4話 『ミミ・ハルト・コガレイ』の願望 その4
コイノ領地のハズ村の馬小屋には1匹の馬と2匹の猫が住んでいる。
正確には1匹の白馬が住んでいて、そこに2匹の黒い猫と白い猫が居候している。
真っ白な毛並みに飼い主にさらに整えられた、毛並みは白を超えて光の加減で銀色に見える馬の『レイホース』と真っ白な毛並みを持っている猫の『シロ』と真っ黒な毛並みを持っている猫の『クロ』の計3匹。
その3匹は同じ飼い主に飼われている、名前は『ローライズ』ハズ村に住んでいる農家の息子。
その農家の息子『ローライズ』は村の青年どうしが行っている、対魔物の訓練をしているためここにはいない。
最近近くで魔物が発見されたので、村に住んでいる青年達は一生懸命訓練をしている、非力な『ローライズ』もいないよりはマシだろうと途中で帰らせることも無くなった。
そんな非力な主人を思いながら3匹は会議をする。
※ここからは動物の会話なので、人からすると動物同士が鳴きあっているようにしか聞こえません。
『最近は、途中で帰ってくることもにゃくなったにゃ』
クロは自身の毛を舐めながら話す、真っ黒な毛並みを自身の舌で整える。
シロとは兄弟では無いものの腐れ縁か一緒に行動することが多い。
『出向に行っても、なかなか終わらないから行き損ニャ』
真っ白な毛並みを持つシロは、背伸びをして再度丸くなる。
2匹をみた1匹の馬レイホースはため息をこぼす。
『仲間はずれにされるのは、かなり辛いことだ。魔物が近くにいることは良くないことだが、ローライズが頼られているなら見守ってやるしかないだろう』
数日前、レイホースとローライズがいつものお気に入りの場所で散歩をしている最中に、魔物と遭遇した。
魔物自体は森の中にいるので、探せば見つかるのだが多い数で襲ってくるのは珍しかった。
実は森の中で見つけていた、魔物はローライズに黙って踏みつけて潰している。
『兄貴は、ローライズと一緒にいることが多いからそんな余裕をいってられるにゃ』
『ずるいニャ!ローライズと一緒にお気に入りの場所に行きたいニャ』
『一緒に行ってもお前ら振り落とされるではないか』
前に一緒に行こうとしたが、この2匹はレイホースの揺れに耐えきれず途中で落ちてしまった。
何度も挑戦したが、落ちてしまうので1回もお気に入りの場所には行けていない。
レイホースもあの場所にはローライズと1匹と1人で行きたいと思っている。
なので、この2匹と一緒に行こうとすると、わざと身体を揺らしわざと落としている。
猫2匹からは『兄貴』と呼ばれているが、内心好きな相手と2人きりで過ごしたいと思っている狭い一面もある白馬なのだ。
『あの時、いたあいつらはどうなったのやら』
『あいつらって、前に行っていた女のことニャ?』
3匹の話しは少し戻り、お気に入りの場所にいる時に見かけた魔物に襲われている集団のことだ。
あのときレイホースはローライズの指示を無視して、魔物を潰すために行動した。
ローライズの目の前で、人が亡くなるところを見せたくなったのだ。
レイホースは草原にいた集団を助けた、森の中に入っていたその中も皆助けた。
助ける義理は無いが、ローライズのために行動した結果だった。
『しかし…あの女の身なりが気になった、明らかに村に住んでいるような村娘がしているような身なりでは無かった』
ローライズがいつも着ているような姿や、たまに来るローライズの母親が来ている服装に比べてかなり華やかだった。
装飾も凝っていたように見えた、もう1人からはたしかミミ様と呼ばれていたと思い出したレイホース。
『ローライズのことが心配にゃ』
『確かに、その時から少しおかしい…』
村に魔物が出ていることを伝えて、馬小屋に戻ってからのローライズは少し変だった。
レイホースの毛並みを整えている時も何か考えている用で心ここにあらずといった感じだった。
『落ち込んでいるなら元気になって欲しいにゃ…』
『そうニャ、そうニャ』
レイホースにも心当たりが無い。
