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第十七話 氷の魔剣


「魔剣――氷華閃」


 ユキナはゆっくりと歩きながら魔剣化を行う。

 剣の刀身が真っ白に変化し、剣も細剣へと変化する。

 見た目は華奢な剣。

 けれど、内に秘めた力は凄まじい。

 ユキナが魔剣化しただけで、周りの気温が下がり、吐く息が白く変わる。

 そのままユキナは自らの魔剣を一振りする。

 それだけで周囲にいた小型モンスターたちが凍り付いた。


「ごめんなさい、寒かったわよね?」


 ユキナは苦笑しながら魔剣化を解く。

 俺は両手で自分の体を抱きしめながら首を横に振る。


「寒くない……」

「そう? じゃあもう一回発動してもいいかしら?」

「やめてくれ」

「ふふふ……気を遣わなくていいのに。まだまだ扱いきれなくて、味方側にも影響を与えちゃうの」


 ユキナはクスリと笑いながら、俺のほうへ歩いてくる。

 周囲を見渡せば、視界が届く距離まですべてが凍り付いている。

 戦場で発動したら、相当効果的な魔剣だ。

 氷剣姫なんて二つ名がつくのもわかる。

 これだけ威力と範囲があるなら、繊細なコントロールを求めるのは贅沢というものな気がするが。


「これで扱いきれてないね……」

「目指すのは剣聖だもの。白の剣聖は本来一人一つのはずの魔剣を二つ持つ剣聖よ。唯一無二の魔剣二刀流。しかも魔剣化をしなくても十万の大軍を撤退させられる。歴代最強と言われるのもわかるわ」

「よくその剣聖を超えようなんて思うよ」

「目指すなら上を目指さないと。そのためにも時間は大切に使わないと」


 そう言ってユキナが剣を構えた。

 まったく。

 今日は課外実習だ。

 各自、小型のモンスターの討伐を命じられている。

 やり方はそれぞれに任されている。

 失敗しても何も言われないため、俺は最初からやる気がなかったのだが、ユキナが素早く実習を終わらせたら、手合わせしてほしいと言ってきた。

 軽い気持ちでオーケーしたのだが、まさか魔剣化までして終わらせるとは。

 どんだけ手合わせしたかったんだよ、と思わず心の中で呟く。

 ただ、約束は約束だ。


「じゃあ、お手柔らかに」

「手加減しないでね?」

「手加減してくれ」


 言いながら、俺が最初に仕掛ける。

 単純な突き。

 それに対して、ユキナは最小限の動きで突きの軌道を逸らす。

 そして隙ができた俺にカウンターを食らわせる。

 どうにかそれを受け止め、俺は素早く体勢を立て直す。

 いままでのユキナなら、ここから怒涛の攻勢が待っているからだ。

 けれど、ユキナは数回攻撃しただけで攻勢をやめた。

 不思議に思いつつ、こちらから攻撃すると、鋭いカウンターが待っていた。

 明らかに狙っていたカウンター。

 これまでのユキナにはない攻撃だ。

 防ぐには防いだが、重い一撃だったせいで、後ろに数歩下がる。

 追撃は、ない。

 ユキナらしくない戦い方だ。

 ユキナの攻撃力なら圧倒できるチャンスは何度もあった。

 けれど、ユキナはそれをしない。


「手加減?」

「想像に任せるわ」

「そうかい」


 脱力したまま、俺はユキナに近づく。

 隙だらけだが、ユキナは迂闊に攻撃してこない。

 そのまま懐に潜り込んで突きを放つ。

 ユキナは完璧にそれを躱す。

 ここが本来なら限界だ。ここで欲張れば死ぬ。

 しかし、今は手合わせ。

 俺はそこから先に踏み込んで攻撃した。

 剣を横に振るって、躱したユキナを追撃する。

 だが、俺の剣はユキナの鋭い一撃で宙を舞った。

 そしてそっと剣が首に近づけられた。


「……まいった」

「まだまだね。本当なら攻撃させないくらいにしたいのに」


 自分へ駄目だしをして、ユキナは剣を鞘へしまう。

 そして弾き飛ばした俺の剣を拾う。


「どうだった? ロイ君の目から見て」

「防御重視に変えたのか……」

「ええ。先輩とロイ君との決闘を分析してみたの。最後の一撃に繋がったのは防御力。そして私に一番足りないのも、それだと思ったの。思えば、先輩と同じく私も攻撃で解決することが多かったわ。それで通用する相手ならいいけれど、通じない相手もいるから」


 そう言ってユキナは俺をジッと見てくる。

 俺は肩を竦めつつ、剣を受け取った。


「買いかぶりだな」

「先輩の攻撃、簡単に受け止めてたわよね? 本気でやれば私の攻撃も簡単に防げるんじゃないかしら? 今も試すために攻撃したんでしょ?」

「あれは決闘だったから。普通なら攻撃を受け止めるのは無理だ。それと試したのは認めるけど、別に手を抜いたわけじゃない。不慣れな防御重視の戦い方をするなら、攻撃したほうがいいと思ったんだ」


 そう言いながら、内心は冷や汗ダラダラだ。

 ユキナはどうも俺への疑惑を強めたらしい。あの決闘以来、こういう発言が増えた。

何とか誤魔化しているが、どうもユキナの中では俺が隠している実力は自分を上回るというものから、自分を遥かに上回るというものにグレードアップしたらしい。


「いつになったらロイ君に本気を出させられるのかしら」

「いつでも本気だよ」


 苦笑いを浮かべながら答える。

 ただ、もしもその機会が訪れるなら大きく近づいたといえるだろう。

 ユキナは自ら防御の重要性に気づいた。

 こういうのは言うだけ無駄。

 本人が気づかなければ意味がない。

 だから、実体験が重要なんだが、ユキナは決闘を分析することでそれに気づいた。

 客観的に自分を見られる証拠だろう。

 意欲も十分、素質も十分。

 弱点と思っていた部分も克服し始めた。剣聖の後継者としてこれほどの逸材はいないのではないかと思うが、如何せん勘が鋭すぎる。

 俺が剣聖だとバレるまでは最悪、構わないが。

 ユキナなら大賢者ということまで看破しそうで怖い。

 身バレの危険を感じて、俺は体を震わせるのだった。



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