旅の老人
老人の一行はリーサに案内されて彼女の家に来た。そこは田舎の旧家という感じで古くすすけていたが、この村では大きな家だった。リーサは家に入ると奥に声をかけた。
「母上。ただいま! お客様を連れてきました」
するとソリアが出てきた。
「これはこれは。よくいらっしゃいました」
「旅のお方です。宿屋がなくて困っておられたのでお連れしたのです」
リーサの言葉を受けて、老人たちはソリアに頭を下げてあいさつをした。
「旅の方術師でライリーと申します。これは供のキリンとビャッコです。宿がなくて困っているところに、こちらのお嬢さんにお声をかけていただきました。ご迷惑とは思いますが、泊めていただけないでしょうか」
「それはもう、大歓迎ですわ。迷惑とは思われずにどうぞお泊りください。もうすぐ主人も帰ってくるでしょう。きっと喜ぶと思います。旅の方のお話を楽しみにしておりますので」
ソリアは笑顔で迎えてくれた。
「ご厄介になります」
老人たち一行はその家に泊まることになった。
◇
夕刻になりガンジは家に戻ってきた。そこにソリアとリーサが出迎えた。家を出る時より表情が明るくなったガンジを見て、リーサは父に何かいいことがあったと思った。
「お帰りなさいませ。お疲れでしょう」
「いや、大丈夫だ」
「今日は旅のお方をこの家にお泊りいただくようにいたしました。宿がなくて困っておられたので」
「それはよい。共に食事をしよう。旅の話を聞くのは楽しいからな。すぐに支度をしてくれ」
ガンジは笑顔でソリアに言った。やがて旅の老人たちが出てきた。
「ご厄介になっています。私は旅の方術師のライリーと申します。これは供の者です」
「さあ、よく来られた。何もありませんがどうぞおくつろぎください」
ガンジの家族に老人一行を加えてなごやかな夕食となった。
「旅を続けられているそうで・・・」
「はい。様々なところに行ってまいりました。例えばキハヤ国・・・」
老人は様々な国のことを話しだした。それはガンジについて興味深いものだった。その国の状況、人々の様子、町の賑わいなど・・・ガンジは知らず知らずのうちにこのトキソ国と比べていた。
「この国にもそういったことがあれば・・・」
ガンジは思わずそう言葉を漏らしていた。それを聞いて老人が尋ねた。
「この国の様子はどうなのですか?」
「それは・・・飢饉続きで皆、苦しんでいる。それなのに重い税の取り立て。王様をないがしろにして腹黒き重臣どもが牛耳っている・・・」
ガンジは勢いに任せて普段から思っていることを吐き出していた。老人はそれをうなずきながら真剣な顔で聞いていた。
「あなた、お客様の前で・・・」
さすがに横にいたソリアがたしなめた。ガンジははっとして口を閉ざした。(見知らぬ旅の者を前にして、これは言い過ぎた)と思ったようだ。
「これはすまぬ。つい愚痴が出て・・・」
「いえ、ご主人はこの国のことを思い、憂慮しておられるのでしょう」
老人は微笑みながら言った。そしてもう一言を加えた。
「しかしご主人。それであなたはどうされるのか・・・陰で言うだけなら誰でもできますからな」
そう言って老人はじっとガンジの目を見た。まるで心の内を見透かすように。一方、ガンジも真剣な目で老人を見た。自分のことを探ろうとしているこの老人は一体、何者であろうかと・・・だがその詮索はやめた。一介の騎士の自分などに興味を持つ者などないと思ったからだ。
「ははは。湿っぽい話になってしまった。もっと楽しい話が聞きたいものだ」
「そうでございますな。それなら・・・」
老人はまた別の旅の出来事を話し始めた。
リーサはその老人を不思議そうに見ていた。ただの優しい老人と思っていたが、その話からは学識の高い立派な人物に見えてきた。それに人を引き付けるオーラもある。彼女もその老人がただ者ではないことを感じていた。




