2話 『ミミ・ハルト・コガレイ』の願望 その2
「ミミ様。だ、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫です…が、ギリギリね」
コガレイ王国の第6王女『ミミ・ハルト・コガレイ』は危機迫っていた。
美しい顔立ちに、長い金髪が肩から背中まで流れているその黄金の髪の毛はウェーブがかかっている。
王女ミミの身体は2つの大きな山脈が、自分達を見てと言わんばかりに自己主張をしている。
100人に聞けば100人が『美人』『美しいお方』『是非、婚約させてください』と言うほど絶世の美女。
しかし、その絶世の美女は自身の実の妹の結婚式に向かって移動中だった。
「まさか…うっぷ…ここまで揺れるとはね…」
「申し訳ございません、ミミ様。揺れの少ない道は最近ゴブリンの目撃情報がありましたので」
「分かっています、ミット…」
吐きそうになるのを手持ちのハンカチで、押さえつつ王女ミミは我慢をする。
今から向かうのはコイノ領地の『羽ばたきの翼』と呼ばれている、王族の王城。
王城に向かうために通るはずの道に、最近魔物の目撃情報が出てしまったので、大事をとって少し遠回りで整備されていない道を選び、その道を通っている。
もちろん王族の護衛と一緒に移動をしているが、魔物との遭遇する可能性が少しでもあるならば、道を変えた方が良いと王女ミミの専属侍女たるミットの考えだった
王女ミミは通っている最中に激しい揺れに襲われて、気分が悪くなってしまっていた。
「ミミ様、近くに草原がありますのでそこでお休みになられますか?」
「そ、そうですね…少し休ませて貰えるとありがたいです…うっぷ…」
健康的な美しさを持つ王女ミミの顔も真っ青になってしまい、いつ吐き出してもおかしくない状態になってしまう。
侍女ミットは急いで馬を操縦している従者に伝え、近くの草原で休憩をする事になった。
馬車が止まるとすぐに、馬車の中から勢いよく王女ミミが飛び出す、そして激しい揺れに耐えきれず出た瞬間に草原で激しく嘔吐した。
その姿を見た侍女はため息をついてしまう、また王城に変な噂が流れてしまうと。
王女ミミには複数の愛称がついている、その中の1つに見た目の美しさをたたえて『美しい金髪王女』と、見た目だけでついている愛称だが、他の国や王女ミミ本人が知らない場所でも『美しい金髪王女』と言うと通じてしまうほどに浸透している。
そしてもう1つの愛称が侍女ミットの頭を悩ませるモノで『婚期逃し金髪王女』。
コガレイ王国の王族のほとんどは10代に結婚相手や妾になったりするが、早い者は生まれる前から決まっているのも珍しく無いのにもかかわらず、20代でしかもそういった話しもないというところから出ている。
侍女ミットはこの『婚期逃し金髪王女』が本人の耳に入っていないだけで、一安心だった。
もしこんなモノがミミの耳に入ってしまった場合どうなることやら…考えたくもなかった。
馬車からでて嘔吐してしまった王女ミミの顔色は、真っ青でとても体調が優れているとはいえ無かった。
侍女ミットは馬車の中から、外用の絨毯を取りだして引いてその上で、王女ミミを横にさせる。
「どうですか?気分は」
「ありがとうミット…少しマシになったわ…」
水で濡らしたハンカチを目におく、少しでも気分が良くなるようにと工夫をする侍女ミットの動きには、長年王女ミミに振り回されてきた慣れのようなものがあった。
侍女ミットは護衛に近くに魔物などの、危険が無いか確認するようにと指示を飛ばす。
「んぅ…ミット。近くに小鳥の鳴き声が聞こえませんか?」
「そ、そうですか?ミミ様は耳が大変優れていらっしゃるので…私にはとても」
「そうかしら…今ってどのへんですか?」
「領地自体はコイノ領地で近くにハズと言う村がありますね」
近くと言ってもここから道なりに行くならば、少し距離がある。
