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幕間 女神タタの傍観

 「おい、何を見ているんだガビー? 」


水晶を喰いつくように覗き込んでいるガビーに訪ねる。


「あ、タタちゃん。何って、わたしの勇者を見ているに決まってるってわけなんです。」

「勇者? お前確か今回の勇者はもう諦めた、捨て回だーとか言ってなかったか? 」


確か基礎以外の能力を与えず、しかも旧バゴガガマ地方に飛ばしてしまったという。

あんな何もない場所で何も持っていない者は、たとえ女神の勇者(わたしたちのゆうしゃ)であっても生き残ることは難しいだろう。

ゆえに、勇者を飛ばした直後のガビーは「もうダメってわけなんです」「またやってしまったってわけなんです」「次の勇者に期待します」「あ、女神っくぱわー貸してくださいよ、もうないんで」と荒れていたのを覚えている。


「ふっふっふー!! ところがどっこい、当たりも当たり、大穴が当たったってわけなんです。」

「ほう……」


嬉しそうに話すガビーにつられ、ガビーにくっつくようにして水晶を覗き込んだ。

鋭そうな男が竜人バルバ族達と話している様子が映っている。


「へえ、バルバ族に接触したのか。よくあそこで生きていられたな、運がいい。」

「いやあ~あそこに飛ばされてる時点で運は悪いってわけなんです。」

「飛ばしたのはお前じゃないか、どの口が言うんだか。」


悪びれもせずに笑ってごまかすガビーを嗜めておく。


「生き残れたのは運じゃないってわけなんです。クレイさんは()()なんです。()()だからこそここまでこれたんです。」

「いや、人間って……それはそうだろう。お前は何を言ってるんだ? 」


迂遠な言い方にいらつき、そう尋ねる。

まえまえから抜けている奴だとはおもったが、ついに脳まで頭からすっぽぬけてしまったのだろうか。


「いいえ、わたし達が世界に送っているのは()()ってわけなんです。選ばれた、特別な力をもった存在。半ばわたし達が作り出した、運命を勝ち取る事ができる特異な存在ってわけなんです。でも()()()()()()()()()()。勇者として送り込まれてはいますけど、実際はただ少し強いだけの人間。勇者としてではなく、人間として────」


ああ、そうか。

ガビーの言いたいことがようやく伝わった。


「言いたいことがようやくわかったよ。女神(わたし)達の勇者は運命を勝ち取る力を持っている。苛烈な運命に対し、少しでも可能性が残されているなら、その小さな可能性をつかみ取る力を。だが、この勇者は────」

「はい、()()()()()()()を持っているってわけなんです。定められた運命を辿る勇者と違って、クレイさんは運命そのものに対抗できる。それは人間にしかできない、()()()()()()()()()()()()()()()できることってわけなんです。」


運命を勝ち取る力と、運命を変える力。

得られる結果は同じでも、似て非なるものだ。

あくまで定められた運命の中で勝利に導く勇者と、定められた運命そのものに立ち向かう人間。

無論後者の方が何倍も何十倍も苛烈な歴史を辿らなければいけない。


「なるほど、夢があるな。大穴というだけある。そのクレイという男にはそれだけの力が? 」

「はい、クレイさんならやってくれるってわけなんです。わたしはそう信じています。クレイさんのコツコツ頑張って少しずつ成果を出し続ける姿は見ていて希望が持てるってわけなんです。」


何を都合のいい事を。最初の方は捨て回だと嘆いていたじゃないか。

だが今のガビーの表情にはそんな憂いはなく、本当にクレイという男を信じている顔をしていた。

水晶の中で、クレイは色々と準備したものを整理しているようだった。

それを眺めながら、ガビーは微笑んでいる。

しかしこれは────


「おい、ひょっとして今から大魔(グレートデーモン)と戦うつもりなのか? 」

「はい、大樹亀(ツリートータス)から変化した巨大種の大魔(グレートデーモン)ってわけなんです。」

「まてまてまて、いくらなんでも戦力差がありすぎる。十分にレベルを上げた勇者がチート能力を活かし、高レベルの仲間達を引き連れてようやく勝機がみえる相手だぞ。」


ましてやこのクレイのレベルでは、相手にもならないだろう。

普通の勇者でも手を焼く相手に、何も持っていないようなクレイではあまりにも結果が見えている。


「────だからこそ、わたしは期待しているってわけなんです。」

「それほどの力があるとは思えないが……」

「タタちゃんは忘れてしまったってわけなんです。人間とはいつも、自分よりも強大な敵を乗り越えていったってわけなんです。牙も爪もない彼らの本領はそういう逆転劇にこそあると思うってわけなんです。」


そういえばそうだったな。

人間の文明と共にあった女神(わたし)達は、そうした場面をずっと見続けていた。

なるほど、このクレイにガビーが喰いつく理由がさらにわかった。

彼は、人間の可能性を見せてくれるのだ。

女神(わたし)達がテコ入れしたものでなく、本物の人間の力を。

その、可能性を。

それは────女神(わたし)達が大好きな、愛してやまないものだ。



「わたしも気になってきたな。これは現代知識のチートという奴か? 知恵が回りそうな面構えだな。」

「うーん、それもありますけど少し違いますかね。クレイさんは”今あるものを最大限に活かす能力”がズバぬけているってわけなんです。知恵もその一つですし、与えられた低級魔術も既にうまく噛み合わせて戦法を練っていますしね。」

「なるほどな。ってことはつまり──」

「はい、大穴に限って賭け値(ベット)を少なくしてしまったってわけなんです。いやあまったく、間が悪いってわけなんです。クレイさんにチートを与えられていたら、どれくらい化けていたやら……」


素質だけでみれば歴代でもそうとう上の順位にきそうな人材だしな。

ガビーの心底悔しそうな顔が、やけに印象的だった。


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