表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/41

第十四話 戦場の嵐


 決闘の次の日。

 俺は白の剣聖クラウドとして、アルビオス王国の国境にいた。

 帝国軍が十万の大軍で侵攻してきたからだ。

 最近、大人しいと思っていたらこれだ。

 知らせを受けて、すぐに急行したため、国境線はまだ破られてはいない。

 けれど、国境の砦に配備されている王国軍は一万。

 十倍の兵力差は如何ともしがたい。

 さっさと撤退させないと、このまま帝国軍が王国内に流れ込むことになるだろう。


「やはり司令部強襲か」


 いつも通りの手段。

 それが自軍の被害を一番抑えられる。

 殲滅をすれば敵に打撃を与えられるが、その間に味方も死ぬ。

 向こうは平気で十万の大軍を次々と送りこめる大国だ。消耗戦になれば負ける。

 戦闘時間は可能なかぎり短くするに限る。

 敵軍の中央。

 そこに俺は空から降下し、着地した。

 砦への攻撃のため、控えていた帝国軍の兵士たちはポカンとした顔で俺を見つめる。

 なにせここは帝国軍十万の中央。

 全方位が帝国軍だ。敵が降ってくるなんて思いもしなかっただろう。

 そんな帝国兵を俺は両手に持った剣で叩き斬る。

 周囲の帝国兵の首をあらかた刎ね飛ばしたあたりで、ようやく帝国軍全体が異変に気付いたようだ。


「剣聖だ……!! 白の剣聖が突っ込んできたぞ!!」

「正気か!? 十万の大軍に一人で突っ込んできやがった!!」

「狙いは後方の司令部だ! 油断するな! 奴にとって百人程度は紙と変わらん!!」


 現場指揮官たちはすぐに司令部の前に防衛線を敷く。

 俺が司令部を狙うのはいつものことだからだ。

 とはいえ、帝国軍とて馬鹿ではない。

 毎回毎回、同じ手でやられている以上、対策はしてくる。

 ただ、いつも対策が突破されているだけの話だ。


「重装魔導鎧兵団! 前へ! 奴を止めろ!!」


 今回はまた新しいオモチャを用意したらしい。

 通常の騎士の鎧よりさらに分厚く、重厚な鎧。とても自立して立つことは不可能そうな鎧だが、問題なく自立歩行ができている。

 さすがは〝魔導具の国〟。

 面白い物を開発する。

 剣の国、アルビオス王国。

 魔法の国、ルテティア皇国。

 この二か国に対して、ガリアール帝国は魔導具製作に長けた国だ。

 アルビオス王国やルテティア皇国は素質ある者を鍛えることで、一騎当千の猛者を育てるが、帝国は違う。

 前者の二か国が五の力を持つ者を十にまで鍛えるなら、帝国は一の力を持つ者を二や三にする。

 才能や素質に左右されず、誰もが満遍なく戦力となるように魔導具を利用しているのだ。

 数こそ力の論理で、大陸を席捲した。

 だからこそ強い。どの国も勝てない。

 限られた猛者に依存しないから、常に安定した力を発揮する。計算しやすいから、誤算が少ない。

 ただ。

 多少強化されたとしても、俺からすれば弱兵と変わらない。


「白の剣聖の不敗伝説!! 今日こそ、我ら重装魔導鎧兵団が終わらせる!! ここを奴の墓場としてやれ!! 魔導槍構え!! 突撃ぃぃぃぃ!!!!」


 横一列になって、真っすぐ敵は突っ込んでくる。

 大型の槍を脇に抱え、密集している。

 まるで津波だ。逃げるなら上だが、飛べば無数の飛び道具が放たれるだろう。

 それはそれで面倒だ。

 だから。


「奴の剣は鋼すら斬り裂く! しかし恐れるな! この魔導鎧は最新型! 奴とて魔剣化を使わねば……」


 周りを鼓舞していた指揮官の言葉が止まる。

 俺が魔力を込めて飛ばした斬撃で、上下真っ二つになったからだ。


「隊長ぉぉぉぉぉ!!!!????」


 斬撃は止まない。

 一列に突っ込んできた重装なんちゃら兵団の精鋭は、一人、また一人と真っ二つになって倒れていく。

 やがて最後の一人が真っ二つになり、突撃してきた兵団は全滅した。

 まさか、そういう方法で全滅させられるとは思ってなかったのか、敵指揮官は唖然としている。

