出立
いよいよ朝駆けの日となった。夜明け前にはガンジやソリア、そしてリーサや老人一行が緊張の面持ちで広間に集まった。そこでガンジはリーサに先祖伝来の古い甲冑を着せた。その甲冑は代々の男の当主が着ていたものだが、女性にしては大柄なリーサにその大きさはちょうどよかった。不思議なことにリーサはその甲冑の重さを感じなかった。むしろぐっと身が引き締まる思いをしていた。彼女はその辺りを走ってみた。
(あの特訓が生きている。これなら普段と同じくらいに走れる)
リーサはそう思った。その走りを見ていたガンジが尋ねた。
「どうだ? 走れているようだが、やはり重いか?」
「いいえ、重くありません。思っているよりも動けるようです」
リーサはそう答えた。ガンジは大きくうなずいて彼女に言葉をかけた。
「リーサ。お前はよく頑張った。この甲冑を着ていたご先祖様もお前に力を貸してくれよう。悔いがないよう頑張ってくるのだぞ」
「はい。父上」
リーサは大きくうなずいた。そして最後にガンジはリーサに兜をかぶせた。これですべて完了だ。バイザーを下すと顔がすべて隠れる。
(視界が少しさえぎられているけど問題ない。息苦しくもない)
すると老人がそばに寄ってきて耳打ちした。
「誰かに話しかけられても絶対に口をきいてはなりませんぞ。女だと知れたら大騒ぎになりますからな」
「わかりました。この家を出ましたら朝駆けが終わるまで口をつぐみます」
リーサはそう答えた。確かに女が朝駆けに参加していると知れれば、出場をやめさせられるかもしれない。
「では行ってくるがよい!」
「はい。父上!」
皆が見送る中をリーサは家を出て行った。その後姿を母のソリアは心配そうに見送っていた。老人はソリアに優しく言った。
「大丈夫じゃよ。リーサさんは無事にやり遂げてくれよう」
「そう・・・そうでございますね。あのリーサですもの」
ソリアは自分を納得させるかのように大きくうなずいた。
老人はふと目線を少し右に向けた。すると道の先にゲンブとセイリュウが立っていた。老人はキリンを呼び寄せ、耳元でささやいた。
「セイリュウと共に行け! リーサさんを・・・」
「はっ!」
キリンはセイリュウと合流すると、2人でリーサの後を追っていった。さらに老人はゲンブに目で合図を送り、そばにいるガンジに声をかけた。
「さてと・・・ガンジさん。我々も行きますぞ」
「はて、どこに?」
「王宮です。リーサさんの走りを見守ってあげようではありませんか」
「この脚では・・・」
王宮までは遠い。まだ傷の癒えないガンジの脚では歩いて行くのは無理のように思われた。するとゲンブが歩いてそばにきた。筋肉隆々の大男だ。
「大丈夫じゃ。これは儂の供でゲンブと申す者です。あなたを背負っていきますからな」
ゲンブはガンジをひょいと持ち上げて背負った。
「さあ、行きますぞ!」
老人はビャッコを従えて、ガンジを背負ったゲンブとともに王宮に向かった。




