私にとって
「だ、だって、リリーシャ様が……」
「え? 私?」
私ったら、変なこと言ったかしら?
いえ、事実しか言ってないわよね。
「アビーが美人なのは、事実でしょう? どうしたの、アビー」
首を傾げる。
「わ、私……美人だなんて初めて言われました」
「……は?」
冗談でしょう。冗談……よね。
けれど、アビーの顔はどう見ても冗談を言っている顔ではなくて。
「リリーシャ様……きゃっ!」
アビーの肩を思わず掴む。
「いい、アビー。あなたはとても美しいわ。あなたのエメラルドグリーンの瞳も陽光に当たると柔らかく光る茶色の髪も。そしてパーツの配置も最高で……アビー?」
更に美しさを語ろうとしたところで、アビーはふるふると首を振った。
「も、もういいです……。恥ずかしいのでそれくらいで……十分」
「そう? 残念ね」
でも、これ以上言ったらそれこそアビーが羞恥で爆発しそうだったので、やめておく。
「ところで、リリーシャ様」
「どうしたの、アビー」
アビーは言いにくそうに、切り出した。
「リリーシャ様が今までで一番美しいと思った人はどんな方なんですか? 第二王子殿下は、一番ではないようですが」
私の一番……。
その言葉で、一気に過去に引き戻される。
夕焼け色の瞳は、夕日に照らされて煌めいていた。かすかに涙がにじんでいるその瞳は、どんな宝石よりも固い意志を秘めていて。
『僕は、絶対に……』
少年特有の高い声は、甘い旋律のように耳に届く。
「リリーシャ様?」
「!」
アビーに名前を呼ばれ、はっとする。
「え、ええ。ごめんなさい。少しぼんやりしていたみたい。それで、私の一番の方……だったかしら。それは――」
金糸の髪に、夕焼け色の瞳。
すっと通った鼻筋に、目元はぱっちり二重。
って、顔は憶えているけれど……。
「ごめんなさい。名前も知らないの」
「えっ!?」
名前も知らない。名前どころか、正確な年齢も、出身地……はこの国だと思うけれど。
その顔以外、何一つ知らなかった。
「ちなみに、最後にその人にお会いされたのはいつですか?」
「ええと、私が6つの頃だから……十年前?」
私の返答に、アビーはドン引きしていた。
「アビーったら、私が面食いなのは今に始まったことじゃないわ」
「いえ、そうなのかもしれませんが……。十年も前に会った名前も知らない方の顔なんてよく憶えていますね」
ふふん。それはもちろん。
「私を誰だと思っているの? この国で一番の面食いな自信があるわ」
「面食いは自慢するようなことではないと思いますが」
「まぁ、もう二度と会うことはないのかも知れないけれど。それでも私にとっては世界一だったのよ」
いつもお読みくださり、誠にありがとうございます!
もしよろしければ、ブックマークや☆評価をいただけますと、今後の励みになります!!