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繰り返し(ループ&ループ)

 日喰(ヒハミ)の魔神トゥトゥマナの羽を魔力感知(マナ・サーチ)で調べたところ、恐ろしいことがわかった。


「おいおいおい……おいおいおいおいおいおいおいおいおいおい、魔力結晶(マナタイト)何個分だよ、低位の魔力感知じゃ測りきれねぇぞ。」


魔力結晶はいまの手持ちで一番しょぼいのでも俺よりも多くの魔力を含んでいる。

その魔力結晶何個分もの魔力を、いや下手したらもっと多くの魔力を含んでいるときた。

これが魔神の核などの大切なパーツではなく、ただの羽ときたものだ。


「これ売ればとんでもない価値があるんじゃないだろうか、魔力結晶も高そうだが……そのへんにあふれたものという可能性もあるだろう。でもさすがに町一つ燃やし尽くすもんがそのあたりに転がってるとも思えないし、うん、なんたって魔神の素材なんだからひと財産は築けるだろうな。」


取らぬタヌキの皮算用。

この場合は皮はあるが買い取る人がいないのだけど。

ああ、早く人に会いたいものだ。

今のところへんな女神を除けば登場人物一人だぜ??


足元の影が揺れ、黒いウツボが顔をだす。

いや、もちろんハイドラ達の事は大事に思ってるよ、でもお前たち一言もしゃべらないどころか鳴きもしないじゃん?

人数にカウントしていいかどうかわからんのよ。

登場人物かどうか怪しいのよ。


俺の影に潜んでいるからか、こいつらはある程度俺の思考を読めるようだ。

細かい造形を指定しない場合でも、長くなれとか大きくなってくれという思考を読み、望んだ形へと姿を変形してくれる。

ある程度の知性、すくなくとも犬猫よりは賢いようだった。

低位の魔物とは思えないハイスペックだ。


「戦闘でもアイデア次第でかなりつかえるしな。まあ、そこは俺の頭脳あってのものだけどな。」


ふふん、と偉そうにしていると3匹が白けた目を向けてきた。

ようにみえる。

悪い悪い、お前たちはすごいよ、いつも助けられてる。


「ゴホン…………さて、この町にある使える素材、ありったけ貰っていくぞ。」


何もかもが燃えて風化しているとはいえ、その辺の荒野では手に入らない素材がここには大量に存在している。

数日滞在し、背嚢に入るだけ詰めるのだ。


「……まあ、その気になったらこの町まるごと詰め込めそうだけどな。」


そうして得た文字通り山のような素材を工夫すれば様々な道具を、そして”お金”を生み出せる。

物珍しいものや使えるものをお金に変えるのだ。お金でなくとも、物々交換に利用してもいい。

人に出会った時の事を考慮し、交渉材料にするのだ。




そこからは丸2日かけて大量の素材を集めていった。

ハイドラにも手伝ってもらい、手当たり次第に背嚢に放り込んでいく。


「品質は悪いにしても炭が大量にあるのは最高だな、この辺りには燃料になる薪が少ないからありがたい。」

「この環境なら便所や厩舎跡からは硝石を含む土が取れる。きたねぇなんてお坊ちゃんな事は言うの禁止な。水と灰を使えば精製できるし、蒸留がちときついが硝酸も精製できるかもしれない。」

「石灰質の石もかなりあるな。焼けたのは炭酸カルシウムにできる。この辺りの砂とまぜればモルタルができるぞ。」

「あー!! おいおいなんだよ、オアシスの周りにゃ微量だけど硫黄があるじゃねえか!! いろんな便利化合物が作れる。こいつはいいもんを見つけたぜ。たとえば炭と硝石から作った硝酸カリと混ぜれば黒色火薬が……いや、ニトロ化合物の素材がそろってる今は50倍近い爆発力がだせるからいらないな、別のに使おう。」

「骨の欠片か。利用方法は少ないけど数を集めりゃ使い道は出来る。」

「何かの建材に使われた砂岩だ。こいつをさらに加工しなおせば鋳型(いがた)にできるな。古い古い時代の金属加工に使われてた手段だ。」


といった具合に、町でしか手に入らないだろう希少な素材が沢山見つかった。

その中でも特に気になるものがあった。


「こいつは……青銅(ブロンズ)か?」


小さな刃物か何かを形をした青銅器を見つけたのだ。

他にも溶けて形は崩れているが、青銅がある。

脳が瞬発的に考察を開始する。


青銅は腐食や風化に強いので形を残す事ができた?

