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王宮の門

 王宮の玄関前ではアデン王が椅子から立ち上がり、そわそわしながら騎士の到着を待っていた。そのそばにはドラス大臣が控えていた。


「王様。落ち着きなさいませ」


 そう声をかけるドラス大臣は落ち着き払っているように見えるが、内心はかなり焦っていた。それは先程、教会から馬で駆けつけてきたワージ執行官に会って話を聞いたからだ。傷を負ったはずのガンジが朝駆けに参加していたという。ワージ執行官がすでに手を打ったようだが不安は消えない。


(このままガンジに来られるとまずい。ベルガが勝ってくれればいいが・・・)


 そこに朝駆けの道の中間地点で監視していた役人が入ってきた。馬を飛ばしてその様子を報告しに来たのだ。アデン王がすぐに尋ねた。


「どうであった?」

「騎士団長のベルガ様が先頭で通過しました。後の者はかなり遅れているようです」


 それを聞いてドラス大臣はニヤリと笑った。これで王様にいらぬことを言上する者はいないと。


「それでは間もなくここに参るのだな?」

「はい。そろそろ到着するころと思われます」


 役人はアデン王にそう答えた。それを聞いてドラス大臣はアデン王に言った。


「では私が門のところで一番乗りの者を見届けて参ります。王様はここでお待ちください。一番乗りの者を連れてきますので」


 ドラス大臣は立ち上がり、門の方に向かった。


 ◇


 リーサは懸命に走り続けた。甲冑が徐々に重く感じられ、足は鉛のように重くなっていた。だがそのペースは落ちなかった。体力をまだ残す彼女は着実に王宮への道を進んでいた。

 一方、ベルガは後ろの者を引き離そうとペースを上げたのが仇と出た。走る力が失われてきており、そのペースが落ちてきていた。そして後ろを見るとあの甲冑の騎士の姿が見えた。かなり引き離したはずなのに・・・。


(これはまずい! ここはしっかり走らねば!)


 ベルガは焦ってペースを上げようとしたが、体力が少なくなっており思うように足が動かなかった。息ばかりがゼイゼイと上がってきた。

 ベルガが振り返る度に後ろの騎士の姿は大きくなり、やがて真後ろに迫っていた。


(負けられねえ!)


 ベルガはあえぎながらも必死に走るが、その騎士は横に並び、ついには追い抜かしていった。


「待て! お前には負けぬ! この騎士団長のベルガ様が!」


 ベルガはそう叫ぶが、その差は広がっていくばかりだった。その騎士の背中はどんどん遠くなって、やがて見えなくなった。それまでは騎士団長というプライドが彼を奮い立たせてはいたが、いまやその張りつめた気持ちもぷっつり切れた。彼は途中で目を回した。そして気を失ってばったりと倒れてしまった。


 一方、リーサも苦しくなっていた。


(もう少し。もう少しだけ・・・脚よ。動いて!)


 息は上がってきている。もう長く走れない。だがリーサは懸命に走り続けた。


(神様! もう少しだけ・・・私に力をお与えください!)


 リーサは心の中で祈っていた。すると王宮の門が見えてきた。そこではこの伝統ある朝駆けを見に来た多くの人々が声援を送っていた。


「がんばれ! あと少しだ!」

「しっかり!」


 その中にはマリもセイジもソージもいた。甲冑の中身がリーサとも知らずに懸命に応援してくれている。そしてガンジの姿も・・・。大声を上げて応援してくれている。


「がんばれ! がんばれ!」


 リーサはその声援に後押しされるように走り続けた。そしてついに王宮の門を最初にくぐり抜けた。


「やった!」

「一番乗りだ! おめでとう!」


 人々から祝福の声が上がった。リーサはそこで立ち止まった。


(やったわ! この私が・・・一番乗りになった!)


 彼女はうれしさで一杯になり、声を張り上げて喜びたかった。だが声を出してはならないとそれを何とか押さえこんだ。



 門の前では観衆が歓喜に湧いていた。その中にいる老人はガンジと喜び合った。


「ガンジさん。リーサさんがついにやり遂げましたぞ!」

「あ、ああ・・・」


 ガンジは何か言おうとしたが、感激のあまり言葉にならなかった。ただただ大きくうなずいていた。



 やがて門のそばにいた役人がリーサに声をかけた。


「一番乗りでござる! ガンジ殿! まずは大臣様に」


 その役人はその甲冑を見てガンジが来たと思ったのだ。リーサは声を発することもなくうなずいた。


 老人はその光景を見ながら、


「今からリーサさんはドラス大臣のもとに行きます。いよいよこれからですぞ!」


 と厳しい顔になってガンジにつぶやいた。



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