名乗り
辺りはようやく収まった。アデン王は老人のそばに来て片膝をついて頭を下げた。
「申し訳ありませぬ。知らぬこととは言いながらご無礼いたしました。しかしどうしてこのようなことに?」
「うむ。こうでもしなければあなたにお会いできぬと思いましてな。あなたのそばにおる邪な者のために」
ハークレイ法師はドラス大臣の方をにらんだ。腰を抜かしていたドラス大臣は「ふふぁ・・・」と言葉にもならぬ声を出してひざまずいた。
「それよりアデン王よ。あそこにひかえておるリーサが朝駆けで一番乗りを勝ち取った。リーサは曲者に襲われてけがをした父のガンジの代わりに走ったのだ。どうか言葉をかけてくれぬか」
「はっ!」
アデン王は立ち上がってリーサに声をかけた。
「リーサよ。この場に来て一番乗りの名乗りを上げるとよい」
リーサはガンジを見た。ガンジは「行ってこい!」というように大きくうなずいた。
(私が王様の前に出る!)
リーサはそう思うと身が固くなったが、それでも静かに王様の前に出て片膝をついた。周囲の者がリーサに注目する。彼女は目がくらみそうになりながらも顔を上げた。
「見回り隊騎士、ガンジの娘、リーサ。今年の朝駆けで一番乗りいたしました!」
一言一言はっきりと大きな声で名乗りを上げた。その凛々しさに観衆から「ほぅ!」という声が上がった。
「そなたは・・・」
アデン王はリーサの顔を間近で見て思い出したようだった。
「確か、私が王子だったころ、父の見舞いにこの地に戻った折、暴れ馬の前に飛び出してきて母子を救った娘か?」
それを聞いてリーサはうれしくなった。あの事を王様が覚えていてくださると。
「はい。その時の娘でございます」
「そうか。勇敢で優しい娘がいたものよと感心していた。それに今回はけがをした父に代わり、女の身で重い甲冑を着てよくぞ勝ち取った。賞賛に値しよう。褒美を取らす」
「ありがとうございます」
リーサは頭を下げた。王様から有難い言葉をいただいてポッと赤くなった。しかしそれに浮かれてはいられない。彼女には父に成り代わってすることがあった。
「身に余る光栄です。恐れながらご褒美よりも王様にお見せしたいものがございます」
リーサは甲冑に縛りつけておいた書状をアデン王に捧げた。
「それは?」
「わが父、ガンジは村の者たちの窮状をこの目で見て参りました。今年も不作であるのにさらに重い税が課せられるとか。このままでは村の者たちが困窮し逃げ出すかもしれぬと。そこで王様のお慈悲にすがりたく書状をしたため、私に託したのでございます。一番乗りを勝ち取り王様にお渡しするために」
アデン王はその書状を受け取り、広げて中に目に通した。
「なに!」
その書状を読んでアデン王の顔色が変わった。
「王よ。その書状に書かれていることは事実。わが供の者も確認いたした。ドラス大臣一派が民を苦しめておったのじゃ」
ハークレイ法師が静かに言った。アデン王の表情は怒りで満たされていた。書状を強く握り締めてドラス大臣の方を向いた。
「ドラス! これはどういうことだ! このようなことは聞いておらぬぞ!」
「なんのことでございましょうか。私はこの国のため、王様のために尽くしてまいりましたが・・・」
ドラス大臣はしらばっくれようとしていた。しかしアデン王はそれを許さない。
「お前が勝手に税を重くし、民を苦しめた。私をだましてこの国の政を我がものとしてな! この罪、必ず糾弾してくれるぞ! それまで屋敷で謹慎しておれ!」
アデン王の言葉に逃れられぬと知ったドラス大臣は開き直り、いきなり笑い出した。
「フフフ。あなた一人ではこの国を動かせまい。我らの力がなければな。思い知ることになろう」
「だまれ! ドラスとワージを引っ立てい!」
「はっ!」
そばにいた兵士たちはドラス大臣とワージ執行官を取り押させて連れて行った。