いくつか青銅があるのなら、この町の金属器は青銅だった?

だとすれば青銅器が多くつくられた理由は?

この辺りの土に含まれているだろう風化した赤鉄鉱なら銅鉱石よりも簡単に集められる、ではなぜ?

それは温度────鉄を溶かすには約1500℃、炭素を4%ほど混ぜた銑鉄(せんてつ)でも約1200℃が必要になる。

その高温を作り出すには絶対に大量の炭が欠かせないが、炭を作るにはさらに大量の木材が求められる。

だがこの木の少ない地方ではそんな余裕はない。

しかし銅にスズを加えた合金──青銅であれば875℃で溶かせるので、煙突付きの窯があれば技術や材料に乏しくとも加工できるだろう。


「うん、きっとそうだな。薪という問題点からこの町は金属器として青銅器を用いていたんだろう。鉄器もあったにはあったろうが、腐食と風化に耐えられるわけもない。だが青銅器ならこれみたいに残っているはずだ。」


そう言いながら青銅をつまみあげる。

大量に集めれば、砂岩と合わせて鋳物が出来るはずだ。

かつてのこの町と違って、おれには町が丸ごと燃えた炭があるので燃料も十分、いけるだろう。


そこからさらに丸2日かけて同じような素材を手当たり次第に集めに集め、夜は爆薬を作って過ごした。

食べ物の余裕も無くなってきたので、そろそろ出発しなければならない。


「さて、ここにはもう用は無いし、北へ向かうとしよう。」


あれほど集めたのにも関わらず、強欲に木炭や焼け焦げた端材をハイドラ達と集めつつ、かつては繁栄していたであろうこのドーナツ状の町を出る。

時刻は昼過ぎ、影を利用することによって方角を確かめた俺は再び北へと歩き出した。

異世界で初めて訪れた町は、その名前を知ることもできず、ただの一度の会話もなかった。

かわりに、山ほどの遺物を俺にくれた。トレジャーハンタークレイだ。

ありがとうございました。もう来ることもないだろう。




──────




そこから2日ほど歩いたところで、比較的緑が濃い河川浸食谷が見えた。

ここにまた短期滞在して素材を集め、緑を求めてまた旅立つのだ。

つまりエンド&スタート、積み上げるのだ。

きっと無限には続かない、いつか終わりが来る、そう信じて繰り返していこうと思う。


背嚢から移動式シェルターのティピーの素材を出し、ティピーもどきを作りだしたところで今日は日暮れになった。

肉はまだまだあるが、炭水化物は尽きた。

この辺りにも山芋モドキが生えていることは確認済みだ。

時間と手間はかかるが、イネ科っぽい植物群からも取れるだろう。

目標は明日いっぱいで旅立つ前と同じ基準までもっていくこと、よし、頑張ろう。


シェルターの前に石を組んでかまどをつくり、適当に肉を焼いていく。

この味にも飽きてきたが、残念ながら食に文句をいえるほど余裕があるわけではない。


「土器を作るのもいいな、煮込み料理がつくれる。」


飯もそこそこに、土器をつくる準備をする。

断層から大量に入手しておいた赤い粘土があれば作れるだろう。

土器には焼く前に乾燥させる時間が必要なので、早めに作る。早ければ早いほどいい。

乾燥地帯でカンカン照りの下においておけば1日か2日もあればカラカラに乾燥するだろう。

今晩のうちに作っておけば、明日は一日中乾燥させることができる。


水生成(クリエイトウォーター)で粘土に水をまぜ、よくこねていく。

乾燥した葉にも水をためておく。

ろくろがないので、紐状に伸ばした粘土を輪にして積み上げていく方式で作る。

生まれた地域に窯焼きの伝統工芸があった為、小学校や中学校での行事で何度か作ったことがある。

なつかしいな……まさかあの経験がここで役に立つとは。

適当に形ができたら、葉にためた水を手につけて形を整えていく。

できるだけ綺麗な形で、厚みに差がでないように気を付けながらツボ型に整えていく。

3つばかし作ったところで、かまどの近くで乾かしておく。

粘土に不純物が多いので品質は期待できないが、この環境ではこんなものだろう。

さて、今日はもう寝よう。

明日は井戸づくりだ。

魔力結晶(マナタイト)があれば水は沢山つくれるが、地下から汲んだほうが消耗が少ない。

やがて魔力結晶が沢山必要になる機会が訪れるかもしれない、節約はするべきだろう。

そんなことを考えながら、眠りについた。

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