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あゝ荒野(ハードモードスタート)

【勇者クレイ】

Lv1 

属性:土

人族:アダムカドモン劣種

【スキル】

共通言語(バベリスト)

この世界に生きる人々との会話、解読を難なくできる程度の翻訳能力。人のみならず、かつての古い言葉を使う魔族や人語を解さないとされる人型の魔物との会話も可能である。


病毒対抗C

この世界における病や毒から体を守るスキル。大抵の病は防ぐ他、極微量で致死性を発揮する毒でも大量に射込まれない限りは無効化する。また、寄生虫なども防いでくれる。




これが、この俺の現在のステータスだ。

意識を集中すれば空間に文字が現れる。

これは勇者が使える魔術であるらしい。

女神が低級の魔術を一通りつかえるようにすると言っていたのは本当のようで、脳に負荷でもかけたのか数十種の魔術の使い方がわかる────最低ランクだから全部弱いが。

魔術に纏わる知識と技能の他には特にこれといって情報は増えていない。

地理などがわかればかなり楽だったんだが……。


「しっかしまあ、どうしたもんかな。」


首に手を当ててうなだれる。

スキルも病毒対抗はかなり使えそうだが、それよりもランクが高い共通言語は現状使い道がない。

なぜなら──俺の異世界転生はだだっ広い荒野から始まったのだから。


現在の状況は異世界に来て十分程度、周囲を確認せど人の気配どころか文明の欠片さえ感じ取れない。

話だと1日も歩けば街につくはずだったのだが、これだけ遮蔽物が少ない環境なのにも関わらず目で測れる距離に人工物がないので、どう考えても数日や其処らで人が住む場所があるとは考えられない。

あの女神め…………ドジっ子属性があったようだ。

そんな雰囲気はあったよ、だって考えなしに他の転生勇者にバンバンチート能力を与えて女神の力が枯渇するような子だ。

『あ、やっべー』と言っていたし、どうせくしゃみして転生先を間違えたとかそんなんだろう。


「とりあえず時間がもったいない。動き出さなきゃ、体力がつきて死ぬだけだ。大丈夫、俺はこうみえてもボーイスカウトに入っていたんだ、きっとこういう時の為だったのさ。」


俺には二つの選択肢がある。

一つは少ない食料をもって、この荒野を歩き街を探すこと。

二つ目はこの環境で準備を整えてから街を探すこと。

手で日差しを遮り、じんわりと滲んだ汗をぬぐう。


「どっちも厳しい選択肢だ……特に一つ目は運まかせなところが大きいんだよな。」


いまから歩いて街を探すことの問題点はいくつかある。

土地勘どころか地理すらわからない土地で、あるかどうかもわからない街を探すのは膨大な行動範囲になりかねず、そのまま行き倒れる可能性が高いのだ。

うまくいけば簡単に見つかるかもしれないが、運が悪くて死んだ自分の運を信じてみる気にはなれない。

それに、魔物という存在もいることをスキルの説明文から確信できる。

ゲームや小説といったメディアの知識でなんとなくの予想はしているが、現在の俺のLvは1であり、未知との遭遇ゆえの死というのも十分あり得る。


「つまり、この選択肢はナシだ。とすると二つ目の選択肢なんだが……」


この環境で長旅の準備を整えるという選択肢、これもこれで問題がある。

まずこの環境で整えられるものに限りがある。

見渡す限りの荒野、痩せた土地であり水資源や食料、移動手段といったものを十分に確保できるかどうかが怪しいのだ。

群生している草や低木はあちこちに見て取れるが、それでも禿げた山に乾いた土地という印象をうけてしまう程に緑が少ない。

日本のように鬱蒼と茂った森に豊かな水資源、沢山の小動物といったものとは真逆である。


次にこの暑さだ。

下手に動き回れば直ぐにでも熱中症になってしまうだろうし、水を摂取しようにも見渡した場所に水源は一つもなかった。

つまりここは人が暮らしていくには不向きであり、長期滞在にはかなりの工夫と労力が必要なのだ。

こちらの案も最終的には人里を目指して旅に出ることになる。


「迷ってる時間はない……二つ目で行こう。少しでも生き残る確率が高いほうを……はぁ、まじでハードモードだな……こんなん放り出されたら普通すぐに死んじゃうっての。」



まずは女神からもらった見た目よりも大きな容積を持つ2つの背嚢を下し、中身を確認する。

異世界になじめるような出で立ちの、長袖の着替えが上下2着ずつ。

たっぷりと水の入った円筒形の瓶が4本。

まん丸の柔らかいパンが4つ。

ドライフルーツや紫色の芋のようなものが4食分ほど。

用途不明の青っぽい透明な液体の入った小瓶が4つ。

同様に小瓶に入った緑色の液体、これも4つ。

包帯やあて布が2セット。

ダガーが2本と、出来の悪い硬貨のようなものが少し。

折り畳み傘が2本。

女神ガビーの木像が2体……これは後で薪にしよう。



「これで全部か……期待を大幅に下回ってるな。」


ガチャガチャと地面にばらまかれたそれらを眺めながら、どうしたものかと思案する。

一応は他の勇者の倍の量になるが、あくまで街の近くに転生する前提のもので、このようなだだっ広い荒野に置き去りにされることを想定したものではないはずだ。

目先の事を考えると水があるのはありがたいし、長期的に考えても刃物が2本あるのは相当大きかったが、十分とは言えない物資だ。


「とりあえず、まずは水の確保だよな。この暑さじゃそんなに持たないぞ」


既にインナーは汗でびしょ濡れになっている。

日本のように湿気はないが、気温自体は今まで感じた中でもトップクラスだ。

このままでは干乾びて朽ち果てたミイラになってしまう。

俺は(おもむろ)に折り畳み傘に手を伸ばし、日傘代わりにすることにした。


「あ、これ大分違うな。片手はふさがっちゃうけど、干乾びるよりはマシだ。まずは水源、その次に日差しや雨風をしのげる寝床、そして火、それが終わったら食料だ。」


ひとつひとつ、やることを確認していく。

自分の行動を口にだして、脳に刻み込む。

孤独と混乱に耐え切れず発狂するのを防ぎ、ミスを減らし新しいアイデアを促す効果があるんだとか。


こうして、俺の異世界転生ハードモードが幕を開けた。




★★★



余談であるが、勇者として異世界転生したこの男の紹介をしておこう。

名をクレイ。享年22歳。

間の悪い星の元に生まれた男。

少年期にボーイスカウトに入りたいと両親に申し出た所、母のコネからなぜか筋骨隆々のオカマしかいない”勝沼塾”という妖しい所へ入門させられ、虐待じみた特殊部隊さながらの訓練を生き延びた。

サバイバル能力や戦闘等の各種技能が身体にしみつき、知識としても有しているが、筋骨隆々のオカマだらけのジャングルでつらい思いをした時の記憶は固く閉ざされている。

混濁した記憶を掘り起こそうとすれば頭痛がし、何も思い出せない。

故にボーイスカウトに入っていたという事実と知識のみを漠然と有している。

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