森を突っ切ってしまえば近いのだが、危険な動物や魔物に遭遇してもおかしくないので、ほとんどの人は通らない、なので道になりに村に行けば時間が相当かかる。
獰猛な動物や魔物と遭遇してしまう可能性があっても、早く着きたいなら森に入るのをオススメする。
「しかしこの周辺で小鳥となると珍しいですね…」
「そうなのですか?けれど聞こえていますよ、あっちから」
王女ミミは目をハンカチで覆いながら音のする方に指を指す。
侍女ミットは遠くまで続いている草原と花しか見えなかった。
しかし細めでよく見ると、奥の方で白い何かが動いているように見える気がする。
「この周辺の小鳥は警戒心が強すぎて、そうそう人の前には出てきません」
「へぇ…私達と距離が空いているから出てきたのかも知れないですね」
「小鳥は見えませんが、何か白色の何かが動いているのは見えますね」
「白色のなにか…」
まだ気分が悪い身体を起こして、侍女ミットの指さす方を見ると王女ミミの目に1匹の白馬が目に入る。
王女ミミが視線に入ったと同時に白馬は、チラリと王女ミミの方を見たような気がする。
「あれは白馬ですね…野生だったら、珍しいですね」
「あとは王子様がいれば結婚相手に出来ますね」
茶化してくる侍女ミットを見てバツが悪そうにハンカチを再度目に当てる。
小鳥たちの声が聞こえなくなり、少し経つと護衛がうるさいような気がすると、王女ミミは急いでハンカチを取って確認をする。
「ミット、護衛の方々は?」
「今は、護衛には危険が無いか周りを確認させている最中ですが」
侍女ミットは周りを見ると、連れてきている護衛の数がかなり少ないことに気がつく。
何人かは森に入っていく会話は聞こえたが、まさか王女を置いて森の中に入って遊んでいる?いや、王女の護衛中に変な行動を起こすような教育はされていないはずと考えた。
「た、確かに少し護衛の数が…少ないよう…いえ、少なすぎませんか?」
「王女様っ!」
森の奥から急いでコガレイ王国の鎧をきた人、王女ミミの護衛が1人走ってくる。
その着ている鎧には返り血がべったりと大量についていた。
「ただいま森にてゴブリンを発見致しました。現在戦闘中です、王女様は直ちに馬車にお戻りください。すぐに移動します」
「分かりました。行きますミット」
王女ミミは侍女ミットの手を引いて急いで馬車に戻る。
馬車の扉を閉めると同時に、馬の鳴き声が聞こえ、そのまま馬車は動き出す。
はずだった、馬は再度鳴き声を出し、動き出した馬車はすぐに動きを止めた。
侍女ミットは恐る恐る小窓から外を見ると、馬車を引いていた馬と操縦を任されていた従者が魔物から攻撃を受けて血を吹き出していた。
周りには魔物と戦っている護衛が見える、魔物の数が多すぎるせいか若干押され気味だ。
「…っ!?」
ミットは言葉に出来ない声をだし、小窓を閉める。
このままだとミミ様の身が危ない、身を代えて守らないといけない。
「ミミ様、外にゴブリンがいます。若干押されています。今から森の中を突っ切ります。そうすれば村につくことができます、そこまで全力で走ってください」
この場所から道を通って次の町まで向かうと、馬が無いと厳しい距離になる。
しかも、魔物に追われながらの移動なら体力が少ない女性はすぐに追いつかれてしまう、リスクを負ってでも少しでも王女様の生存率を上げる方にかけるしか無かった。
命に代えても守ると決めている、侍女ミットはそれしか考えていなかった。
「分かりました。ミット、刃物を貸してください」
「こちらに」
ミットは野営用に所持していた刃が大きいナイフを渡す。
ナイフを渡された王女ミミは自身が着ていたドレスのスカートを切り始める、切り終わると太ももが見えるほどに短くなったスカートになっていた。
侍女ミットも同様に、自身のスカートをナイフで短くする。
「これなら、動きやすいですね。さっきのだと森の中を走るときに引っかかってあぶないですし」
「ありがとうございます、ミミ様。村の方向は私が知っていますので付いてきてください」
