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代わり

 執務室ではアデン王がようやく書類の束を片付けた。だがまだまだ仕事はある。


「リーサ! リーサはおらぬか?」

「御用でしょうか?」


 声をかけるとカーラが出てきた。


「リーサはどうしたのだ?」

「リーサには急な用事が入りました。しばらくこちらには参れぬようです。代わりに私が伺います。何なりとお申し付けください」


 カーラは微笑みながら答えた。彼女は自分以上に王様のお世話ができる者などいないと思っていた。だから王様はお喜びになると・・・。


「そうか。リーサはおらぬのだな」


 アデン王はがっかりしていた。


「王様。大丈夫です。私がすべてして差し上げます。その書類ですか?」

「ああ。これを確認してレイダ公爵の執務室に持って行ってくれ」

「わかりました」


 カーラはアデン王から書類を受け取って中身を見た。


(なに、これ?)


 王宮の奥向きのことしかしてこなかったカーラには内容がとんと分からなかった。


「どうかいたしたのか?」


 カーラの困惑した表情を見てアデン王が尋ねた。


「いえ、何でも・・・」


 カーラは脂汗を額に浮かべていた。こんな仕事をリーサがしていたのか・・・カーラは頭をガツンとされた気分になった。


「そうか。お前には難しかったか?」

「いいえ。大丈夫です」


 カーラは何としてでもやり遂げようと思った。王様の気を引くために・・・しかし全然進まない。


(これは懇意にしている事務官に聞くしかないわ! ここでできませんとは言えない・・・)


 カーラは書類をまとめた。


「王様。持ってまいります・・・」


 そう言いかけた時、執務室のドアが「コンコンコン」とノックされた。


「誰だ?」

「リーサでございます」

「入れ!」


 リーサが部屋に入ってきた。カーラは信じられなかった。あの大量の書類をもう配ったというのか、いやそんなはずはない。


「リーサさん。もういいの?」

「ありがとう。カーラさん。もう済んだから」


 リーサはカーラの手にある書類を見た。


「王様。書類ができたのですね」


 リーサはカーラの手から書類をさっと取ると、中をすぐに確認した。


「特に問題がないようです。ではレイダ公爵にお渡しします」

「頼む」


 リーサは書類をもって部屋を出て行った。その後に唖然としているカーラが残された。


「どうした? カーラ。リーサが戻ってきたからもう大丈夫だ。ご苦労だった」

「あっ! これは・・・。では失礼します」


 カーラは打ちのめされて部屋を出た。2,3日は王様のお世話でそばにいられると思ったのに、何の役にも立たず、さらにリーサがすぐに帰ってきたとは・・・。


(いいえ。こんな難しい事務仕事は女官がすることじゃないわ! できなくて当然! それより王様を癒して差し上げるのが役目よ。それなら美人の私の方が上よ!)


 カーラはそう思い込もうとした。そしてリーサへの憎悪が一段と激しくなった。


(リーサはズルをしたに決まっている。私に恥をかかせるために・・・。見てらっしゃい!)


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