思わぬもの
王都のはずれの教会では朝駆けに参加する兵士たちが集まっていた。そこが朝駆けの出発点である。そこから王宮の門に向かう。町中だけでなく、途中、山道も走ることになる。
それぞれが先祖伝来の古い甲冑を身につけていた。バイザーを下していると顔が見えず、その甲冑で誰かを判断するしかなかった。リーサも道々で甲冑を着た騎士に声をかけられたが一言も発せず、ただ頭を下げただけだった。
その教会に騎士団長のベルガとワージ執行官も来ていた。
「まあ、甲冑を着たからと言っていつもと変わりませぬ。この脚に敵う者などおらぬでしょう。一番乗りはこの私が頂くことになります」
ベルガは陽気で自信満々だった。もう気つけにワインの2,3杯を飲んだのかもしれない。息が酒臭い。ワージ執行官はその様子に顔をしかめた。
「油断するな。ガンジは出てこぬが、他にも健脚の者がいる」
そう言って辺りを見渡した。すると思わぬものを見て驚いた。
「何だと! まさか・・・」
思わず声が出た。見覚えのある、あの甲冑を着ている者がいるのだ。
「あれは昨年一番だったガンジの甲冑・・・。そんなことがあるわけがない!」
ワージ執行官はにわかに信じられなかった。それで朝駆けに参加する甲冑騎士たちが集まっているところに行って聞いてみた。
「あそこにいる甲冑の者は誰だ?」
「あれは昨年一番乗りのガンジです」
「そうですよ。ガンジです! あの古臭い甲冑をよく覚えています。今年も一番乗りを狙うつもりでしょう」
騎士たちが答えた。それを聞いてワージ執行官は動揺した。
(奴を襲ったミクラスの話では深手を負わしているはずだ。だがこの朝駆けに出てきている。どうしたことだ。もし奴が勝ってしまったのなら・・・)
それを想像するだけで体が震えてきた。
「どうかしたのですか?」
ワージ執行官の挙動があまりにおかしかったので、ベルガがそばに来て尋ねた。
「大変だ。昨年、一番乗りのガンジが出てきた!」
だがベルガは鼻で笑った。
「ガンジ? 昨年一番乗りだからといってビビる必要はありません。このベルガにお任せを。ぶっちぎりで勝って見せます!」
ベルガは自信満々だった。それで少しはワージ執行官は落ち着きを取り戻した。
(まあ、いいだろう。どうせベルガが勝つからな。それでも一応、手を打っておくか・・・。そうだ! ミクラスたちをまた使おう。奴らもこの近くにいるはずだ。もしガンジが優位に立ったのなら襲うように仕向けよう。今度こそ間違いなく仕留めるはずだ! いや時間稼ぎでもいい。とにかくガンジを勝たせてはならん!)
ワージ執行官は慌ててその場を離れた。




