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王様のお相手

 リーサにとって王宮勤めは夢のようであった。日々の仕事にはやりがいがあり、なにより王様のそばにいられるのがうれしかった。アデン王は彼女が思っていた通り、誠実で思いやりのある方だった。彼女はアデン王に尊敬以上の感情を抱いていた。



 リーサは王様の食事の籠を下げて、女官室に戻った。そこにはイルマ女官長と数名の女官が事務仕事をしていた。


「王様はいかがでしたか?」


 イルマ女官長が尋ねた。


「相変わらず忙しくしておいでです。食事をとられるお時間もないようでしたから、お持ちしました。ちゃんと召し上がられました」

「そうか。それは気が利く。リーサを世話係にしてよかった。若様は幼いころから聞かん坊でしたから。でもリーサの言うことは聞くようね」


 イルマ女官長は微笑んだ。彼女は30年以上も王宮に勤めていた。王様を今だに「若様」と呼び、まるで我が子のように心配している。


「私たちが気をつければいいのだけど・・・でも若様には大事な方が欠けているわ」


 イルマ女官長はつぶやいた。


「それは何でございましょうか?」

「お妃様よ。若様は忙しくてお妃を娶る暇がないと言われるけど。いつまでも独り身というわけにはいかないわ」


 すると古株の女官のヘルゲが話に入ってきた。


「確かにそうですわ」

「私の目の黒いうちにお妃をお迎えしなければね。そして王様のお子をこの手で抱くまではがんばらないと」

「そのことですが、また多くの話がきておりますよ」


 ヘルゲは前からイルマ女官長からお妃の件を頼まれているようだった。


「まずはルチラ子爵令嬢のミマ様」

「あの方は品がないわ」

「ではクスト男爵令嬢のネイ様」

「いろんな男性とうわさがあるわ。却下」

「タチノ伯爵令嬢のコマチ様は? 評判はおよろしいようですが」

「王様よりかなり年上。つり合いが取れないからダメ」


 イルマ女官長はお妃候補を次々にはねていった。ヘルゲはため息をついた。


「女官長。このままでは王様のお妃は永遠に決まりませんよ」

「でもね。若様にはそれ相応のふさわしい方をお妃にしてほしいの」

「しかし条件が厳しすぎますね」

「いいえ。品があって誰からも慕われ、教養豊かで王様を支えられる方。そして王様を心から尊敬して愛する方よ。難しくないでしょ」


 イルカ女官長はさらりとそう言った。それを聞いてヘルゲは肩をすくめていた。


「それにしてもあの話はもったいなかったわ」

「あの話ですか?」

「ええ。ラジア公国のサラサ王女よ。その話は立ち消えになったけど」


 アデン王とサラサ王女は形の上では婚約寸前まで行っていた。それは前大臣のドラスが主導していた。だが悪事がばれて牢につながれることになったため実現しなかった。


「サラサ王女なら『文句なし』だったですのにね」

「お家柄は最高だし、伝わってくる話では気品があって教養があってお優しい方のようよ。それにとびっきりの美人ときている。あのドラス前大臣が持ち込んだとはいえ、これだけはいい話だったのに」


 イルダ女官長は残念そうだった。


「まあ、あの方以上の方は見つからないわね」

「そうね」


 リーサは2人の会話を聞いていた。王様がお妃様を娶るのは当然のことだが、それを考えると何かさびしい気持ちになった。今までそばにいらした王様が遠いところに行ってしまうような・・・・。


「どうしたの? リーサ。暗い顔をして」


 イルマ女官長がリーサにいきなり声をかけてきた。


「い、いえ。考え事をしていて・・・。王様のお妃になられる方は幸せですね。あっ! 私、いかなくては・・・」


 リーサはぎこちなくそれだけ言うと、女官室から出て行った。


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