突然の訪問
その日もアデン王は執務室で書類に目を通していた。傍らにはいつものようにリーサがついていた。
「リーサ。今日は天気が良いな」
アデン王は書類から目を離して窓の外を見た。この時期には珍しく快晴である。
「はい。素晴らしく空が青いです」
「こんな日は庭を散策しよう。ついてきてくれぬか」
「はい」
その時、執務室のドアがけたたましくノックされた。
「入れ!」
するとガンジが駆け込んできた。その慌てぶりにアデン王は眉をひそめた。
「一体、どうしたのだ?」
「そ、それがラジア公国のサラサ王女様がお越しになられたのです!」
「なに!」
かつてアデン王とサラサ王女は婚約していた、いや、していることになっていた。それは前の大臣のドラスが勝手に推し進めていたのだ。彼はそれで大国のラジア公国とも太いパイプを持とうとした。しかしドラスの悪事が発覚し、その話も立ち消えになった。もちろんアデン王はラジア公国に婚約を取り消すことを申し出て、それを了承してもらっているはずだった。
「どうしてサラサ王女が?」
「それはわかりません。しかしもう王宮の謁見の間に無理に入られ、王様をお待ちです」
ガンジは額の汗を拭きながらそう言った。いきなりの訪問だった。隣国の、それも大国の王女なのでさすがに断れない。
「それなら仕方があるまい。王女に会おう」
アデン王は立ち上がって執務室から出て行った。それを見送るリーサはなぜか、胸騒ぎがした。彼女は気になって謁見の間を隅からのぞこうと思った。
謁見の間ではサラサ王女が待っていた。高価な宝石をちりばめた光り輝くドレスを身にまとい、周囲に多くの侍女を引き連れ、それはラジア公国の権威を見せつけているように見えた。
王宮内では突然のサラサ王女の訪問に大騒ぎになった。大国の王女だからそれなりの礼儀を尽くさねばならない。王様に正式な衣装を用意してお着替えとなり、重臣や役人、女官たちを呼び集めた。
それでやっと準備が整い、謁見の間にアデン王が姿を現した。
「お待たせいたした。サラサ王女。遠いところをよくぞ来られた」
「王様にお会いできてうれしゅうございます」
サラサ王女は優雅にお辞儀をして顔を上げた。メカラス連邦でも最高の美人と称されるサラサ王女は輝かんばかりに美しかった。謁見の間に忍び込んで、カーテンの陰に隠れているリーサも王女の美しさに息を飲んでいた。
「さて、今日はいかなる用で来られたのか? それも予告なしに」
アデン王の問いにサラサ王女は微笑みながら答えた。
「王様。婚約者を訪ねるのに訳がいりましょうか。私はただ王様に会いに来たのです」
その言葉にアデン王は驚いた。確か、穏便に断ったはず・・・それともサラサ王女には伝わっていないのか・・・。どう言えばよいかと思案するアデン王にサラサ王女が言った。
「こちらから使者を出しましたが、婚約の破棄を盾にとってお会いしていただけなかったのです。この婚約を破棄できたとお思いでしょうが、そうは参りません。このサラサは納得しておりせん」
アデン王はサラサ王女の顔を見たが怒っている様子はなく、ただ穏やかに微笑んでいた。それがまた不気味でもあった。
「あなたには失礼なことをしたと思っている。本来なら私が貴国に赴き、説明する必要があったのかもしれぬ。これは反逆した前大臣のドラスが勝手に決めたこと。その辺りをお分かりいただきたい」
そのアデン王の言葉にサラサ王女は顔色一つ変えなかった。
「わかっておりますわ。しかしドラスという者のことなど関係ありません。王様が直接、私に求婚なさったのです」
「えっ! 私が!」
アデン王は驚きの声を上げた。




