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第十話 魔剣術


 決闘当日。

 父上から出された指示は、合図があるまで適度にダメージを受けろ、というものだった。

 劣勢を演じろ、ではなく、ダメージを受けろという以上、何か考えがあるんだろう。

 とはいえ、ダメージを受けすぎると止められかねない。

 周りが止めない程度にダメージを受ける。 難しい作業だ。

 だが、父上には考えがあるようだ。

 父上は儲け話といっていたが、何を考えているのやら。とはいえ、臨時収入があればレナに本を買ってあげることができる。付き合うとしよう。

 まぁ、父上が信じられないときは……勝ちが優先だ。

 剣筋を見せたくはないが、負けるのは癪だ。

 そんなことを思いながら、俺は決闘の舞台に立ったのだった。




■■■




「よく逃げなかったね、ルヴェル君」

「俺から挑んだ決闘なんで」


 稽古場には相当な数の人が入っていた。

 まるで闘技場での試合だ。決闘は四角い舞台の上で行われ、落ちたら失格だ。


「両者、最後の確認だ! 準備はいいか?」

「ティム・タウンゼット。問題ありません」

「ロイ・ルヴェル。問題ありません」

「よろしい! 場外に落ちたら負け。気絶したら負け。負けを認めたら負け。審判である私が止めたら負け。いいな?」


 審判役の教師の言葉に頷く。

 そして俺たちは十歩下がった。

 持っている剣は模擬剣。刃はないし、特殊な仕掛けがしてあるから魔力を込めた一撃も半減する。

 だが、剣魔十傑に選ばれるような使い手ならば、それでも相当な威力を出せるだろう。

 グルリと観客席を見渡す。

 父上の姿は見当たらない。たぶん、こそこそと頃合いを見計らっているんだろう。

 そんなことを思っていると、開始の合図が鳴ったのだった。




■■■




 〝魔剣術〟。

 それはアルビオス王国発祥の魔法と剣技を合わせた戦闘技術だ。

 魔導師は魔法を放つが、アルビオスの剣士は違う。

 自らの剣を魔剣へと変化させるのだ。


「刮目して見るといい! これがタウンゼット公爵家の〝雷霆剣〟だ!」


 模擬剣の刀身が漆黒に変化し、雷を纏う。

 それに対して俺は模擬剣に魔力を通して、強化する。

 強化は基本中の基本。つまり、ティムは俺の一つ上にいるということだ。

 ただ、これは剣士同士の決闘。

 魔剣の質だけでは決着はつかない。

 良い剣を持っているだけで勝てるなら苦労はしない。


「はぁっ!!」


 ティムは勢いよく俺の懐に潜り込んでくる。

 それに対して、俺は後ろに下がって対処する。

 すでに剣のリーチの外。しかし。


「甘い!」


 そう言ってティムは剣を振るった。

 たしかに剣のリーチの外ではあるが、剣に纏わせている雷が俺へと襲いかかる。

 防御が遅れて、雷をモロに食らい、俺はさらに後ろへ吹き飛ばされた。


「くっ……」


 チラリと後ろを見ると、もう場外ギリギリだった。

 そんな俺に追撃をかけず、ティムは中央で剣を構える。


「怖気づいたなら場外に出るといい。敵わない相手とは戦わないというのも賢い選択だよ?」

「どうしたんです? 負けるのが怖いんですか?」

「な、に……?」

「自信があるならさっさと片付ければいい。もしかしたらって思うから場外に出ることを勧めるんですよね? ありがとう、先輩。今ので勝算が出てきましたよ」

「このっ……! 調子に乗るな!」


 ティムは中央から一気に俺へ突っ込んでくる。

 そして雷の魔剣を振り下ろしてくる。

 それを俺は受け止めた。その場で力比べが発生する。


「受け止めたぞ!?」

「なかなかやるな! 落第貴族!」


 観客が沸き立つ。

 だが、ティムは自分の一撃を受け止められたのが屈辱だったのか、顔を歪めている。


「調子に……乗るな!!」


 怒涛の連撃。

 それを俺は受け止めきる。すべてギリギリ。

 だが、ダメージが入らない。 連撃が終わり、俺は無傷。

 想定より俺がやるせいか、ティムの顔に怒りが浮かんでいる。

 思い通りにいかないから、冷静さを欠いているんだろう。

 死ね、と言わんばかりに殺意のこもった突きを放ってくる。

 それを見て、俺は笑う。ティムの弱点は精神面。上手くいくことに慣れすぎていて、上手くいかないことに納得できない。

 世の中、上手くいかないことのほうが多いのに、だ。

 俺は突きを受け流し、ティムと場所を入れ替わる。

 すると、ティムは勢い余って場外に落ちそうになる。


「ぐっ……!!」


 咄嗟に踏みとどまるが、あと少しで落ちる。

 だから俺は重い一撃をティムに放つ。

 受け止めても体勢は崩れるし、回避しても体勢は崩れる。

 だが、ティムはどちらもしなかった。


「落第貴族が……小賢しい!!」


 雷の魔剣が床に突き立てられる。

 瞬間、床を伝って雷が俺を襲った。

 想定外の攻撃により、俺は吹き飛ばされ、中央に押し戻された。

 その間に悠々とティムはギリギリの体勢から脱却する。


「まともにやったら勝てないから場外での勝利を狙っていたのか……さすがルヴェル男爵家の息子だよ! 小賢しい!」


 そう言ってティムは舞台の中央で剣を構える。

 二度と同じ手は食わないという雰囲気だ。

 できればあれで落ちてほしかったが、まぁいいだろう。

 これで怖がって必殺の一撃には出れないはず。

 止めを刺しきれず、ダメージが重なる試合展開になる。

 父上が望んだ試合展開だろう。あとは適度にダメージを受けていればいい。

 果たして、どういう策を持ってくるのやら。

 〝灰色の狐〟のお手並み拝見といくか。



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