表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/41

第十二話 秘剣・灯火


13


 適当にティムのリズムを乱しながら、たまに攻撃に当たりつつ、俺は父上の言葉を聞いていた。

 さすが灰色の狐と呼ばれることはある。

 絶対に勝てるとわかっているのに、さも息子想いな父親を演じて、相手から賭けを引き出した。

 しかも、相手はほぼ勝てると思っている。挑発に乗って、条件を釣り上げてしまった。

 それも当然だろう。

 表向き、一縷の望みに賭けているのは父上だ。無謀なのは父上というわけだ。

 けれど、その裏ではティムに勝ち目はない。無謀どころじゃない。賭けが成立していること自体が詐欺といえるだろう。

 そんな中、俺は父上の言葉に思わず、手を止めてしまった。

 受けたダメージを魔力に変換して、剣に流し込む。消えゆく火の最後の輝きのような最終手段。

 秘剣・灯火。

 母上が遺した技にそう言う技がある。確かに、ある。言われてようやく思い出したレベルの技だが。

 ダメージを受けろというのは、そういうことか。

 しかしなぁ。あの技は間違っても秘剣ではない、

 そもそも、ダメージを魔力に変換というが、そんなの欠陥技もいいところだ。

 魔剣術というのは、本来なら放つはずの魔法を剣に宿し、魔剣へと変貌させる技術だ。

 射程を犠牲にして、威力を手にした技術といえる。

 根本的に殺傷能力が高いのだ。

 今は決闘用に模擬剣を使っているが、本来ならティムの攻撃もさらに強力だ。

 そういう状況なのに、ダメージを受けないと発動できない技は欠陥だ。戦場では使えないと父上も言ってしまっている。

 そのような技を秘剣にするほど母上は愚かじゃない。

 だが、秘剣といったことで流れが変わった。

 俺はティムから距離を取る。

 ダメージを受けろというのは、俺が逆転しても不自然じゃないため。

 これ見よがしに秘剣などといえば、周りも期待する。期待値が高ければ、多少威力が高くても問題ない。

 一撃で決めることができるから、細かい剣筋を見せる必要もない。

 この展開を昨日の時点で想定しており、違和感なくその展開に持っていくために、タウンゼット公爵を巧妙に挑発し、親同士の意地の張り合いまで持って行った。

 そしておまけ……というか、本命だろうけど。

 相手から賭けの条件を引き出した。

 俺が逆転するかもしれない、という雰囲気を作り出して。

 さすがというしかないし、やっぱり、どこか頭のネジが外れていると思う。

 三国から警戒されるだけはある。

 唯一の救いは、自分の領地と家族を守ることが第一の人だということだろう。

 これで野心家なら目も当てられない。


「どうした!? 怖気づいたか!?」

「先輩……もう勝ち目はありませんよ。すぐに決めきれなかったのがあなたのミスだ」

「ふん……秘剣とやらか……いいだろう! 受けて立ってやる!!」


 そう言ってティムは自分の剣に雷を集めていく。

 魔剣術には段階がある。

 一つ目は、俺が今しているような強化。

 二つ目は、ティムがしているような性質変化。

 最後の三つ目。これが真骨頂だ。

 名はそのまま〝魔剣化〟。形態変化を起こし、自分専用の魔剣へ変貌させること。


「魔剣……〝雷轟〟」


 模擬剣の形が変わる。

 両刃の模擬剣が片刃になり、反りが入った。そして漆黒の刀身は細く、長く伸びる。剣というよりは太刀というべき姿だ。

 模擬剣の魔剣化は相当な魔力を消費するが、それでも行ったのは俺の秘剣を警戒したからだろう。

 長くは維持できないだろうが、俺を仕留めるには十分すぎる威力を持っている。


「さぁ!! 来い!」

「行け! ティム! タウンゼット公爵家の力を見せつけろ!!」


 親子が前のめりになる。

 それに対して、うちの親は余裕綽々だ。

 どしっと椅子に座りながら、つぶやいた。


「やってしまえ、ロイ」


 声に従い、俺は右手で剣を構える。

 右足を引き、体を斜めにする。

 突きの構え。教えてもらったものじゃない。記憶の中の母上を思い出しながら、書物から学んだ構え。

 ゆっくりと体に負ったダメージを魔力に変換して、剣先に集中させる。

 観客たちは、あれがルヴェル男爵家の秘剣の構えか!? と沸き立つ。

 ティムも魔剣を構え、俺の攻撃に備える。 

 おそらく相殺を狙っているんだろう。

 俺が攻撃したら、ティムも攻撃してくるはず。

 俺がすべきなのは〝やりすぎないこと〟。

 調子に乗って力を入れすぎると、ティムを殺しかねない。

 ただ、ティムの魔剣を確実に突破しなければいけない。

 その力の入れ具合を考えていると、場が静まり返った。

 一瞬で勝負が決まるとわかっているから、誰もが息を止めて食い入るように見ている。

 チラリとみると、ユキナが魔眼を使っているのが確認できた。

 やれやれ。勉強熱心なことだ。とはいえ、この試合で見れるのは母上の技を受け継いだ俺でしかない。


「秘剣……灯火」


 呟き、俺は突進しながら剣を突き出した。

 それに対してティムは魔剣を振り下ろす。

 剣が一瞬、衝突する。

 魔力同士の衝突によって風が巻き起こる。

 だが、衝突はあくまで一瞬。

 すぐにティムの魔剣は弾かれた。


「なっ!?」


 その間に俺はティムの懐に潜り込み、魔力で体を保護しているのを確認する。

 下手に怪我でもさせたら大変だ。

 けれど。

 こいつのユキナへの態度。

 レナへの態度。

 それを反省させる必要がある。


「ちゃんと――謝ってもらうぞ」


 怪我はしないけれど。

 確実に気絶はするだろうぐらいの力加減をしつつ、俺はティムの腹に模擬剣を叩きこんだ。


「ぐふっ!?」


 ティムの体が浮き上がり、くの字に曲がる。

 そのままティムは舞台の外まで吹き飛んでいった。

 地面に叩きつけられ、一回転、二回転と転がっていく。

 それを見て教師が声を出しながら、ティムに駆け寄る。


「それまで! 勝者! ロイ・ルヴェル!!」


 会場が一気に沸き上がった。

 完璧なお膳立て。

 もしかしたら逆転するかも? という可能性が浮かび上がって、そして劇的な逆転だ。

 気持ちが入っていた分、興奮もすごい。

 けれど。


「よーしっ! よくやった! よくやったぞ! ロイ! これでルヴェル男爵家は当分安泰じゃ!! 馬車十五台分の金塊があれば何でもできるぞ! 仕送りも増やせるからな! 楽しみにしておれ!!」

 一番興奮しているのは父上だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