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生存者(サバイバー)

【勇者クレイ】

Lv3

属性:土

人族:アダムカドモン劣種


【スキル】

共通言語(バベリスト)

病毒対抗C


生存者(サバイバー)

ある時、急に極限状態で生きることを強いられたものだけが得る複合的効果を持つスキル。もとからその土地で生きてきた者は別のスキルを獲得する。

限界状態の時や大きなダメージを負った際、ステータスの低下を防ぎ、逆に能力を底上げする。

飲まず食わずでもスキルが無い者の倍は活動できる。

また、最低ランクの鑑定スキルも兼ねており、調合や錬成に補正がかかる。



──────



これが新たなるスキル、生存者(サバイバー)を獲得した俺のステータスだ。

これが中々に使えそうなスキルで、特に飲まず食わずの辺りがいい。

要するに省エネで活動できるということだろう。

ケガの功名というか、こんな状態でもなければ取れなかったスキルだ。

そもそもこんな状態でもなければ必要なさそうなスキルだが、それを考え始めると女神ガビー憎し許さずという思考が悪い循環を始めるのでやめておく。


「鑑定ってのも魅力的だよなぁ……最低ランクだけど」


試しに色々と調べてみる。

スキルを使うにはさほどMPは必要ないらしい(体感だが)。


「どれ、手槍は……っと」


スキルを発動させると、空中に文字が浮かび上がる。

なるほど、ステータス魔法と似たような感じだな。



【手槍】

女神の短剣と木の棒を組み合わせた粗製の槍



「粗製で悪かったな、じゃあカメはっと」



植木鉢亀(プランタートータス)

大樹亀(ツリートータス)の幼体。

甲羅に木を背負い、木からも栄養をもらう魔物。



なるほど、どうやら生体に関する考察は当たっていたようだ。

だが、体重なら俺の何倍もあるだろうこの巨大なカメが”幼体”とは……異世界、恐るべし。

鑑定で得られる情報は少なく、たとえば低位召喚の際にわかる情報以下だ。

何もないよりはマシという程度、生存者(サバイバー)スキルのおまけみたいなものと考えておこう。


「井戸作りかカメの解体か……いや、カメの素材を利用して井戸を作ろう。」


地下水源まで掘る能力がないので、魔術で汲み上げた水が逃げないようにする工夫をあれこれ考えていたのだが、カメの甲羅に水をためることが出来ればそれは解決する。

カメの甲羅は陸生の為かかなり盛上った作りで、逆さまにすると子供くらいならすっぽり入れる程の容積を持っている。

目測での概算だと100ℓくらいだろうか? 普通に生活する分には十分な貯水槽にできる。

早速解体する為、ダガーを取り出して作業にかかる。


「よっこらしょ……あ、すっごい重い。」


確実に俺より重く、ひっくり返そうとしたがまるでダメだった。

黒いウツボのような変幻自在の魔物影脅し(シャドウフェアリー)にして俺の相棒でもあるハイドラに手伝ってもらったが、焼け石に水だ。


「こういう時こそ現代知識……まあ異世界でも普通にありそうだけど、倍力機構を使おう。」


てこの原理を使うのだ。

こういうベーシックサイエンスこそサバイバルでは役に立つ。

ものがしっかりしていれば、一人の力で20tトラックだって浮かせられる事も証明されている。

俺は棒を使い、ころりとカメをひっくり返した。

カメの背からは木が生えている為、完全にはひっくり返らずに腹をみせたナナメの状態になったが、解体をする上ではこちらのほうが都合がいいかもしれない。


「腹と背の甲羅がくっついていない……こちらの世界のカメとはちょっと違うのか。いや、スッポンもたしかそんなだったけど、まあそっちのほうが解体しやすいし都合がいいな。」