 これが切り札だとしたら、奴らの命運はもう決した。


「さて――行くか」

「う、撃てぇ!! 撃てぇ! 撃ちまくれ!! 奴とて人間だ! 弾幕で押し切れ!!」


 俺は敵司令部めがけて突撃を開始した。

 防衛線を突破されれば、司令部まではあと少しだ。

 ゆえに彼らは魔導銃を構えた。

 ほどほどの魔法を素人でも撃てる優れもの。

 それが万単位で斉射された。

 弾が視界を埋め尽くす。

 空間に余すことなく敷き詰められた弾の雨。

 それを俺は躱す。

 横に動き、飛び跳ね、加速し、剣を使わずすべて躱しきる。


「第二射用意! 撃てぇぇぇぇ!!」


 魔導銃は便利だが、一射一射に時間がかかる。

 だから最初に撃った奴らが下がり、後ろにいた奴が前に出て撃ってきた。

 さきほどと同じ数の弾の雨。

 しかも先ほどより距離は近い。

 けれど、結果は同じ。

 俺はすべてを躱して、すり抜ける。


「第三射用意!! う……」


 指揮官の指示は最後まで続かない。

 防衛線に切り込んだ俺によって、首を刎ねられたからだ。

 そのまま、俺は嵐のように敵を斬り捨てながら防衛線を蹂躙していく。

 もはや止める術のない帝国軍は何もできず、夥しい死者を出し続ける。

 そして。


「もう来たか……」


 司令部の中央で一人の老将が剣を構えていた。

 周りには誰もいない。

 側近を逃がしたか。


「敵将とお見受けした」

「いかにも……帝国軍中将、エゴン・ハイアット。手合わせを願おうか、白の剣聖」

「時間がないので、一太刀で済ませてもらう」

「逃げた側近を追おうとしているなら無駄だ。貴様が出てきた時点で有望な者は逃がしてある」

「……勝ち目がないと察していながらなぜ攻めてくる?」

「陛下の命だからだ。この命は陛下に捧げたゆえ」


 そう言ってエゴンは剣を構える。

 なかなかできる。

 帝国軍内でも古株の者には武闘派も多い。

 この老将もその一人か。


「若い頃、当時の剣聖と刃を交えた。死にかけたが、逃げることはできた。貴様はどうかな?」

「試してみるといい」

「そうさせてもらおう!!」


 そう言ってエゴンは俺に斬りかかってくる。

 その一太刀を受け止め、返す刀でエゴンの腹部を貫く。

 だが、エゴンはそのまま俺に抱きついてきた。


「貴様も……道連れだ……」

「魔導爆弾か。大したもんだが、気づかないほど愚かじゃない」


 俺はエゴンから剣を引き抜く。

 腹部を貫いたときに、エゴンが体に巻き付けていた〝魔導爆弾〟は破壊してある。

 エゴンは無念そうに顔を歪めて、血を吐きながら倒れていく。

 今、司令部にはこの将軍を助けようと、多くの兵が向かってきている。

 魔導爆弾が発動すれば、彼らも巻き添えを食らっていただろう。

 戦争だから仕方ないといえばそれまでだが。

 それが正しいこととは思えない。


「あっあっあっ……」


 司令部に一人の若い兵士が入ってきた。

 俺を見て、腰を抜かしている。

 けれど、なんとか魔導銃を構えて、俺に弾を放つ。

 しかし、俺はそれを軽く体を逸らして躱す。


「あ……た、助け……」


 兵士は涙を流しながら命乞いをする。

 そんな兵士の横を通り過ぎて、俺は告げる。


「指揮官が死んだ以上、終わりだ。無駄な殺生は好まない。逃げろ。命を無駄にするな」

「え……?」

「早く行け。今に撤退する兵士たちが波のように押し寄せるぞ?」

「あ、えっと……ありがとう……! ありがとう!!」


 そう言って兵士は逃げていく。

 帝国兵が全員極悪非道ならどれほど楽か。

 けれど、大半の帝国兵は善良な民だ。

 軍に入るしか生きる道がなくて、命令されたから仕方なく戦場に来ている。

 元は帝国の民じゃない者もいる。

 ままならないな、と思いながら俺はその場を後にしたのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