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考察(ダンテ)

 炭水化物をドロドロに溶かしたものによくほぐした肉をいれたスープが煮えたので、ブリアナに渡す。

いざというときのために消化によさそうな速攻食をつくって背嚢にしまっていたのだ。


「さ、食うんだ。」

「あ、いただきます……む、んむ、んむう。……む。」


え、なにその反応。

おいしいともまずいともいえないような。

いや、わかるけどね。それあんまりおいしくないけどまずいっていうほどでもない、普通かと言われるとそうでもない気がするからね。

腹減ってればなんでもうまいなんてのは方便だ。


まあいいや、スープが煮えるまでの間に彼女から聞いた情報を整理し、考察を開始する。

情報を頭の中で整理し、現在の状況を組み立てていく。

この荒野にはバルバ族、ファール族という人が住んでおり、彼女はそのバルバ族であるという。

今いる拠点の場所は北東にあるバルバ族の里からおそよ3日。

彼女の体格、装備から考えて一日で歩ける距離は15~30km程度だろう。

ならばここから里までのおおよその距離は45km~90km程度。

アスファルトで舗装された道路ならともかく、この地でこの距離の移動は俺であっても数日かかるだろう。


ついた先では大魔(グレートデーモン)森巨亀(モークス・トータス)の討伐をする。

大魔(グレートデーモン)とは、魔王同様に強大な力を持つに至った魔物のことであるが、魔王とちがって魔物や魔族を統べないことが特徴であるという。

ある時魔物の中から一頭だけ異常な力を持った個体が産まれ、成長し、群れを率いれば魔王、そうでなければ大魔(グレートデーモン)となる。

つまり個体での強さでいえば魔王クラスということだ。それがどれくらい強いのかは知らないが、すくなくとも生身の俺では太刀打ちできないだろうし、バルバ族の槍を持った戦士達も歯牙にかけないのだとか。


大きさは体高1・5mほどの植木鉢亀(プランタートータス)を丸のみにできるという証言と、植木鉢亀(プランタートータス)や大樹亀の系統であるという情報から概算して体長15m~60m、背中に生えているらしい木を含めた体高15m~30m程度、体重40~400t程度。

巨大すぎる化け物だ。

”高さ”がゾウ5頭分~10頭分、重さは下手すると50頭分だと例えればわかりやすいだろうか? いや、スケールが大きすぎて想像できないな。

向こうの世界では最も巨大な動物であるとされるシロナガスクジラよりも大きいのだ。うまく想像できるわけがない。

植木鉢亀(プランタートータス)の中から産まれた化け物というのならば、おそらく土の魔術もつかってくるだろうし、こうも大きいとこちらの切り札のスクロールの高位魔術で”ぼんばいえ”も期待しすぎないほうがいいだろう。

個体能力ならば魔王と同等と考えるなら、きっとめちゃくちゃ強いのだろうな。

少なくともLV6で戦う相手ではない。


この森巨亀(モークス・トータス)が里のオアシスを飲み干す前に、里にたどり着いて倒す。

オアシスをほとんど占領しており、戦士では追い払えないらしい。

オアシスの規模はいまいちわからないが、オアシスが枯れる前に里が滅びそうなのでそう時間があるわけでもないだろう。

すくなくともいまから鍛えてレベルをガンガンあげて戦うという選択肢は無い。


「いやぁ~、きっついなあ。」


そういうと、ブリアナがスープをすすりながら悲しそうな目を向けてくる。

そんな目でみるんじゃありません、なんとかしたくなるでしょう。


「やっぱり……難しいですか? 昨日の雷のバオーでなんとかならないですか? 」

「ならないことはないだろうけど、もう少し作戦を練っておきたい、少し待ってくれ、考える。」


たとえ巨大であっても相手は生き物だ。

赤い血が流れている同じ生き物であれば、死の条件は同じだ。

考えろ、どうすれば倒せるのか。

情報が足りない、現地で見てから考えるべきか?

いや、時間も道具も無い。

ここか、現地か、どちらで体勢を整えるかだ。

現地は情報が大量に手に入るが、ブリアナの話によればひどい状態なのなのだとか……大魔の近くで準備は落ち着かなそうだ。

ここはまだ作りかけだが色々と機材がそろいつつある。

ここで考察して道具をつくり、現地で調整する、うん、これだな。


では何が必要か。

今から準備して道具の作成に2日、移動に3日かかるとして5日間。

いや、準備にはもう少し時間をかけた方がいいだろう……10日くらいなら里は持つか?

オアシスを占領されているとの事だから、現時点から10日は難しいかもしれない。

なら、早く駆けつけるにこしたことはない。

最悪オアシスから追い払えなくても、水を里の人数分だけ生成して里をもたせ、オアシスが枯れて森巨亀(モークス・トータス)が去るのを待ってもいい。そのあとオアシスがまた戻ってくれるのを祈る──────去り際に里を滅ぼさないとも限らないので、これは最後の手段だが。


「最低でも5日かかる、短縮するなら……移動だな。ここから里までの距離が45km~90kmであると仮定して、3~5時間で移動できれば日数や移動時の食料・水の問題は解決できる。」


そう言った時、スープの残りを木の匙でいやしんぼのようにかりかりと掬っていたブリアナが「はぁ?」みたいな顔をしてこちらをねめつけた。


「勇者様……あたしは里で一番足が早い。だから伝令として里の危機を知らせる使命を受けた。あたしはずっと移動していた、そんな短時間で着ける距離じゃない。です。」

「ああ、歩いたり走ったりじゃこの荒野では距離を稼げない。」

「じゃあ!!」

「だから、乗り物を作るんだよ。」


声を荒げるブリアナに対し、極めて冷静に受け答えする。


「のりもの……? 」

「知らないか? 人や物を載せて移動するものだ。車……はなさそうだけど、ウマとかラクダとかそういうの。」


共通言語(バベリスト)スキルの翻訳で『乗り物』が伝わらなかったので、おそらくは無いのだろう。

ブリアナが知らないだけか、この辺りにはないか。


「そののりものを使えば、すごく短い時間で移動できるの? です。か? 」

「ああ、俺がここに飛ばされる前には、歩いて3日の距離を一息で駆け抜けるようなものもあったし、海をこえ山をこえ、空を飛んで隣の大陸まで行くものまであった。」

「すごい!!それを作れるの!!です。」

「いや……そこまでのものは俺には作れないけど、ここから里まで半日もかからない速さの乗り物ならたぶん作れるさ。」


ブリアナは目を丸くしている。

まあ、そうなるよね。俺も魔術やら魔物やら、想定していなかったものと出会ったときには似たような反応をしたものだ。

最も、俺はゲームなどで多少触れていたので飲み込めたのだが、ブリアナにとっての衝撃はどれほどのものなのだろうか。

うんうん、異世界人への知識の披露は気持ちがいいですわね。

最も、この世界の事は異世界人の方が詳しい。

いい気になって知識人ぶるのは愚かしい事だ、それを肝に銘じておかなくてはいけない。

異世界人リスペクト、これマジ大事。


「ここでの準備には2日……ブリアナさんが手伝って早く終わればその分だけ早く移動できる。もちろん手伝ってくれるよね? 」

「はい、まかせてください。です。」


ブリアナは嬉しそうな顔をしている。

ブリアナにとっては僥倖だろうからな。

俺的には……どうなんだろう。人を見つけた僥倖とも、明らかにヤバイものと戦わなければならない辛苦とも取れるが。


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