再度、馬車の小窓から周りを確認する。
魔物にさらに押されているせいか、護衛の数がさらに減ってきているこのままだと危ない、今すぐ移動を開始するべきだ。
「行きます!」
勢いよく扉を開く、突然扉が開かれたことに護衛は驚くが侍女ミットが叫ぶ「このままだとお姫様の身が危ないです!近くの村に逃げ込むので道を作ってください」と。
護衛達は考える時間も無く、指示されたまま王女ミミとミットが逃げられる道を作る。
護衛によって作られた道を通って森の中に入る、森の中には入れたのは王女ミミとミットの2人だけ、護衛は森の外で魔物と戦ってくれている。
森の中は恐ろしいほど静かで、2人は気味が悪かった。
「はぁ…はぁ…ミット…静かしぎませんか?」
「ミミ様!走っている最中に…話すと舌を噛みますよぉ!?」
侍女ミットは王女ミミの手を引いて、慣れない森の中を走って行く。
握っている手が離れてしまい、見失ってしまってしまったらと思うと全身に冷や汗が流れ始める。
2人は最初に飛ばしすぎたのか走るスピードを落とす。
「ゴブリンが出ているのでもしかすると、動物たちはみんな逃げてしまったのかも知れませんね」
「けど…近づいてくる動物みたいな…声が聞こえるけれど」
王女ミミの言葉に「はっ!?」となり再び走るとするが、足並みがそろわず王女ミミはこけてしまう。
魔物が出現して動物たちが逃げるのはわかる、野生の動物たちは気配に敏感で人間や魔物には相当な理由が無い限り目の前に現れることは絶対に無い。
この状況で人間に近づいてくる生物は1種類しかいない。
「ゴ、ゴブリン…」
目の前の木の奥から一体の緑の小さい魔物がこちらを見ていた。
ミットはスカートの中に隠していた刃物を構える。
「お姫様っ!ここは私が引きつけますのでここをまっすぐに進んでください」
「け、けど、ミット!」
「いいから!!早く!!」
侍女ミットは王女ミミが優しいことを知っている。
王城に迷い込んだ猫を王妃様に黙って世話をしていたり、ただの侍女を友達のように接してくれたりと優しいエピソードを上げるときりが無い。
王女ミミを逃がすために自身を犠牲にすると言うと、反対するのは分かっていた。
けれど、王女ミミには助かって欲しいと侍女ミットは心から願っている。
侍女ミットの決意の目に王女ミミは分かりたくないが納得したのか、目に溜まっている涙を手で拭き取り森の中を走る。
がしかし、王女ミミが走る先にはもう1体のゴブリンがいた。
ゴブリンは1体だけでは無かった2体いた。
「ミミ様っ!」
後ろから呼ばれ慣れた声で名前を呼ぶ声が聞こえる。
目の前には手に持っている剣を振りかぶっているゴブリン。
短い人生だったと王女ミミは後悔が頭の中を染まっていく、まさか自身の妹の結婚式に向かう最中に魔物に襲われさらに命まで落とすと思わなかった。
妹は15歳で私は21歳で未婚…こんなことを思うのならば夢など考えずに、国の為に政略結婚をした方が良かったと少しだけ後悔する。
ミミ王女は迫り来る剣に怯えて目をつむってしまう、剣で切られてしまうと思うと血の気がどんどん引いていく。
「ん?」
いつまで経ってもゴブリンからの、剣の攻撃が来なかった。
なにか侍女ミットの声が聞こえるような気がするが、鮮明には聞こえない。
恐る恐る目を開けるとそこには、王女ミミの願っていた光景が広がっていた。
剣を振りかぶっているゴブリンではなく、真っ白ではないその整えられた毛並みで、白ではなく銀色に近い美しい馬に乗るのは1人の男性。
王女ミミは足下に転がっているゴブリンの死体を見て、この人が助けてくれたと分かった。
男性の後ろからは木の間から光が差している、助けてくれた男性にコガレイ王国の第6王女『ミミ・ハルト・コガレイ』21歳は人生で初めて恋に落ちた。
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