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未知との遭遇(クローズエンカウンター)

少女視点

 また、夜がやってきた。

里から必死で走ってきて、これで4度目を迎えたろうか。

もしかしたらもう里は滅んでしまったかもしれない。

だが、足を止めるわけにはいかない。

それが、あたしが託された使命なのだから。

ひょっとしたら、最後の使命なのだから。


「はぁ……はぁ……。」


最後に食事をしたのはいつだったか。

いや、いまはもう水の事しか考えられない。

荒野に生きる者たちに伝わる”砂漠の水筒”と呼ばれる植物も生えていない。


足も傷だらけで血が滲んでいる。

里のほうはまだ草があったが、この辺りは砂っぽい土と尖った石ばかりで、どうしても移動が遅くなる。

日が高いときの移動は1日で動けなくなるのでしていないが、夜は夜で魔物が怖かった。

とくに”蠍の丘”は遠回りしてでも避けなくてはいけない。

里では小さいときからそう聞いていた。



────────



もう、疲れた。

とうに限界は訪れていたが、使命というものだけがあたしの足をうごかしていた。

だが、その力も既に尽きようとしていた。

ああ、女神よ、どうかあたしをお救いください。

心で数えきれないほど唱えた。

だが、女神は答えてくれない。

お母様には小さい頃から、いい子にしていれば困った時は女神が……女神がつかわす勇者が助けてくれるのだと教えられた。

母の祖母が勇者に助けられたらしく、子に代々伝えていくのだと張り切っていたのを覚えている。

生きているか怪しい母に、もうじき死ぬだろう自分。

次の世代へ勇者を語る事は絶望的かもしれない。

どんどん足が重くなる。

里で最も俊敏だと言われたあたしも、ほとんど虫と変わらない速度しか出せない。


勇者は、助けには来てくれない。

それでも、一言だけ唱えてみようと思ったのは、死を悟ったゆえの気まぐれからだろうか。

思えば、女神にばかり助けを求め、その使者たる勇者に助けを求めていなかった。


「ああ、どうか……あたしをお救いください、勇者様。」


そう、唱えた時だった。

この暗い荒野に、一筋の光が走ったのだ。

時折、この地に降ることがある雨の日に見たことがあった。


「あれは……雷!! いや、ドラゴン……? 」


雷の体を持つ竜が山から立ち昇り、しばらく空を泳いでから果ての暗闇へと消えていった。

あんなものを見たことがなかった。

そんな話を聞いたこともなかった。

里で毛皮を繕っている時に老婆達から聞いた沢山の物語にも出てこない、勇敢な戦士たちが語る武勇伝にもあんな生き物は出てこない。

だが、本能的に生き物ではなく里の戦士や魔術師が扱う”魔術”というものではないかと感じた。

だとすればそれを使ったものがいる。

偶然にしては出来すぎている。

確信がある、あれは、あれこそは、女神さまがつかわした勇者の片鱗であると。


「勇者ッ……様……勇者様……」


気づけば、足は目的地とは別の山へと向かっていた。

何か大いなる力に引きずられるように、ゆっくりと歩を進めた。



────────



朝になり、昼ちかくになってようやく山の麓へとたどり着いた。

緑の多いところに、それらしき人影を見た。

何か作業をしているらしかった。

恐る恐る近づいていくと、なにから奇怪な格好をしていることが分かった。

大声で何か歌か呪文のようなものを唱えだし、踊りだした。

ひたひたと、横から近づいていったが気が付く相手が気が付く様子はなかった。

近くでみれば、その人がわたし達とは違うことに気が付いた。

この辺りでは珍しい白い肌に、アードイーグルのような漆黒の髪、顔たちは優しげだが閃光のような眼が強い意志を感じさせる。

一目見て理解する、このお方こそが勇者なのだと。

女神がつかわした戦士なのだと。

そう思うと、安心したのか膝から崩れていた。

勇者様はあたしにかけより、言葉をかけてくださった。

そのまま肩を貸してくれ、木の皮を張り付けた三角の建物の中へ入れてくれた。



「だいじょうぶ? 水はいるか? 」


失礼だとは思ったが、体は正直だった。

奪うようにして木の器をとって、中身を一気に飲み干した。

その一滴一滴を余すことなく体が吸収する。

取引なしで貴重な水を分けてくれる、この人が勇者であるのだという考えは確信に変わる。


「あ……ありがとうございます、勇者様。」


乾いたのどから絞り出したような声で礼を言うと、勇者様は大変驚かれたように狼狽えた。


「あ、どういたしまして……いや、あの、なぜ俺が勇者だと? 」

「ずっと助けてくれると信じておりました。女神様が助けてくれると、女神様がつかわす勇者様が助けてくれると」


そう伝えると、何やら気まずそうに「あー」とか「そういうイベントか」とか「これも女神のたくらみ……」とブツブツと口の中で一人で話し始めた。


「あの……」

「あ、ごめんなさい。あの、とりあえずなんだ、食事もある、食べるだろう? 腰を落ち着けて話をしよう。」


あたしはいちもにもなくうなずいた。

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