この馬小屋以外で起きていることはレイホースには分からないのだ、馬小屋から出ることが出来るのは、散歩のときとお気に入りの場所とそこに向かうときに通る森の中ぐらいだから。
『そうだ、クロとシロお前らが村の中で情報を集めてきたらいい』
2匹はその考えは無かったようで、レイホースに言われ早々に馬小屋から出て行った。
クロとシロは少し頭が悪いので情報に間違いや聞き間違いがある可能性も大いにあるが、無いよりはマシだろとレイホースは2匹を待つことにする
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ローライズは村の青年達と一緒に、木刀を振る練習をする。
魔物目撃証言が少なかった村で突如出た魔物の大量発生という情報、その大量発生は無事に解決したが、次出現したときようにと訓練を強化することになった。
途中で帰らされたローライズに、前まで集められていた年齢よりも若い子供まで呼んで全員で訓練をしている。
「ローライズ、大丈夫か?厳しそうなら帰っても良いぞ」
「大丈夫です…はぁ…ゴルンドさん」
ゴルンドは大きな木刀を構えて、訓練場の端で倒れているローライズに話しかける。
ローライズはゴルンドが持っている木刀の半分の長さに3分の1の重さしか無い木刀を数回振るだけで肩から息をして倒れ込む。
「よしっ!今日はここまで」
「はいっ!!」
ロッカスの一言で訓練は終了する、ほとんどは汗をかいているので村にある井戸に向かって歩いて行く。
しかしゴルンドのみがローライズ近づいてくる、『ドスンッ』という音と共にローライズの横に座る。
「大丈夫だったか?」
「訓練は厳しいで」
「訓練じゃ無い、お前魔物とあったんだろ?」
ローライズはそっちの方かと咳を1つする。
その時の状況を説明する、レイホースと一緒にいたら魔物が現れたとそのレイホースが魔物を潰したり、蹴り飛ばしたりしたと。
最後に、美しい人を助けたと。
「そうか…あの馬が、か。そんなに強かったのか名前は、確か…」
「レイホースだよ」
「そうだった、レイホースだ。お前が戦えないから、丁度良いじゃないか、魔物が現れても乗るだけで魔物と戦える」
その言葉にローライズは露骨に嫌な顔をする。
友達であるレイホースとクロとシロの3匹は友達だ、その友達を使って魔物を倒すといのはあまり乗る気にはなれなかった。
「そうだ、あの話しはどうするんだ?」
「あの話か…」
今ローライズには結婚の話しが出ている。
隣の村の村長の娘の1人で、村間の繋がりを強くする為にと話が出ている。
この国での結婚適齢期は18歳までになる、もちろんそれよりも若い人同士での結婚に年老いている人同士の結婚もあるが、大体は18歳までに結婚する。
今ローライズの年齢は17歳でいつ結婚してもおかしくない年齢である。
この村の娘と結婚と言う話しもでたが、この村ではローライズの評判は良くない。
非力な農家で唯一誇れるのは動物と仲が良いところ。
農家の存在価値は、収穫量に直結する耕すことが出来る範囲で決まる。
非力なローライズは耕す範囲は少ないので収入が必然的に少なくなる。
牛を使えば範囲自体は広がるのだが、こういう話しは本人のスペックにて広がるもの,そういった理由からローライズの評判は良くはない。
「この村で、お前の結婚相手を探すのは難しい。だからオヤジは外の村で探してくれた」
「そりゃ…ありがたいと思っていますけど…」
結婚の話自体はかなり前から出ていた。
ローライズ自体もこのまま紹介された人と結婚するんだなと思っていた、けれどそれはある日から変わった。
レイホースでとある女性を助けた時のことを思い出す。
金色のキレイな髪の毛に、この世の中にいるとは思えないほどの美貌だった近くにいたミットと呼ばれていた女性からはミミ様と呼ばれていた女性。
この女性がローライズの心の中をざわつかせる。
「オレはいま、村長の息子で次期村長になるゴルンドとして話しているわけじゃない、お前の幼馴染みであるこの村の男子ゴルンドとして話している」
「そ、その好きな人が出来たんだ…」
ローライズはそういうと、ゴルンドが肩を掴んで揺さぶる。
