いじわる
女官室で大きな叱責の声が響いていた。
「これはどういうことなの!」
「でもそんなことは聞いていなかったのですけど・・・」
「嘘を言いなさい! ちゃんと確認したでしょ」
年配の女官のスギノが、新人の女官のマモリを叱っていた。そこにリーサが入ってきた。そのピリピリした雰囲気に驚いて近くにいた女官にこっそり尋ねた。
「どうかしたの?」
「マモリがへまをしたようなの。王宮のすべての部署に今日までに書類を届けるはずだったのに忘れていたみたいなのよ」
「そうなの?」
「でもあの感じじゃ。スギノさんが忘れていたのをマモリのせいにしているようね。可哀想にね」
スギノの意地が悪いことはわかっていた。リーサも新人の時にはかなり嫌な目に遭った。彼女はマモリがかわいそうになった。
スギノは書類が山積みになった盆をドンと机に置いた。
「いいわね! すべて配り終わるまでここに戻ってくるんじゃないよ!」
「は、はい・・・」
マモリは泣きそうな顔になって答えた。それを忌々しそうに見ながらスギノは女官室から出て行った。
「マモリちゃん。だいじょうぶ?」
リーサが声をかけた。
「お姉さん。どうしよう・・・」
マモリはリーサのことを慕って「お姉さん」と呼ぶほど2人の仲がよかった。
「とにかくすべてを届けなくちゃ」
「でもこんなに・・・2、3日かかるわ」
「じゃあ、みんなで手分けして・・・」
それを聞いていた女官たちはさっと部屋を出て行ってしまった。自分たちが損な役目をしたくないからだろう。
「お姉さん。みんな何かおかしい」
「確かに変ね。手伝ってくれると思ったのに」
「どうしよう・・・」
「こうなったら2人だけで配りましょう。任せておいて!」
リーサは書類をまとめてカバンに入れた。
「マモリはこの辺りの部署に配って。遠くはすべて私が配るから」
「でもそれじゃ・・・」
「任せておいて。脚には自信があるから!」
リーサはドアを開けた。するとそこにはちょうどカーラが立っていた。
「あっ! そうだ! カーラさん。頼みたいことがあるの」
「何でしょう?」
カーラはにこやかに尋ねた。
「私、ちょっと用ができたの。王様の御用があれば代わりにお願いします」
「ええ、いいわ」
カーラは微笑みながらうなずいた。
「ありがとう! 私急ぐから!」
リーサは飛び出して行った。マモリもカーラに頭を下げてその後を追いかけて行った。あまりにも慌ただしい様子にカーラは肩をすくめてあきれていた。するとその横にスギノが来た。
「うまくいきましたよ」
「ありがとう。これで心置きなく王様のお世話をできるわ。あの量では2,3日では終わらないわね」
「どういたしまして。カーラさん。新人は鍛えておかないとね」
2人はニヤリと笑った。
リーサは王宮の中を走った。廊下も庭も・・・。それぞれの部署に行ってはドアを開け、
「書類をお持ちしました!」
とカバンに入れた書類を部屋の机の上に放り投げて配っていく。
ここでは彼女の健脚が役立った。その速さは風のようだった・・・とすれ違った役人は感じるほどだった。
「次は・・・次は・・・」
休むことなく走る彼女だが息は切れない。王宮内は広いが、彼女には関係ない。あれほどあった書類の束も次々になくなっていった。




