あの方は
一方、王宮の玄関前でアデン王は一番乗りの者を待っていた。しかしいつまで待っても現れず、その代わりに門の方から大きな音が聞こえていた。
「一体、どうなっておる!」
周りの者に聞いたが、あいまいな答えしか返ってこない。彼の周囲はドラス大臣の息がかかった者が固めているからだ。だがアデン王は確かに異変を感じていた。
(あの音は・・・戦いの音。誰かが攻めて来たのか?)
ついにアデン王は立ち上がった。
「門に参るぞ!」
「おやめください! じきに大臣様が来られます」
周囲の者はアデン王を止めようとした。だがそこに一番乗りの者を迎えに行ったドラス大臣の怒鳴る声が聞こえてきた。もう悠長に待っている場合ではないとアデン王は思った。
「門で何か大ごとが起こっているに違いない! 今から向かうぞ! 者ども剣を持て!」
アデン王は剣を持つと兵士を引き連れて門の方に向かった。
門のところでは多くの兵士たちが叩きのめされていた。それに引き換え、ビャッコやキリン、そしてセイリュウが息を切らすこともなく大暴れをしていた。そのすぐ後ろで老人がゲンブに守られて平然と立っている。ドラス大臣はその様子に「くそっ!」と唇をかみしめて悔しがっていた。
「大臣! どうしたのだ!」
そこに兵士を引き連れたアデン王が出てきた。
「王様。狼藉者です。神聖な朝駆けを汚したので、とらえようとしましたら仲間を呼び入れて暴れております!」
「なにっ! けしからぬ者たちめ! ならば私自ら成敗してくれる!」
アデン王は老人たちの前に出て行った。
「お前たちか! この朝駆けを妨害しておるのは! ここをどこと心得る! このうえはこの国の王たるアデン自ら成敗してくれるぞ!」
アデン王はいかめしく大声を上げた。だが老人はひるまない。それどころか微笑みながら王様のそばに近寄ってきた。
「アデン王よ。久しいのう。儂のことを覚えておいでかな?」
「なにっ!」
その声に聞き覚えのあるアデン王はじっと老人の顔を見た。
(どこかで会ったような・・・)
すると評議会でトキソ国の王に任命されたことが思い出された。その時、その老人が・・・。アデン王は「あっ!」と声を上げた。その顔に驚愕の表情が浮かんでいた。
「や、やめい! 剣を引け! 皆の者! ひざまずくのだ!」
アデン王は慌ててそう言った。
「王様。いかがしたのですか?」
「あのお方はハークレイ法師様だ。皆の者! 何をしておる! すぐにひざまずけ!」
「な、なんと!」
ドラス大臣は腰を抜かしてひっくり返った。こんなところに評議会最高顧問のハークレイ法師が直接乗り込んでくるとは・・・。
兵士たちは慌てて剣を捨ててその場にひざまずいた。ワージ執行官もあわてて剣を投げ捨てて、震えながらひざまずいて、地面につけんばかりに頭を下げた。
「あのご老人がハークレイ法師様とは・・・」
門のところにいたガンジとリーサも驚いてひざまずいた。だがリーサはこれで納得がいった。やはりあの老人はただのお方ではなかったと。