揺らしているロッカスの顔はとても笑顔そのもので、友人の告白に心から喜んでいた。
「一体誰だ?そんな言い方だと別のひとだと思うが」
「前にあった…ミミって言う人が…多分、好きだと思う」
単純明快ローライズは王女ミミに一目惚れをしたのだ。
何も知らない、コガレイ王国の王女と身分の差がある相手のことが好きになってしまったのだ。
ローライズ自身は、一目惚れした相手が王女だとは考えてもいない。
「ミミって誰だ?聞いたことが無いけどな…この村にはいないだろ?」
「うん、森で会ってどこに住んでいるのかも知らない…けど、頭から離れないんだ」
ゴルンドは何も言わずにその場から立ち上がり、ローライズに手を伸ばす、その手に掴んでローライズは立ち上がる。
「家まで送って行ってやる」
「ありがとう」
2人の幼馴染みは仲良くローライズの家まで一緒に会話をしながら帰って行った。
ゴルンドとローライズが座って話していた場所の近くには、黒色と白色の猫がいたことにローライズは気づいていなかった。
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ゴルンドは自身の親である現村長と2人で対面していた、コイノ領地のハズ村の村長でゴルンドの祖父である前村長が亡くなってしまってから、ずっと村長としてハズ村を統治している。
「どうした、ゴルンド」
「オヤジ。ローライズの結婚なんだが、あいつ好きなヤツが出来たらしい…だから取り消してやって欲しい」
「ほぅ…ローライズのヤツが、相手は誰だ?この村の娘か?」
ゴルンドは無言で首を横に振る。
村長はそれならば、このまま結婚しても他の村との繋がりが出来るので良かったと考える。
しかし、それはローライズの結婚が決まった場合の話だ。
ローライズのことは昔から知っている、村長はこの村の子供達は全て名前と顔は覚えている。
がしかしローライズは特別だ、息子のロッカスと同じ年に生まれた子供、この村唯一の同じ年で幼少期は中が良く2人で遊んでいるのを見ていた。
村長は2人を息子のように目をかけて来た。
今回のローライズの結婚もそうだった、表向きは村同士の繋がりを持つため、けれど本心は浮いた話しが出てこなかったので気を利かせて結婚話を出したにすぎない。
結婚は結局夫婦2人の話し、男と女の話し、ローライズから嫌だと言われればすぐさま取り消すとは先方の村にも伝えている。
「前に魔物が出たときに会ったミミという、金髪の女だそうです」
「金髪かぁ…近くの村にそんな髪のヤツはいない」
村長は『金髪』というキーワードに難色を示した。
隣の王国の王女の噂を聞いていた『婚期逃れ金髪王女』と、王族には金髪が多いと行商人から聞いたこともあった。
もしかすると、その本人では無いかも知れないが王族に近い者かもしれない。
その場合ローライズの恋は叶わないだろう、ただの村の農家の息子と王族に連なる者との結婚なんて釣り合わないし、王族ならば国王が許さない。
それか結婚が嫌になってウソをついていると言う可能性。
どれも村長の頭の中で考えたただの妄想に過ぎない、そんな偶然あるわけがない。
「話しているときの、ローライズの表情はどうだった」
「とても良かったですよ、あいつのあんな顔久しぶりに見た気がする」
その時のローライズの表情を思い出して、つられて笑顔になるゴルンド。
表情を見て結婚が嫌でウソをついているのかと思ってしまったが、ウソは無さそうで安心する。
「結婚は結局する2人の問題だが、今回は2人以外の要因がつよい結婚だった、片方どちらから嫌と言う声が出るならばなしにしようとしていた話だ」
「ではローライズの結婚は」
「相手の村にはオレから伝えておく、ローライズにも伝えておけ」
「伝えておきます」
村長と次期村長のゴルンドとのローライズ結婚の話しは終了を告げる。
またもや、村長の近くには黒色と白色の2匹の猫の目撃証言があったという。
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