表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/41

第五話 無限の魔力


「やれやれ……」


 朝方。

 俺、黒の大賢者エクリプスはルテティア皇国の海岸部にいた。

 王に会いにいったら、ついでに海岸部に出現する〝魔物〟の討伐を頼まれたのだ。

 どうやら海上に突如現れ、貿易船を襲っているらしい。おかげで港から船が出られないし、他国からの船も止まってしまっている状況らしい。

 ほかの奴にやらせろと言いたい。

 俺はやるべきことをやった。便利屋扱いするな、と。

 けれど、海上の問題はベルラント大公国に波及する。というか、すでに波及している。

 ルテティア皇国側の海路に問題が出るということは、その奥にあるベルラント大公国にも船が行かないということだ。

 一大事だ。なにせ俺の父の領地は海岸部。港は大事な収益源だ。

 さっさと片付ける必要があると感じて、俺はルテティア皇国の海岸部に飛んだのだ。


「しかし、いきなり海の魔物が現れるのも妙な話だ」


 魔物。

 それは二千年前、この大陸を支配していた〝魔族〟という種族が獣に手を加えて作り出したものだと言われている。

 今では人類に害をなす獣全般に使われることだが、狭義、つまり魔族が作り出した魔物に関しては、大抵は強力すぎて放置するしかない。

 魔族は今の人類より遥かに強かったらしく、その魔族が作った魔物も相当強い。

 人類が大陸の支配権を獲得できたのも、魔族が天変地異や内部分裂で弱体化したからだと言われている。

 とはいえ、二千年前の話だ。

 ほぼ神話に近い。

 ただ、魔物という形で当時の魔族の恐ろしさは受け継がれている。

 海上に移動して、俺はゆっくりと魔力を高めた。

 それに反応してか、海面の色が一気に濃くなった。

 否。

 海面に何かが浮上してきたのだ。


「デカいな」


 俺は呟きつつ、俺を脅威とみなして浮上してきた魔物を見下ろす。

 体長は数十メートル。

 それは巨大な白い蛸だった。


「クラーケンか……」


 貿易船では歯が立たないわけだ。軍船でも取りつかれたら成す術がないだろう。

 無数の足が俺に向かって伸びてくる。

 自分を攻撃してくる可能性がある俺を、一足先に海に引きずりこもうという魂胆だろう。

 俺はそれをよけつつ、魔法の準備に入る。

 確かに魔物は強力だ。

 クラーケンは間違いなく狭義の魔物。二千年前に魔族が生み出した生物だ。

 さすがに二千年間生きてきた個体ではないだろうが、それでも並みの者では相手にもならない。ほぼ自然災害だ。

 大抵の国は諦めて、クラーケンがいなくなるのを待つしかない。

 嵐と変わらないからだ。

 けれど、ルテティア皇国は違う。

 俺がいる。


「しつこい!」


 どうにか俺を捕まえようとしてくる足が邪魔すぎる。

 本気を出せば、素手で足ぐらい吹っ飛ばせるが、それは剣聖としての俺の力だ。

 今は大賢者エクリプス。

 どこで誰が見ているかわからない。ボロは出せない。

 剣聖と大賢者。両者を演じる以上、互いの長所で戦う必要がある。

 肉弾戦は剣聖の得意分野だ。

 大賢者の得意分野は当然、魔法。


「迸れ、神威の雷光――【神雷槍(ケラウノス)】」


 上空。

 そこに出現した魔法陣から巨大な雷がクラーケンに向かって落ちてくる。

 俺を海に引きずりこもうとしていたクラーケンは、とっさに潜航しようとするが間に合わない。

 巨大な雷の槍がクラーケンに刺さり、その光でクラーケンを焼いていく。

 その雷光はクラーケンが絶命してもやまず、その体を焼き消していく。

 すべてが終わったとき、クラーケンの体は消し炭になっていた。

 魔物たちはたしかに魔族の強大さを現在に伝えている。

 神話の世界の話だと思いながら、魔物の存在が魔族の恐ろしさを思い起こさせるし、作り話だと笑わせない。

 けれど、現在にそれを伝えるのは何も魔物だけじゃない。

 上古の〝神淵魔法〟。

 文献だけに出てくる伝説の魔法。

 大陸の覇権をかけて魔族と人類が争った時。

 魔族の中から人類に味方する者がいたそうだ。

 その者は魔族の中でも一際強く、多くの同胞たちを返り討ちにして人類の快進撃を支えた。

 名前は残っていない。

 ただ、魔族の英雄と呼ばれるその者が使っていた魔法だけは知られている。

 〝神淵魔法〟。

 神々の力を再現するその魔法はあまりにも強力で、魔族の中でもその英雄しか使えなかったそうだ。

 それを俺は操る。

 魔族に比べて、すべてにおいて劣る人類。

 その人類種である俺がなんでそんな大層な魔法を使うことができるのか?

 それにはもちろんカラクリがある。

 とはいえ、そんな難しいカラクリじゃない。

 単純に俺の魔力が無限だから、というだけだ。


「さて、帰るか」


 俺は呟き、瞬時に転移する。

 転移魔法ということにしているが、別にこれは転移魔法なんかじゃない。

 大陸中には魔力が流れる〝星脈〟というラインが無数に存在する。そこを通っているだけだ。

 だが、普通の人はそんなことできない。というか、魔族でもできない。

 俺がどうしてそんなことができるのか?

 その星脈の集合意識である〝星霊〟が俺のことを気に入っているからだ。

 それこそ魔族なんかよりさらに希少。

 一部の文献でのみ語られる〝星霊の使徒〟。

 星脈から無限に魔力を供給される異次元の存在。

 それが俺だ。

 ゆえに俺は先代の剣聖と先代の大賢者に後継者として育てられた。

 正確には俺だけではなく、レナも〝星霊の使徒〟だが。

 当初、俺が剣聖の弟子に、レナが大賢者の弟子になるはずだった。

 けれど、レナに負担をかけたくなくて。

 俺は両方を自分が引き受けると言った。

 最初はとりあえずやらせてみるか、と先代たちは俺を稽古したわけだが。

 彼らは〝星霊の使徒〟を甘く見ていた。

 鍛えてみたら、剣聖であり大賢者が出来上がってしまったわけだ。

 しかも尽きない魔力のおまけつきだ。

 そんなに強いならさっさと帝国を滅ぼせというかもしれないが、帝国にも相当数の化け物がいる。

 それに、下手に俺の存在が表沙汰になれば、五年前の子供がレナだとバレかねない。

 帝国にバレたら最後、どんな運命が待っているか想像もしたくない。

 だからこそ、俺はアルビオス王国とルテティア皇国を守らなければいけない。

 家族に帝国を近づけさせないために。




■■■




 部屋に戻ると俺は制服に着替え始めた。

 もう昼休みだろうか。

 そろそろレナが起こしに来る頃だろう。

 そんなことをボーっとしながら考えていると。


「どうしてあなたがここにいるんですか!?」

「見取り稽古のためよ。なにかおかしいかしら? 近くで見た方が気づくことも多いわ」


 外から何やら不穏な言葉が聞こえてきたのだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