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第二十一話 昔の夢


 昔の夢を見た。

 アネットが家族のことを話したからだろうか。

 八年前。俺がまだ子供の頃、ルヴェル男爵家に二人の客人が来た。

 男と女。

 どちらも只者じゃないのは子供でもわかった。

 けど、難しい話は子供の俺にはわからなかった。

 レナと共に部屋にいなさいと言われて、話は父上がしていた。

 気になって、こっそり部屋を出て聞き耳を立てに行った。

 そこで聞いたことがないほど、怒気のこもった声で父上が言葉を発した。


「……ワシの息子と娘を次期剣聖と次期大賢者として育てるだと……? 自分で望むならまだしも、大人の都合で決めてよいことではない!!」


 当時の俺は剣聖とか大賢者は異国の強い人という印象しかなかった。

 だから、それになるということがどれほどのことか。

 理解していなかった。

 けれど。


「お気持ちはわかるが、いつまでも無関係というわけにはいかない。王国か皇国、どちらかが落ちれば、次は大公国が落とされる。そう理解しているからこそ、貴公は過激派を排除し、三国を同盟させる流れを使ったのであろう?」

「帝国の脅威など百も承知! だからこそ、同盟成立にすべてをかけた! その三国同盟のためにワシは自らの信用とシドニーを……妻の命を失ったのだぞ!! にもかかわらず、子供たちまでワシから奪う気か!? ワシはやるべきことをやった! もはや三国の危機など知ったことか! そんなことより子供の未来じゃ!! 下手をすれば一生、王国と皇国の奴隷となる! 危機がどうした! 子供の未来は子供が決めることじゃ! 帰れ!」

「我々も承知しているが、事は三国の未来に関わる。どうかご子息とご令嬢を我々の弟子に! 二人には才能がある!」

「断る! 帰れ!」

「……帰るわけにはいかない。いざとなれば力づくも視野に入れさせていただく」


 喋っているのは女性だけ。

 男性はずっと黙っている。

 女性の物言いに父上はより怒った。

 そして。


「盗み聞きは感心しない。出てきなさい」


 男性がそう言って俺の方を見てきた。

 バレていたことに驚きつつ、俺は姿を現した。

 父上が目を見開き、すぐに俺の方へ寄ってくる。


「ロイ、部屋に戻っておれ」

「父上……」

「大丈夫じゃ、父に任せておれ」

「ルヴェル男爵……お言葉だが、あなただけでは二人を守り切ることは不可能。二人は特殊すぎる。いずれ帝国の魔の手が二人に襲い掛かる。その時になってからでは遅いとお分かりのはず」

「貴様らの物言いは気に食わん! ワシの息子も娘も道具ではないのだ! 理路整然と語れば受け渡すとでも!? 子供が子供でいられるように守るのが大人の務めのはず! ワシは決して渡しはせん!!」


 ここまで感情的な父上を見るのは、初めてだった。

 だから俺はそっと父上の手を握った。

 事態の重さは理解していなかった。

 わかっているのは、俺とレナに修行をつけたいという人たちと、つけさせたくない父上がいるということ。

 そして将来的に俺とレナが危ないということ。

 俺は勇気を出すことにした。

 ここで勇気を出さなければ後悔しそうだから。

 後悔しそうと思うなら、それはやるべきなのだ。後悔しないように。


「ロイ……?」

「父上……レナが危ないんですか?」

「そんなことはない。部屋に戻りなさい」

「……危ないなら俺は守りたい。だから、もしも修行をつけるなら俺だけにしてください。俺はレナのためなら修行を受けられます」

「ロイ! お前は言っていることの意味がわかっておらん!」

「大丈夫です! 俺がレナの分まで強くなりますから! ですからお二人が俺に修行をつけてください!」


 そう言って俺はその場にいた三人の大人を困惑させた。

 そこにいた二人は先代の剣聖と先代の大賢者。

 二人に修行をつけてほしいということは、剣も魔法も極めるということだ。

 さすがに無理だろうと思いつつ、修行は開始された。

 父上は修行を受けると俺が聞かないため、俺への修行だけはしぶしぶ許可したのだ。

 ただ、三人の大人は俺を過小評価していた。

 というより、異質すぎる〝星霊の使徒〟という存在を計り切れていなかった。

 お試しで始まった修行はすぐに本格化した。

 先代たちが剣も魔法も極められると踏んだのだ。

 そして剣聖であり、大賢者という存在が誕生することになった。




■■■




「お兄様、お兄様! 起きてください!」

「ううん……朝か……」

「昼です! 今日はどうなさいますか?」

「眠い……」

「まったく……お兄様は……」


 ぶつぶつ言いながら、レナは俺が心地よく寝られるように布団を整える。

 なんだかんだ兄に甘い妹だ。


「なにか飲まれますか?」

「水置いておいて……」

「もう用意してあります。ここに置いておきますね。では、失礼します」


 至れり尽くせり。

 こんなに兄を世話してくれる妹はあまりいないだろう。

 レナが部屋から出ていくの感じながら、俺はため息を吐く。

 懐かしい夢を見てしまった。

 すべてが始まった日の夢。

 病弱な妹を守りたいという一心で始まった修行の結果、俺は剣聖になり、大賢者となった。

 レナは何も知らない。

 知らなくていい。きっと重荷に感じてしまうから。

 いずれ話す時が来るにしても、もっと先。レナが受け止める準備ができるまで待つべきだ。

 俺がしたくてしたことだ。後悔もない。

 しっかりとした知識を得れば得るほど、俺とレナは自衛の手段を持つべきだ。

 それくらい異質なのだ。

 どちらかが強くなるべきだったなら、やはり俺だ。俺は兄だから。

 そして、そう心に決めているからこそ。アネットのことが少し気になる。

 根本が一緒なのだ。


「やれやれ……」


 これは恐ろしく感情的なことだ。

 同じ理由で頑張っている人は、やっぱり応援したくなる。

 なにより。

 調べてわかったことだが、十二年前。アネットの祖父は父上の謀略が要因で発生した戦闘で命を落としている。

 没落の原因はルヴェル男爵家にあるのだ。

 十二年前、三国は迫りくる帝国に対して、同盟という形で対抗しようとしていた。しかし、王国と皇国は争ってきた国だ。不満分子は過激派となり、自分たちが相手より優位でなければ、同盟などできないと言い張っていた。

 しかし、帝国に対抗するためには争っている暇はない。

 その状況を危ぶんだ父上は、両国の穏健派と手を組み、過激派の排除に乗り出した。

 自分の領地を餌として、両国の過激派をつり出したわけだ。そして過激派の重要人物たちを戦場のどさくさに紛れて、暗殺したのだ。

 その暗殺部隊を率いたのが俺の母であり、当時、大公国一の剣士と言われていたシドニー・ルヴェルだった。

母上はその時、無理をして負った傷が原因で亡くなったわけだ。

 この騒動を機に、王国と皇国では穏健派が力を持ち、この一連の騒動は過激派の暴走で片付けられることになる。重要人物たちをことごとく失った過激派に、それを覆す力はなかった。

 その騒動の中で、アネットの祖父は命を落とした。何を思って、出陣したかはわからない。

 けれど、彼女の窮状は我が家の責任でもある。

 しばし考えてから、俺はベッドから出た。

 昔から変わらない。

 後悔しそうと思うなら、それはやるべきなのだ。後悔しないように。




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