大騒動
ガンジがリーサを救おうと慌てて前に出ようとしたが、老人が手で制した。
「ここは儂たちに任せなさい」
老人が合図すると、ビャッコが背中の2本の剣を抜いて前に出た。さらにキリンとセイリュウもその後に続いた。
「ビャッコ! キリン! セイリュウ! リーサさんを助けよ! 向かってくる者を叩きのめすのじゃ! 頼んだぞ!」
「はっ!」
老人の3人の従者が門の中になだれ込んだ。兵士たちは剣で斬りかかるが、セイリュウはその小柄な体でそれを交わして奥に入って行く。ビャッコは2本の剣を振り回し、斬りかかってくる兵士たちを次々に平打ちにしていった。その鋭い剣さばきに敵う者はない。一方、キリンは向かってきた兵士たちを蹴りや突きで次々に叩きのめしていった。
「ぐえー!」「うわ~!」
兵士たちが悲鳴を上げて倒れていく。
「何をしておる! さっさと斬り捨てぬか!」
ドラス大臣が怒鳴ると、彼の周囲にいた兵士までがビャッコやキリンに向かっていった。もちろん老人やガンジにも兵士たちが群がるが、そばで守るゲンブが次々に投げ飛ばしていった。
リーサはその光景を唖然として見ていた。
(一体、何が起こっているの・・・)
あの老人の供の者たちが多くの兵をものともせずに戦っている。それにここは王宮・・・こんな騒ぎを起こしたらただでは済まないというのに。
(あの方たちはいったい何者なの?)
リーサには不思議な目で見ていた。
だが彼女の身にも危機が迫っていた。彼女も老人の仲間として兵士が剣を向けてきたのだ。いくら甲冑を着ているからといって無事では済まない。特に頭は兜を脱いでいるから無防備なのだ。そのリーサの頭に剣が振り下ろされてきた。彼女は思わず目を閉じて頭を抱えて縮こまった。
「ガッチャーン!」
その剣に鎖が絡まって動かなくなった。セイリュウが手に持った長い鎖を投げて絡めたのだ。そしてぐっと引っ張って兵士の手から剣を奪った。
「痛い目に会いたくなかったら、どけ!」
セイリュウはリーサのそばに来て、向かって来ようとする兵士たちに奪った剣を投げつけた。そして「ビュンビュン」と鎖を振り回した。その激烈さにリーサの周りから兵士が退いた。
「さあ、今だ。お父上のところに逃げて!」
セイリュウに言われてリーサはガンジの元に駆けて行った。その速さに兵士たちは何もできない。
「リーサ!」「父上!」
リーサがガンジに抱きついた。今まで緊張の連続で恐ろしさを我慢していたが、父の姿を見てやっと安心したようだった。
「父上、一番乗りを勝ち取りました」
「すまなかった。こんな怖い思いをさせて・・・だがよくやった。さすがは私の娘だ!」
ガンジはそう優しく言って、そっとリーサを抱きしめた。
老人は2人の様子に「うむ」とうなずくと、そのまま退くどころか、門を通って王宮の敷地に入って行った。
ワージ執行官は兵士たちに指示を与えて戦っていたが、一向に埒が明かない。それどころか、老人たちは王宮に入って行こうという勢いである。
「大臣! このままでは・・・」
「わかっておる。こうなったら王宮の兵士をすべて繰り出してもあの者たちを始末してくれる!」
ドラス大臣は苛立っていた。これほどの兵でもまだ狼藉者を取り押さえられない。あまり大騒ぎになれば王様が出てきて、面倒なことになる・・・。
「何をしておる! 敵は小勢だ! 王宮に入れるな! もっと兵士を呼んでくるのだ!」
ドラス大臣は叫んだ。その間にもビャッコたちはどんどん奥に入ってくる。そしてその中にはあの老人がいる。いまや門の内側は悲鳴や怒号が響き渡り、大騒ぎになっていた。




