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嫉妬

 そのリーサの様子を見ながら陰口をたたく女官もいた。日頃、イルマ女官長に目をかけられて王様の世話係をしているリーサを快く思わない者もいた。


「あの子ったら、自分が妃にでもなれるって思っているのかしら」

「図々しいわね。すこし朝駆けの時に手柄を立てたからといって・・・」

「王様がお優しいからあの子でも務まっているのよ。そろそろボロを出すから。ねえ、カーラさん!」


 女官たちに声をかけられたその女官は顔を上げた。彼女はリーサが来るまでは王様のお世話係だった。美人でよく気が利いて仕事ができて・・・それに王族の末裔の家の出なので、古株の女官たちも一目置いていた。


「そんなことはありませんわ。リーサさんはよくやっているわ」


 カーラは微笑みながら静かに言った。だがその内心はリーサのことが忌々しくて仕方がなかった。


(間近でお世話をしていれば、王様のお心は自分に向くはずよ。自分は王家に連なる者。妃になってもおかしくない。しかしリーサがその座を奪った!)


 カーラはそう思い込んでいた。だがプライドがあってその嫌悪感を表には出せない。


「みなさん。私たちは誠心誠意、王様にお仕えすればいいのです。ですからリーサさんを悪く言うのはやめましょう。彼女が間違ったことをすれば指導して差し上げればいいのですから」


 カーラは優しく言った。


「さすがにカーラさんだわ」

「ええ、心がきれいな方は違うわ」

「あのリーサもすこしはカーラさんを見習えばいいのに」


 女官たちは口々に言った。カーラは微笑を浮かべながら聞いていた。


(ここにいる方たちは私の味方だわ。リーサを追い落として、もう一度王様のお世話係になってみせるわ!)


 彼女はそう決意していた。


 ◇


 この国の立て直しに奔走するアデン王であったが、彼にはもう一つ気がかりなことがあった。それは隣国のラジア公国のことだった。


(我が国を密かに狙っているのではないか?)


 ラジア公国は先年、国境を接していたミンゴク伯爵領を我がものとした。ミンゴク伯爵の統治がうまくいかず、困った民衆がラジア公国の先王、プラクト大公に助けを求めた・・・表向きはそうなっている。それによりラジア公国の軍が密かに動いて併合してしまった。

 そうなってしまった以上、評議会ではどうすることもできなかった。ハークレイ法師が手を打とうとしたが駄目だった。評議会のメンバーにラジア公国のメドール王が名を連ねていたからだ。


(ラジア公国との国境付近に動きがみられるという報告がある。我が国はまだまだうまくいっているとは言い難い。この現状に付け込まれたらミンゴク伯爵領の二の舞になってしまう)


 それは大臣のレイダ公爵も感じていた。


「国境には多くの兵士を配しております。それに有能な隊長も配しております。すぐにどうこうなるものでもございませんが、ラジア公国が主力をもってやってくれば、ずっと守り切れるものではありませぬ」

「確かにそうだ」

「いざという時には、評議会のハークレイ法師様におすがりするしかありませぬ」

「とにかく国境の兵を増員してくれ。このまま様子を見るしかない」


 アデン王は「はぁ」とため息をついた。


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