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訴え

 朝駆けの日が間近になり、ガンジの鍛錬にも熱が入ってきた。中年に差し掛かる年になったが、彼の脚はまだ衰えることはなかった。ガンジは数少ない完走組の常連の一人であり、去年は彼が一番乗りで先の王様から褒美の品を受け取っていた。

 ガンジは朝、夕と走っていた。家を出る時、妻のソリアと娘のリーサがいつも笑顔で送り出してくれていた。


「では行ってくる」

「行ってらっしゃいませ。ご無理をなさいませんように」


 ソリアもリーサも朝駆けに出るガンジを誇りに思ってくれているようだった。ガンジはその家族のためにも


(今年も何とか一番乗りを勝ち取ってやる! 新しい王様の前で私が栄誉を受けるのだ!)


 と思っていた。今も足の調子はよく、誰にも負けぬという自信があった。彼は毎日様々な道を走り、多くの村を通っていた。ただそこで彼は村人たちの不満を以前よりもよく耳にするようになっていた。


「去年より不作なのに税が上がるなんてどういうことだ」

「ああ、従わねば重い罰を課せられるというぞ」

「牢に入れられるのか?」

「それだけじゃねえ。村の者すべてが分担して負担することになる。懲罰分を加えてな」

「そんな! それじゃあ俺たちに首をくくれというのと同じじゃないか!」

「それより逃げ出そうか。もっといい国があるかもしれない」


 それは多くの村々で聞かれた。ガンジの見るところ、確かに今年も作物の出来はよくない。これで税を上げられたら村の者の多くは困窮を極めるかもしれない。いやそればかりか、村から夜逃げする者も増えてこよう。


(これはおかしい。上の方々にはこの村の現状が見えておらぬのか?)


 ガンジは思った。彼はよく見知っている見回り組の上役にこのことを相談した。


「村を回っておりますと・・・」


 ガンジは村の様子を上役に説明した。そして、


「このままでは立ち行かぬ村も増えてきましょう。何とかならぬのでしょうか。できましたら村の代官殿にお話しするとか」

「そんなことはお取り上げにならぬ。その様なことは王宮のもっと上の方がお決めになっているのだ」


 ガンジの訴えに上役は首を横に振った。


「よいか。我々の言葉など王宮におられる方々は誰も聞いては下されぬだろう。あとは直訴でもせぬ限り」

「直訴でございますか・・・」


 だが直訴はご法度であり、家族全員が重い罪に問われる。それに王様はずっと王宮の中におられ、訴え出る機会もない。だが・・・。


「一人だけ心当たりの方がいます。その方にご相談して参ります」


 ガンジは思いついて、すぐに外を走って行った。


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