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第三十七話 右手の魔剣


 帝国軍の攻撃に対して、俺は竜闘士の剣を押し返し、左手一本で対処した。

 自分に迫る弾だけ弾き落とす。

 だが、迫ってきているのは魔導銃の弾だけじゃない。

 砲撃も迫ってきている。

 距離があるため、狙いは大雑把だ。

 しかし、そのうち当たるだろう。

 俺の動きを抑えていた竜闘士は巻き添えを食らい、すでに下がっている。

 ここに留まる理由もない。

 俺はバッハシュタインの体に刺さった剣から手を離すと、その首根っこを掴んで、その場を離れた。

 すると、今までいた場所に砲撃が着弾した。

 土煙が上がり、帝国軍の射撃と砲撃が止んだ。


「さすがの剣聖といえど……逃げるしかないか……」


 バッハシュタインは血を吐きながら笑う。

 自分たちの攻撃が効果的だと判断したんだろう。

 それには何も答えず、俺はバッハシュタインから剣を引き抜く。

 血が噴き出し、よろよろとバッハシュタインは下がっていく。

 だが、倒れることはない。


「無敵ではないのだ……剣聖とて……」

「確かにその通りだ」

「斬れば死ぬ……撃てば死ぬ……帝国軍!! 奮い立て!! 白の剣聖の不敗は……今日こそ我らが終わらせる!!!!」


 死にかけの将軍の呼びかけに対して、土煙の向こうから帝国軍が雄叫びで応じた。

 そして帝国軍は一歩ずつ前進を始めた。

 さらに。


「おやまぁ……」


 前進する帝国軍の周りにどんどん魔物が出現し始めた。

 見れば、先ほど刺した魔族、クラルヴァインが起き上がっていた。

 辛そうな表情を見る限り、深手なのは間違いないだろう。

 それでも起き上がり、無数の魔物に加えて、さらにもう一体の竜闘士を出現させている。

 死ぬ前の最後のあがきという奴か。

 それを見て、さらに帝国軍の士気が上がった。

 後ろでは大型の魔物も前進を開始している。

 行けるぞ、という雰囲気が伝わってくる。


「大公国の首都は惜しいが……剣聖の首のほうが帝国にとっては有意義だろう」

「気になっていたんだが、なぜ帝国に忠義を尽くす?」

「わからんだろうな……食料の少ない土地に生まれた我らは……外に出るしかなかった……陛下は帝国臣民のために……侵略者の汚名を被ったのだ……」

「立派だな。しかし、いまだ侵略をする理由にはならない。すでに十分豊かだろうに」

「走り出した国は止まれん……一つ国を落とせば、さらにもう一つ……すべての国を傘下に収めるまで……帝国は止まらん……」

「そちらにはそちらの考えがあるか。正義だ、悪だ、というつもりもないが……こちらにも抵抗する権利がある」


 俺はゆっくりと右手の剣を前に出す。

 ここで大公国が落ちれば、大公国の民は王国と皇国を攻める先兵とされるだろう。

 止まれない理由はそれだ。

 怨嗟が自分たちに向くことを避けるため、さらに敵対者を作り出す。

 止まれば何もかも崩壊しかねない。

 それでも帝国は止まるべきだが、今の皇帝はそれをしない。

 若くして皇帝に即位した現皇帝は戦しか知らないからだ。

 個人の欲なのか、それとも何か事情があるのか。

 俺にはわからない。

 けれど。


「個人に阻まれるような国は大陸制覇に相応しくはない。いずれ反乱で滅びるだろう。ここで足を止めておけ」

「だからこそ……我らは貴様を……討つのだ!!」


 もはやまともに動かないだろう体を気力だけで動かし、バッハシュタインは俺に拳を振り上げてきた。

 その拳を俺は一歩下がり、躱すとフラフラと倒れそうなバッハシュタインに告げる。


「その気概だけは認めてやる。冥土の土産にオレの魔剣を見せてやろう」


 右手の剣に魔力を込める。

 そして俺は静かに告げた

「魔剣――絶空」


 俺の剣は真っ黒な黒剣へと変化する。

 一見、それ以外になんの特徴もない平凡な両刃の片手剣。

 俺はそれを一振りする。

 斬撃を受けたバッハシュタインは目を瞑るが、なんの変化もない。

 そのことにバッハシュタインは笑う。


「剣聖の魔剣はなまくらか……」

「たしかになまくらかもしれん。こいつは魔剣というには少々、相応しくない」


 バッハシュタインの後方。

 前進する帝国軍と出現した無数の魔物たち。

 そこに黒い亀裂が生まれていた。

 それは徐々に広がると、周囲を呑み込み始める。

 異変に気付いたバッハシュタインは後ろを振り返る。


「なん、だと……?」

「空間を裂く魔剣。剣技も何もあったもんじゃないのでな。あまり好みではない」


 亀裂は貪欲なまでに周りのものを吸い込んでいく。

 帝国軍は耐え切れず、悲鳴をあげてどんどん呑み込まれていく。

 それは大型の魔物もそうだ。

 何とか踏みとどまろうとするが、その巨体であっても耐えることができず、亀裂へと吸い込まれていく。

 どういう仕組みになっているのか、亀裂より大きなはずの大型の魔物が一体、亀裂に吸い込まれた。

 もはやなんでもありだ。

 そのことに驚愕しながらバッハシュタインは膝をつく。

 そして気力の絶えたバッハシュタインも亀裂へと吸い込まれていくのだった。

 何とか耐えているのは、二体の竜闘士に支えられた魔族のクラルヴァインだけ。

 それも時間の問題だろう。

 徐々に吸い込まれている。


「貴様は……何者だ……? 人間がなぜ、これほどの……!?」

「知らずに来たのか? 教えてやろう。オレは白の剣聖。アルビオス王国の守護神だ」


 俺は絶空をさらに一振りする。

 それだけで、二体の竜闘士は真っ二つになった。

 空間を裂くこの魔剣に防御は関係ない。もちろん距離も。

 視界にいるかぎり、すべてが一撃必殺の射程圏内だ。


「馬鹿な……馬鹿な!!!!」


 クラルヴァインは叫びながら亀裂へと呑み込まれていった。

 無数の魔物も帝国軍も、大型の魔物も。

 すべてが亀裂に呑み込まれたのを確認し、俺は絶空の力で亀裂を閉じた。

 これで帝国軍の潜入部隊はすべてだろう。

 俺は剣を鞘に収めると、学院の正門へと移動する。

 そして。


「盟約は果たした。オレは失礼する。陛下への報告があるのでな」


 それだけ告げると、俺は急いでその場を離れる。

 やることが山ほどあるからだ。

 剣聖として国王に報告。

 大賢者として蔑ろにした皇王への説明。

 そして領地へ戻って、ロイとして学院への帰還。


「やれやれだな、まったく」


 呟きながら俺は王国へ向かったのだった。



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