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特訓

 リーサの特訓が始まった。ガンジは少し離れた砂浜にリーサを連れて行き、甲冑と同じ重さの薪を背負わせた。


「これで走るのだ。この重さに負けるようでは朝駆けは無理だ」


 リーサはうなずくと走り出した。だがいつものようにはいかない。背負った薪の重さで足は砂に埋まり、肩ひもが体に食い込んだ。走るどころか、満足に歩ける状態でもなかった。ふらふらするリーサにガンジは厳しい言葉を投げかけた。


「しっかりしろ! 腰を入れて足を前に出すのだ」


 ガンジは足を引きずりながらリーサに近づき、右手の杖で腰を叩いた。


(こんなことでは負けない! きっと走って見せる!)


 リーサは歯を食いしばって何とか前に進んだ。額には大粒の汗が浮かんでいる。苦しげな声を漏らしている。その足取りはまだまだ重かった。だが少しずつだが、速くスムーズに動けるようになっていった。

 その光景を老人がキリンとビャッコとともに遠くから見守っていた。心配になったビャッコが老人に尋ねた。


「あの調子で間に合うんでしょうか?」

「それは誰にもわからぬ。リーサさんのがんばり次第じゃ」


 キリンは苦しむリーサを見ておられず、目を背けていた。


「見ていられませんぜ。いっそのこと俺が・・・」

「いや、それはだめじゃ。部外者が出れば失格となろう。あの2人の親子の熱意は並大抵のものではない。きっとうまくいくはずじゃ」


 老人はきっぱりと言った。



 数日間、ガンジの特訓は昼夜にわたって行われた。リーサの動きは見違えるようによくなり、砂浜を重い薪を背負って普通に走れるようになっていた。ただし息は大きく乱している。

 後はこの走りを持続させねばならない。ガンジがリーサに声をかけた。


「自分のペースを守って走るのだ」

「無駄な力を使うな!」

「はやる気持ちは押さえろ! 自分の力を信じるのだ!」


 それでリーサの走りが安定してきた。息の乱れも少なくなった。長距離を効率よく力を使って走れるようになったのだ。

 それを見てガンジは大きくうなずいた。


「よくやった。これだけ走れれば朝駆けに出ても問題なかろう」

「父上・・・」


 心を鬼にして指導してくれたガンジの優しい言葉に、リーサは涙がこぼれそうになった。


「おっと泣くのはまだだ。明日は朝駆けの日だ。今日はゆっくり休養して明日に備えるのだ」


 ガンジはリーサに優しい笑顔を向けた。リーサも涙を流さずに笑顔を返した。


 その近くの大きな木の陰から老人が一部始終を見ていた。特訓の終わった2人の姿を見て大きくうなずいた。


「これでリーサさんは朝駆けに出られよう。後はお膳立てをせねばならんな」


 老人はそう呟くと呪文を唱えた。すると遠くの空に朱色に輝く鳥が現れて老人に向かって飛んできた。それが一陣の風となってそばを過ぎたかと思うと、若い女がその足元に片膝をついてひかえていた。朱色の頭飾りに朱色の服、そして鮮やかな朱色の靴を履いている。


「御用でしょうか?」

「スザク。すまんが手紙を届けてほしい」


 その老人はまた呪文を唱えると、空中に紙と筆が浮き、それが手紙を書いて老人の手の平に乗った。それをスザクに手渡した。


「これを・・・」

「かしこまりました」


 するとまた一陣の風が吹き、スザクの姿は消えた。空にはあの朱色の鳥が飛んでおり、山の向こうに飛んでいった。老人は懐から水晶玉を出して中をのぞいた。


「やはりな。そう動くか・・・」


 老人はまた呟いた。


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