背と腹の甲羅の隙間にダガーを入れ、腹の甲羅を剥がしにかかる。

甲羅についた肉の筋を切り離しながら剥がし、次に出てきた内臓を傷つけないように取り出す。

細かい解体には骨格の知識が必要になる為、力業で大雑把に解体していく。

足や腹の肉は赤く繊維質で、背側の肉はピンク色……つまり背ロースでやわらかな肉質のようだった。

木の根が甲羅のあちこちから生えているため、このあたりは強引に引きちぎって肉を得た。


始めた頃はまだ空が紫色であったのに、肉の解体を終えた時点で日はすっかり高くなっていた。

思ったよりもスムーズに進んだが、大きさが大きさなのでかなり時間を食ってしまった。


「ふぅ、これを背嚢に仕舞えば終わりだな……おっと。」


くらり、とめまいがした。

思えば休みなく解体をしており、大量の汗をかいていた。

脱水症状と、熱疲労の症状が表れている。

生存者(サバイバー)Eの能力をもってしても、ここが限界だ。

昨日からここでの1日に必要な水分量に対して、摂取している水が少なすぎる。

体液濃度うんぬんはさておき、とにかく水を飲まなければ倒れてしまう。

ここで倒れたら助けてくれるものは一人もいない。

女神は……こんな状態でもなんの反応もないことから期待できないだろう。

不安でパニックになりそうだ。


「考えろ、冷静になれ……そうだ、とりあえずLvもあがってMPにはまだ余裕があるから水を作り出そう。」


生活水を賄えるほどの水を生成し続けるにはMPが足りないものの、今動くための一杯を作り出すだけの余裕はある。

緊急時の為や生活基盤を整える為にもMPは有効に使いたい為、一杯だけ飲んだら自然から水を得る方法を探すんだ。


水生成(クリエイトウォーター)。あっあっゴボボボボ!!」


手から生成した水だが、うまく量を調整できなかったので口からあふれてしまう。

仕方ないので頭からかぶって体温を一気に冷やした。

一瞬鳥肌が立ち、だがすぐにこの暑さに引っ込んでいく。


「ふーちべたい……冷静じゃなかったな、普通に瓶に入れればよかったのに。」


思考能力を奪われていたということにしておこう。

俺がうっかりさんなわけじゃない。


「文字通り頭を冷やしたし、今度こそ冷静になって考えろ。まだ摂取するべき水分量には満たないんだ。」


水を得る方法は地下水から汲み上げる以外にもあるはずだ。

なぜ地下には水があるのか、その理由を考えればこの乾燥した荒野のどこに水があるかもわかる。


「ここは麓だけど、もっと下ったところには岩場があったな、どれ。」


俺は緩やかな傾斜を下り、所々が切り立った岩場に降りる。

目当ては日陰にある岩。


「この岩なんかいいんじゃないか? 日陰にあって地面は砂地で掘りやすい。」


徐に手槍を使い、砂を掘っていく。

すぐに湿った砂が現れるのは、公園の砂場と同じだ。


「表面の水が無くなるのは直射日光での蒸発やこの乾燥のせいが主だろう……あとは植木鉢亀(プランタートータス)もか。地下水があるのは、水を通しにくい地層でそれらの理由から水が守られているから──つまり、だ。」


砂を掘り進めるとじんわりと水が染み出し、土で濁った水が溜まっていった。

大きな岩によって乾燥や蒸発から守られ、かつ日陰なので掘れる程度の地下でも水が保存されやすいのだ。


「やったぜ、これでひと先ずは大丈夫──いや、この水にまじった土をどうにかしないとな。」


スキル病毒対抗があるので毒素はある程度大丈夫なのだろうが、土までカバーしているかどうかは怪しい。

もしカバーしていないのなら胃腸を弱らせる原因となり、下痢がおさまらず余計に水分を失う事につながる。

土を食べる話はいくつか例を聞いたが、飢餓などで食べた人たちはほぼ全てが死んでいった。

これは教訓にせねばなるいまい。


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