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方術師

 リーサは今日も学校で届け物を頼まれていた。帰り道にあちこちの家を回った後、最後にニベエの山小屋に立ち寄った。


「こんにちは!」


 リーサが声をかけるとニベエの妻が出てきた。その様子は何だか慌てていた。


「いいところに来てくれた! 旦那が苦しがっているんだ! 医者を呼んできて!」

「えっ! それは大変!」


 小屋の中ではニベエが苦しげな声を出してのたうち回っている。リーサはすぐに元来た道を走りだした。だがエランガの町までは遠い。医者をそこからつれてくるとなると時間がかかりすぎる。


(どうしよう・・・)


 とにかくリーサは走り続けていた。すると途中で旅の一行とすれ違った。優しい顔をした老人とお供の男が2人、コムギ村に向かっているようだった。


「娘さん。どうかされましたか?」


 老人が走り過ぎるリーサに声をかけた。彼女が慌てて走っていく姿が気になったのだろう。


「急病人です。町のお医者さんを呼びに行こうと思って・・・」


 リーサはその場に立ち止まると振り返って答えた。


「儂たちもそこから来たのじゃが、ここからだとかなり時間がかかる。儂は方術師だが、人を診ることもできます」

「えっ! 本当ですか!」

「ええ、そこに案内していただけるかな」

「もちろんです!」


 リーサはその老人の一行を連れて山小屋に戻った。中ではニベエが苦しがっている。老人は一目見るなり言った。


「これは気が乱れているだけじゃ」


 老人はニベエのそばに寄り、その手を取って呪文を唱えた。するとあれほど苦しんでいたニベエはすっきりしたかのように穏やかに眠り始めた。


「これでよし。しばらく寝ておるが、目覚めたらもう治っているはずじゃ」

「ありがとうございます! ありがとうございます!」


 ニベエの妻は何度も頭を下げて礼を言った。

 リーサはその光景を驚きながら見ていた。こんな不思議な治療をする人など見たことがない。この老人は何者だろうか・・・疑問が次々に湧いてきた。

 老人はそのリーサの視線に気づいた。


「娘さん。珍しかったようじゃの。儂は旅の方術師。普段は自然を相手にしているが、人間とて同じこと。こんな風に人を癒すんじゃ」

「初めて拝見しました。すごいですね」


 リーサは話しながら、はっと気づいた。


「あっ! もうじき暗くなる。じゃあ、私はこれで家に帰ります」


 リーサは小屋を出た。日暮れまでもうすぐになっていた。山の陰に日が沈もうとしている。早く帰らねば・・・と思っていると、老人たちも小屋を出てきた。


「ちょっとお尋ねするが」

「何でございましょうか?」

「この近くに宿屋はないかな?」

「いえ、この辺りには宿屋はございませんが・・・」

「これは困った。もうすぐ日が暮れるというのに・・・」


 老人は困ったようにため息をついた。山小屋は狭くて泊まれない。野宿しかないが、お供の男ならともかく、こんな老人には体に毒だ・・リーサはそう思った。たまに宿に困った旅人がコムギ村に来ることがある。そんな時は父や母は喜んで彼らを受け入れたことがあった。幸いにも古い家だが部屋数は多くある。


「もしよければ私の家においでになりませんか?」

「それではご迷惑に・・・」

「いえ、以前にも困っている旅のお方にはお泊りいただいたことがあります。きっと父や母も喜んで迎えてくれると思います」


 リーサは優しく言った。


「それはありがたい。ではそのお言葉に甘えさせていただきます」


 老人はうれしそうに言った。


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