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王様との出会い

 それは隣村に行くために道を歩いている時だった。いきなり前方から馬が暴走してきたのだ。目が血走ってかなり興奮している。誰にも止められそうになかった。

 リーサは慌てて道から外れた。そして後ろを見ると幼い子供が母親に手を引かれて歩いていた。


(このままでは2人ともはね飛ばされてしまう・・・。)


 リーサはそう思うと、とっさに体が動いた。荷物を放り出して2人の元に駆けて行ったのだ。


「早く逃げて!」


 リーサはそう声を上げて2人を押しのけた。それで母親と子供は道から外れることができた。だがその彼女に暴れ馬が迫ってきた。このままだとぶつかってしまうと思ったリーサはその場に転がった。

 一方、暴れ馬は止まったものの、「ヒヒーン!」と前脚を上げて立ち上がった。その蹄がリーサを踏み潰そうとしている。彼女は恐怖で声も出せず、目をつぶって


(助けて! 誰か助けて!)


 と心の中で叫んでいた。だがその馬はそれっきりおとなしくなった。リーサはそっと目を開けた。


「どう! どう! どう!」


 その暴れ馬の手綱を取って押さえてくれる人がいたのだ。それは立派な身なりをした青年だった。彼が馬を走らせて来て、その暴れ馬を止めたのだった。


「大丈夫か!」


 その青年はリーサに声をかけた。


「ええ。大丈夫です」

「すまぬな。家来の馬がいきなり暴れ出したのだ」


 その青年はそう言って2頭の馬の手綱を近くの木に結び、リーサたちのそばに来た。母親と子供は無事なようだ。だがリーサは転がった時に右腕に傷を負っていた。少し血が流れている。青年はそれに気づいた。


「ケガをしているではないか!」


 そして首巻の布を外し、それで右腕にギュッと巻き付けた。


「これでよかろう。私は見ていた。そなたがその母親と子供を救ったのだな。礼を言うぞ」

「い、いえ。それほどでも・・・」


 リーサはその青年の優しい微笑に胸が高鳴っていた。すると後ろから彼の家来と思われる剣士が走ってきた。


「おう! ここだ!」


 青年が声をかけるとその家来が駆け寄って跪いた。そしてリーサたちの声をかけた。


「これ! 無礼であるぞ。このお方はトキソ国のアデン王子様だ」

「えっ!」


 リーサも母親もあわてて跪こうとした。


「いや、よい。そのままで。迷惑をかけて悪かった。これから私は王宮に行く。何かあったら参れ! ではな」


 その青年は笑顔で馬に乗り、家来とともに駆けていった。リーサはその姿をうっとりと眺めていた。


 ――――――――――――――――――


 その日からリーサは女官を目指そうと思った。あの王子様に王宮でまたお会いするために・・・。傷に巻いていただいた布は今だに大事にしまっている。彼女は時々それを取り出しては王子様のことを思い出していた。


 実はその時、アデン王子はたまたま王様の病気見舞いのためにこの国に一時的に戻られただけで、普段はメカラス連邦の首都に住まわれていたのだ。だが王様が亡くなり、半年前から王都に戻って即位されたとリーサは父から聞いていた。だから王宮に入れば会うことができるかもしれない。・・・だが彼女はそんなことを誰にも言えず、心の中にしまいこんでいた。


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