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捕らえられたリーサ

 思いがけない話だった。サラサ王女に求婚した覚えなどないのだが・・・アデン王はいろいろと思い返してみた。謁見の間にいる者も「あっ」と声を出した。そんなことがあったとは誰も知らず、皆が顔を見合わせた。隠れて見ているリーサも目を見開いて驚いていた。


「ええ、間違いありません。アディ―! サリーをお忘れですか?」


 サラサ王女はそう言った。アディ―とはアデン王が幼少の頃の愛称だった。その頃でサリーと呼んでいた者は・・・アデン王はその時、一人の少女が浮かんだ。


「まさか・・・あなたがサリー?」

「ええ、そうです。サリーでございます。思い出してくださいましたか」


 サラサ王女はうれしそうに笑った。かつてメカラス連邦の首都、ゼロクロスで幼いアディ―とサリーは出会っていたのだ。アディ―はトキソ国の王子であり、サリーはラジア公国の王女だが、幼い2人にはお互いの身分のことはわからなかった。ただ王族や貴族の幼い子らが集まる場所で一緒に遊んだ幼馴染であった。だが婚約したというのは・・・。


「あなたがサリーであることはわかった。しかしその話とどう関係があるのですか?」

「王様。あなたははっきりとおっしゃいました。私を将来、妃に迎えると」


 サラサ王女の言葉にアデン王は当惑した。そんなことを言ったのかもしれないが、それは幼かった頃の話ではないか・・・それを今、持ち出されても・・・。アデン王がそう言おうとする前にサラサ王女が言った。


「幼い頃の話とはいえ、お約束はお約束でございます。私はずっと忘れておりません。王様である以上、その言葉は絶対であるはず。王様が約束を違えることがあってはなりません。私は王様の求婚をお受けいたします。そこでこの地に参りました。ここで輿入れの準備をいたしたく思います。よろしゅうございますね?」


 サラサ王女は微笑みながらも、後には引かないという風であった。アデン王は返答に困っていた。隠れて見ていたリーサは思わず手に力が入り、つかんでいたカーテンの吊り金具がガタンと音を立てた。その音で謁見の間にいる者が一斉にリーサの方に視線を向けた。


「あそこに忍び込んだものがおる。捕らえよ!」


 王女のお付きのドルネ侍女長がリーサを見つけて言った。すると王女の侍女たちが取り囲んでリーサを捕らえ、サラサ王女の前に引っ立ててきた。


「何者じゃ!」


 ドルネ侍女長は問うた。


「え、ええと・・・」


 リーサはかなり動揺してしまって答えられずにいた。それを見たアデン王が言った。


「その者は私付きの女官だ。許されよ」

「いえ、許されません。女官風情が許しもなく謁見の間に忍び込んでのぞき見とは」


 ドルネ侍女長はきっぱりと言った。サラサ王女の尊厳を傷つける者は許さぬと・・・。リーサは申し訳ないことをしたと顔を伏せていた。


「その者が無礼を働いたのなら、私が謝る。許してやって欲しい」


 アデン王はリーサをかばおうとそう言った。その言葉がうれしくてリーサは顔を上げてアデン王を見た。アデン王は(大丈夫だ)という風にリーサに目配せをしていた。

 だがサラサ王女はそれを見て2人はただの関係ではないと勘ぐった。そう思うとサラサ王女は嫉妬にも似た気持ちがふつふつと沸き起こってきた。


(このままこの者を王様のそばには置けない)


 サラサ王女は、言い返そうとするドルネ侍女長を手で制して発言した。


「いくら王様のお頼みでもこれだけは聞けません。この者は怪しい。王様の婚約者として私は王様の身を案じております。この者を連れ帰り、尋問いたします。では失礼いたします」


 サラサ王女は多くの侍女たちととらえたリーサを連れて謁見場を出て行った。アデン王は、


「待たれよ!」


 と声をかけるも、サラサ王女はそのまま行ってしまった。


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