんあると思いますので」


 リーサはそう言ったが、サラサ王女は首を横に振った。この者が王様のそばにいると考えるだけで、胸が締め付けられる気分になりそうだった。


「すまぬがしばらくここにいてはくれぬか。王宮には私の侍女を派遣して不便のないようにするゆえ。お前は王様や王宮のことについて詳しいようだ。私は王様の将来の妃としてもっと知っておきたいことがあるのだ」

「わかりました」


 リーサは答えた。王様のお世話のことが気にはなったが、王女にそう頼まれると断れなかった。ただリーサはサラサ王女が暗い顔をしていたのが気にかかった。


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