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接着剤(アニマルグルー)

 バルバ族の里への移動日数短縮の為、乗り物を作ることにした。


「じゃあさっそくだけど、ブリアナさんにはこれと同じ縄を君の身長よりも長く、4つ分ほど作ってほしい。」


そう言いながら縄をスルスルと背嚢から取り出した。

これは蔓の皮から取り出した繊維を編んだもので、蔓をそのまま使うよりも丈夫で、かつ圧倒的に曲げやすい。

作り方も簡単で、蔓を叩いてやらわかくして裂き、繊維状のものを取り出す。

繊維を捻りながらひも状に伸ばしていき、それを2つ用意して捻じって縄にする。

ただものすごく時間がかかる単純作業なので、夜や日差しが強い時にコツコツつくっていたのだが数はそこまで用意できなかった。

ブリアナにはこの縄づくりを担当して貰おうと思う。

体が弱っていてもできる作業だ。

俺は弱ってるんだからゆっくり休んでね、なんて言えるような優男ではない。

褐色金髪の少女をヒロインではなく、かわいそうな境遇の仲間(ろうどうりょく)だと考えているし、そう考えるのが一番おさまりがいいのだと思う。

あくまで俺ではなくバルバ族側のピンチなのだから、そこにバルバ族の協力が入る事が重要なのだ。


ブリアナは作り方をあらかじめ心得ていたようで、蔓を出してやるとスルスルと作り始めた。

どうやら俺よりも縄づくりに関しては器用なようだ。


「へぇ、うまいもんだね。ブリアナさんは里でも縄を作ってたのかい? 」

「うん、こういうのは女の仕事だから。です。」


男は戦士、女は家の仕事。

なるほど、狩猟民族によくある形態だ。

オアシスに住んでいると言っていたし、狩猟採集で生きているとなれば里の規模もあまり大きくはなさそうだな。人口百人以下の集落かもしれない。


さて、こちらはこちらで作業を進めよう。

まず中途半端になっている窯を無理やり完成させる。

大型であればあるだけ火力があがる煙突効果というものを得られるのだが、1m弱の高さでもなんとかなるだろう。

外見は円筒状で、下に2二つ穴が開いており、それぞれ燃料をいれる穴と土器などを入れる穴だ。

上は青銅を叩いて作った棒を重ねて網目状にし、青銅が溶けないように泥を保護剤として塗ってある。

ここにも土器の鍋などを乗せる事が出来るようになっていて、取り外しが可能だ。


窯が完成したところで一番大きな土器の鍋に植木鉢亀(プランタートータス)のブヨブヨとした皮や折った骨を詰めれるだけ詰めて、水を加える。

それを窯の天辺において、窯に薪をいれて発火(ボンファイア)────


「あの……その植木鉢亀(プランタートータス)の皮とか骨……食べるの? です。」


ブリアナが恐る恐る聞いてくる。まあ、たしかに鍋に肉を入れて煮込んでたら料理にみえるだろう。


「まあ、食うっちゃ食うな。」


俺ではなく、なんでも食べられるハイドラ達が。

端材をエネルギーに変えられる俺の素晴らしい相棒さ。



「う……あ、あたしは勇者様が作ったものならなんでも食べられる。です。」

「俺の元居た場所ではスッポン鍋っていってな、高級な食材だったんだ。コラーゲンたっぷりでお肌にいいんだぞ~。」

「コ、コラー? へ、へぇ……そうなんですか。」


少しからかってみれば、ブリアナは青い顔をした。

異国の料理って言うのは、多少受け入れがたい食材というものもあるわけで、どうやらブリアナ達バルバ族にはカメの皮や骨を食う文化は無いようだ。別に日本にも無いと思うけど。


「ははは、まあ、別に俺らは食わないよ。茹でガラをハイドラ達が食べるんだ。そのお肌プルプルのコラーゲンさんに用があるのさ。」


木の棒でぎゅうぎゅうにつまった鍋をかるく混ぜながら説明する。


「動物の皮や骨を何時間も煮込んでると、コラーゲンっつー繊維質のタンパク質が湯に溶けだす。それを煮詰めていくと濃縮した繊維状高タンパク排出液……古来より世界中で使われてきた接着剤”(にかわ)”の完成だ」

「なるほど、あまりよくわかりませんが、接着剤を作っていたんだ。です。というかいまからかいました? です。」


ムクれ顔をしているブリアナの質問には答えず、質問に質問で返す。


「ブリアナさんは接着剤は知ってるんだね? 」

「ん?あ、はい。です。草から取れる白い汁に(さそり)の酸を混ぜてつくる。です。」

「さそり……へぇそうなんだ。ブリアナさんは物知りなんだね。」

「ゆ、勇者様ほどではないです。」


何やら照れた反応をしている。もしかしてチョロいのだろうか。

将来が心配です。

さて、さそりの酸という部分は引っかかる。

蠍といえば毒だろうに、酸ときたか……。

だが今はバルバ族の接着剤の作り方よりも、草から取れる白い汁という方に興味があった。


「ブリアナさん、その白い汁っていうのは粘り気があって……取れる草の茎は空洞だったりするかい? 」

「あ、うん。です。勇者様も知ってたのです?か?」

「ああいや、元居た場所に似た草があったから聞いてみただけだよ。バルバ族の里に着いて大魔を倒したら、その時はブリアナさんがまた教えてくれ。」

「ッ!! もちろん、です!! 」


元気のよい返事だ。

物知りそうな大人に物を教えられることが単純に嬉しいのだろう。

あんなにフラフラだったのに水と食事でもうここまで回復できるとは。

これも荒野に生きる民の逞しさと若さゆえの体力か。


さて、この草から取れる白い液というのは……おそらくラテックスだろう。

様々な植物に含まれている乳濁液で、一番有名なのはゴムの木から取れるラテックスだ。

ラテックスはそのまま天然ゴムとして使われたり、加硫してあの黒っぽいゴムにしたり、ガムの原料になったりと様々な使い方をされる。

ケシから取れるラテックスは精製してアヘンに使われ、さらにモルヒネの原料にもなる。

ラテックスは空気にふれると硬化し、その事を利用して特殊な工法を踏むと天然ゴム接着剤となるらしい。

そうなる工程を知らないので再現は出来ないが、バルバ族に学べば膠以外の協力な接着剤を入手できる。

大量に取れれば硫黄があるしゴムも作れるぞ。


「フフフ……学ぶ姿勢ってのは大事だね。」

「……?」


さて、膠が作れるまでとても時間がかかる。その間に色々加工するものがある。

急いては事を仕損じるが、だらでぶ(太っちょがだらだらと怠慢に過ごす意)していては里が滅ぶ。

落ち着いてマルチタスクをこなすのだ。

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