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第二十九話 国王


 剣聖クラウドとしての支度を整え、俺は城へ向かった。

 そろそろヴァレールが王国に到着している頃だ。

 最速の魔導師の名は伊達じゃない。

 俺のような裏道を使わないなら、ヴァレールの移動速度は最速の名に違わない。

 実際、ヴァレールは俺の予想より早かった。


「陛下に取り次いでもらいたい!」

「無茶を言わないでください! 陛下は会議中です!」

「会議より大切なことだ! 急げ!」

「し、しかし……」


 ヴァレールは玉座の間の近くで衛兵に止められていた。

 ヴァレールなら侵入もできるだろうが、礼儀を重んじているんだろう。話を聞いてもらうためには仕方ない。

 だが、今は礼儀を重んじている場合じゃない。


「十二天魔導、風魔のヴァレール殿とお見受けしたが?」

「……白の剣聖クラウド……ちょうどいいところに来たな。話がある」

「それは国境に迫る帝国軍の大軍のことか?」


 クラウドとしても情報は掴んでいる。

 それを印象付けるために、俺は国境のことをチラつかせた。

 それに対して、ヴァレールは首を横に振る。


「それだけで俺が来るわけがないだろ?」

「それもそうか。ついてこい」


 俺は衛兵に下がるように伝え、ヴァレールと共に玉座の間へ向かう。


「手短に説明を」

「国境の大軍は囮だ。本命は大公国の首都。すでに部隊が潜入している」

「黒の大賢者はなんと?」

「国境の大軍は自分が引き受けると。その代わり、剣聖には大公国の救援をお願いしたい」

「心得たと言いたいところだが、それには国王の許可が必要だ」

「そうだろうな」


 ヴァレールはため息を吐きながらも、気持ちを切り替えた様子だ。

 元々、そのつもりだろうしな。

 俺は扉を躊躇なく開く。

 中では国王アルバートがタウンゼット公爵たちを始めとする重臣たちと会議をしていた。


「剣聖殿! 今は会議中ですぞ!」

「国境付近に帝国軍の大軍が接近しています。それについて皇国の十二天魔導の一人、ヴァレール殿からお話が」

「このような形で拝謁をお許しください。十二天魔導第七位、風魔のヴァレールと申します」

「噂は聞いている。最速の魔導師と呼ばれる貴公が来たということは、急ぎだな?」

「はっ!」

「話を聞こう」

「陛下!?」


 重臣たちの声を無視して、アルバートはヴァレールに話を促す。

 すると、ヴァレールは一歩進み出た。


「王国、皇国に向けて帝国軍は四十万の大軍を発しました」

「よ、四十万!!??」

「なんだ、その数は!?」

「七穹剣を今すぐ国境へ!」

「今から動いて間に合うのは剣聖殿くらいだ!」


 重臣たちが慌て始めるが、アルバートは気にせずヴァレールの話に耳を傾ける。

 その程度でヴァレールが来るわけがないと理解しているからだ。


「しかし――その大軍は陽動です。本命は大公国の首都。すでに大公国内に部隊が潜入しております。作戦決行日時はわかりませんが……こちらの動きを察して、すぐに動き出すと思ったほうがよいかと」

「三国に楔を打ち込むか……」


 いつになく深刻な顔つきでアルバートは告げる。

 穏健派であるアルバートは同盟の大切さをよく理解している。

 剣聖の力を過信してもいない。

 三国が連携しているからこそ、帝国に対抗できているとわかっているのだ。


「ここからは黒の大賢者からの提案です。四十万の大軍はすべて引き受ける代わりに、白の剣聖を大公国に派遣していただきたい」

「言っている意味がわかっておられるか? 我が国に防御を捨てろ、と? 四十万の大軍を目の前にして」

「はい。それしか手がありませんので」


 ヴァレールは真剣な顔つきでそう言い切った。

 そして。


「これは三国の盟約に関わる話です。どうか、提案をご承知いただきたい」

「ふざけるな! 大賢者が失敗したらどうする!?」

「そうだ! 我が国だけがリスクを負うのは理不尽すぎる!」


 重臣たちは一斉に反対を唱える。

 だが、ヴァレールはジッとアルバートだけを見つめている。

 アルバートは目を閉じて、深呼吸をしている。

 この決断を間違えるわけにはいかないからだろう。


「この話……皇王陛下はご存じか?」

「いえ、私と大賢者の独断でございます」

「なんだと!?」

「話にならん! 我らに要求したいなら皇国として要求するのが筋のはず!」

「つまみ出してしまえ!」


 もっともな反応だ。

 いくら大賢者とヴァレールが皇国の重要人物とはいえ、あくまで個人。

 その話に王国が乗る義理はない。

 だが、アルバートは苦笑を浮かべていた。


「十二天魔導の地位を得ながら、なぜそんな危険を冒す?」

「私はあまり人に信用されない性質でございますが……これだけは信用していただきたい。私は祖国を守りたいと思っています。地位や名誉は二の次です」

「祖国のためか……」

「はい。大公国が落ちれば三国同盟は崩壊いたします。首都が落ちてから解放しても意味はありません。落ちる前に助けなければ!」

「言いたいことはわかった。もっともなことだ」


 アルバートはそう言ったあと、俺に視線を向けてきた。

 優しい眼差しだ。


「クラウド、貴公は……どう思う?」

「大公国が落ちれば三国に亀裂が入るというのは間違いないでしょう。しかし、そう思っているなら皇国が大賢者を除く十二天魔導を派遣する、というのも手かと」

「できるならやっている。十二天魔導は集めるだけでも大変なのだ。しかも、そのためには重臣たちと協議が必要だ」

「では、アルビオス王国も協議が必要かと」

「陛下!! 皇国の者がこのようなことを言うのはおかしいかもしれませんが……この事態の深刻さ、陛下ならわかってくださると思い、ここまで来ました。皇国はすぐには動けない。頼みの綱は王国だけなのです!」


 ヴァレールはそう言って膝をつく。

 それに対して、重臣たちも膝をついた。


「陛下! 重要なことゆえ、協議するべきです!」

「軍部の者も呼び、しっかりと話し合いましょう!」

「陛下!」

「陛下!」


 ヴァレールと重臣たちに挟まれたアルバートは天井を見上げる。

 そして。


「クラウド……貴公はどうしたい?」

「聞くまでもないことを。陛下のお気持ち次第です」

「私にすべてをゆだねるというのか?」

「〝剣〟は……振るう者次第ですから」


 俺の言葉を聞き、アルバートは笑う。

 いつも気ままに動く奴の言うことじゃないからだろう。

 だが、それでアルバートの心は決まったらしい。


「白の剣聖クラウド。貴公に命じる。三国の盟約に従い、大公国の救援に赴け。我が国の威信にかけて、必ず帝国軍の動きを阻止し、大陸中に見せつけてくるのだ。我が国は同盟国を見捨てない、と」

「――御意」

「陛下! お待ちください!」

「お考え直しを!」


 重臣たちが考え直すように告げるが、アルバートは彼らを一瞥して告げた。


「もう決めたことだ。王の決定に文句は言わせん」


 アルバートはピシャリと言い切ると、俺に向けて静かに命じた。


「行け」

「はっ!」


 一礼して、俺は早々に立ち去る。

 そのまま一度、城から姿を消す。

 ヴァレールがいる前で、大賢者のような好き勝手はできない。

 あくまでどこにでも好きに移動できるのは大賢者の特権だからだ。

 そのまま、俺は黒の大賢者としての姿に切り替えると、王国と皇国のちょうど中間にあたる国境へと飛ぶのだった。



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