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土器(ドキドキ)

 日が昇る前に起きる。

暗くなってからやることもないので、早寝早起きなのは当たり前だ。

というかこちらの一日が長く感じる。

スローライフのようでいて、やること多すぎのマッハライフなので気のせいではないと思う。

もしかしたら一日が30時間くらいあるのかもしれないな。


「さて、まずは井戸を作ろうか。ハイドラ達、沢山枯草とか薪を集めてきてくれ。」


影脅し(シャドウフェアリー)のハイドラはある程度の期間俺から離れても生きていけるようだったので、最近はこうしてお使いにいってもらうことが多くなった。

餌を与えているからだろうか? あまり寄生されているという感覚はない。


「ここの地下に水があるかどうかが重要だよな──水感知(アクア・サーチ)


期待通り、じんわりと水がにじんでくる。

周囲に生えている木の大きさから考えても、地下数mから十数mに地下水があることを確信する。

手槍で洗面台がすっぽり入るくらいの穴をほり、その表面に水を混ぜてこねた粘土を塗っていく。

真ん中に棒を刺し、石をハンマーがわりに棒を叩き、さらに深く刺していく。

棒を引き抜き、とりあえずは第一段階完了。

ただ穴を掘っただけでは水が染み出して分散してしまうが、表面に塗った粘土が仕事をすれば水は長持ちするはずだ。

仕組みは水田と少し似ている。あれは地下の方に粘土層があり、水が流れているという違いはあるが、まあとにかく粘土は水はけを悪くするという特徴があるのだ。

それをさらに焼成すれば、より水は残りやすくなるだろう。


「前に手に入れた魔神の羽を使おう。」


棒を引き抜いた穴に背嚢をあわせ、穴に入るように慎重に羽を出していく。

背嚢は思い描いたものを出すことができる。不思議なもんだ。

この羽はかなりの高温で、すくなくともフライパンなんかよりずっと熱い。

こうして羽を突き立てておけば、時間経過である程度は羽の近くの粘土が焼き固まっていくだろう。

焼成とまではいかないので、仕上げは土器と一緒に焼き上げる。

井戸ができるまでの時間は、水を魔術で補おう。

Lvが上がって当初の想定よりMPに余裕がある為、1日くらいなら大丈夫だ。

1日寝ればMPが全回復、みたいな世界ではないようなので、毎日とはいかない。

年を取れば前日の疲れが残る、そんなもんだ。


作業が終わった後は昼までに罠を作っていく。

鳥用の跳ね上げ式の括り罠は製作時間がかかる割に効果が薄いので、今回は石を落とすタイプの罠だけにしておこう。

水を餌にすればこの辺りの生き物は寄ってくるので、石の下に水たまりを作っておく。

それを日陰に10か所ほど仕掛けておいた。

うまくいけば明日の朝には夜行性のネズミが1匹くらいは引っかかってくれるだろう。


午後は薪集めだ。

本来は両手いっぱいに荷物をもって傾斜を何往復もしなければならない重労働だが、この背嚢があればたった一往復で傾斜の薪のほとんどを集めることも可能だろう。

白く枯れた倒木も丸々持ち運べるため、イージーモードだ。

まあ、本当のイージーモードはそもそも薪集めなどしないのかもしれないが。

俺も大量に炭を持っているか、現地で調達するというのも重要だ。

在庫は残しておきたい。


午後をまるまる薪集めに費やした結果、シェルターの横には薪の山がいくつもできていた。

土器で大量に消費するにしても、一週間は余裕で持つだろう量だ。

最初の河川浸食谷よりも緑が多く、薪が多く集まったのだ。

滞在するにはいい場所だ。



一日の終わりにはまた肉を食らう。

非常食にしてある山芋モドキも、ここに生えてることを確認したので食らう。


「うん、シャキシャキした食感だ。たっぷりと水分を含んでいておいしい。」


のどが渇いていると、水がおいしく感じるのだ。

この担根体は水しずくが垂れるほどの水分を含んでいる。

その分カロリーは高くはないが、命をギリギリでつなげる程度の炭水化物は含まれている。

肉だけでは労働できないのだ。


「単純な作業ばかりだけど、普通にきつかったな。ほら、まぶたがなまりみたいにおもーい。」


草のベッドに身を沈める。

途中何度か確認したが、土器がだいぶ乾いていたので明日には焼けるだろう。

鍋型の土器も作ってあるので、完成したら土器をつかって豪華なスープでも作ろうや。




──────




朝一で目が覚め、罠を確認しにいって何もかかっていなかったことに軽く落胆しつつも、土器を焼く準備にかかる。

土器に粘土と灰を水で溶いた釉薬(ゆうやく)をぬり、焼き上げたときの耐水性を上げる。

釉薬が余ったので井戸穴にも適当に塗っておいた。


魔神の羽で乾いて固まってきた井戸穴に、土器を並べる。

一緒に焼くことで燃料節約になるという寸法よ。

羽の軸はおそらく耐熱性があるため、あえてそのままにしてある。

より熱がこもりやすくなるだろう。

問題は温度だ。

ただ焼いただけでは温度が低すぎるので、焼成がうまくいかないかもしれない。

そこで出てくるのが黒い町で手に入れた炭だ。

品質は悪いが木よりもある程度長く燃え、燃焼温度も高い。

800℃くらいならば数時間維持できるはず。

並べた土器に薪をたてかけ、枯れ草をまぶし、発火(ボンファイア)────

低位魔術で出来た火炎は薪を燃料に勢いを増し、薪から炭に燃え移りさらに白熱していく。

静かに炭を投入し続け、ただ炎が揺らめくのを見ていた。



3時間ほど燃やし続けた後、徐々に炭の量をへらし、やがて燃え尽きるのを待った。

それからしばらく山芋モドキを掘るなど、食料集めをしてゆっくり冷えるのをまった。

まだ燻る灰の中から土器をとりだし、木の棒で軽くたたいてやる。

土を叩く乾いた音ではなく、硬いものを叩いた時のようなコォンとした音が反響した。


「うん、ちゃんと出来てるみたいだな。」


見た目は赤黒く、素焼きと違って釉薬を塗った特有の光沢が出ている。

陶器とまではいかないが、土器としての品質は悪くないようだ。

井戸のほうも粘土が焼成し、カチカチに固まっていて水を通しにくくなっていた。

ダガーで水感知の術式を掘り、使用済みの魔力結晶を置いておく。

すると中央に空いた穴から少しずつ水が湧いてきて、井戸に水が溜まっていった。


「よし、とりあえず3日目で前回と同じ……いや、土器があるからそれ以上の生活を手に入れたぞ。」


あとは集めれる資材を集めて、また旅にでるのだ。

人に会うのは、あと何日後になるのだろうか。

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