寝床(シェルター)2
写真のアートワークがあります
「材料もある程度そろったし、作業開始だ!!」
えい、えい、むん。
と、気合を入れると影脅しのハイドラも俺の影から首をだし、左右に振ってくれた。
可愛い奴め、ふふふ。
なにか友情のようなものが芽生えた俺でなければ、この黒いウツボを可愛いと思う奴は少ないかもしれない……でもいいんだ。俺だけが可愛さを知っていればそれで。
まずは3m半くらいに切りそろえた若木をまとめ、一か所を蔓で括る。
それを変幻自在に体を変えられるハイドラに手伝ってもらいながら、地面に立てる。
それを三角錐になるように少しずつ広げ、狙った広さになったら蔓でさらに括っている部分を補強する。
この括る作業はハイドラに手伝ってもらった。俺では届かないからな。
短剣で三本の柱の根元に小さな穴掘り、突き入れて固定する。
「とりあえず最初の作業は終わりだな。」
日暮れに入ったのか、空が橙色に染まっていく。
余裕があればノスタルジックな風景に息を呑んでいただろう。
ふと、遠くの空に鳥が飛んでいるのが見えた。
小さな虫や種を食べているのだろうか?
鳥が取れれば肉が食えそうだな。
「っといけないいけない、もう時間が無いぞ。」
三角錐の間に一本ずつ柱を立てかけ、六角錐にする。
六角錐というよりは円錐をイメージして作っていく。
円錐が出来たら、今度は蔓を柱の間に編み込むように通していく。
これもハイドラに届かない部分を手伝ってもらった。
二人分のマンパワーで行ったので時間も半分程度でいけるぜ!!
本当によくできた魔物だ。
編み込みが終わった頃には日は暮れ切って、昏い空では微かに鳥が鳴いていた。
まだ暗闇ではないので、作業はできる。
柱と編み込んだ蔓で出来た骨組みに、剥いだ樹皮をかぶせていく。
石と蔓で補強しつつ、こうしてなんとか簡易シェルターが完成した。
ネイティブアメリカン達のティピーを参考にして作ったシェルター。
見た目は樹皮で出来た三角テントである。
すっかり暗闇になっていたが、暗さに慣れた目はその外観を捉えている。
ただひたすらに感動していた。
「完成だ……やってやったぜ!!うぉぉぉおおお!!!!」
魔物が来るかもしれないので控えめに叫ぶ。
ハイドラも理解する知性があるようで、くるりと俺の身体に巻き付いて喜びを表現していた。
「ただ寝れる場所を作りたかっただけなんだが、これなら普通に家としても機能しそうだ!!いやあ本当によくやったぞ俺!!」
さっそく中に入ると、思った以上の広さがあり、中々にリラックスできそうだった。
床はただの地面だが、雨風を凌ぐには十分だろう。
「そのうち毛皮なんかを敷けたらいいよなー。真ん中は囲炉裏にしよう。おお、どんどんアイデアが湧きだして夢が膨らむぞ。」
単純な計算だが、柱にした木材の高さと目測の斜角から求めるに、高さは3.2m程度。幅は2.4m程度。
面積にすれば3.8㎡だから……2畳より少しだけ広い程度かな?
うん、なかなかの出来だろう。
地面に少しだけ穴を掘り、その周りをぐるりと石で囲い、簡単なかまどにする。
そして建材集めの道中で拾ってきた小さな枝を組み、魔術で火をつける。
「発火──」
火の粉を散らしながら焚火は熾った。
これが文明の象徴、火だ。
シェルターの中がたちまちに煙り臭くなっていく。
それが妙に心地よく、疲れ切った身体と精神を癒してくれた。
「────────飯にしよう。」
暫くぼーっと焚火を見つめていたが、疲れ切った身体にエネルギーを与えなければいけない。
紫色の芋とパンを食べることにする。
芋を切ると、中まで紫色だった……あまり食欲をそそられない色だが、文句はいうまい。
皮を剥いで薄くスライスし、平たい石に置いて炙り焼きにする。
調理器具や食器も欲しいな。土器で作れるだろうか?
そんなことを考えていると、ハイドラが寄ってきて芋の皮を勢いよく食んでいた。
影に寄生するだけでも生きていけるが、一応食事もとれるらしく。肉食の傾向が強い雑食であり、調理の際に出る端材を好んで食べるようだ。
「ハウルのカルシファーみたいなもんかな。今度鳥の卵の殻でも食わせてみるか。」
食材を余すところなく食べられるならそれはとてもいいことだ。
少しでも食材を無駄にしたくない。
日本人的な考え方か、はたまたサバイバル下での生存本能か、まあどちらでもいい。
端材からも仲間がカロリーを得ることができれば、寄生されている俺の負担も減るだろう。
パンと芋と水、少しのドライフルーツ。残念ながらこれだけでは栄養不足で、そもそも今日消費した分のエネルギーと水分はマイナス収支だろう。
おおよそ5ℓあった水も8割方飲んでしまったし、明日は井戸づくりから始めたほうがいいだろう。
地下水があることがわかったので何時でも取れると油断したが、早急に解決すべき問題なのだ。
「明日は日の出前に起きて、午前中は井戸を作って、午後は食べ物を探そう……ああ、眠気が限界だ。」
ごろんと地べたに横になり、背嚢を枕にして眠りにつく。
外では虫の声が聞こえる。
虫を食べる肉食動物……鳥やネズミが捕れないかな。
捕れなければ最悪虫を食おう、タンパク質を補給しないと……。
そんな事を考えながら、意識は暗く沈んでいった、。
────────
荒野のティピー(樹皮製ではない