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魔神(デミゴッド)

 漆黒に燃えた町、その中心にある枯れたオアシス。

さらにその中心には、朱く光る何かがあった。


「いってみるか……ハイドラ、3匹とも俺に巻き付いておいてくれ。」


影が水面のように波打ち、凄いスピードで黒いウツボが足を伝って体にまきついた。

手槍を握り、慎重に窪地を降りていく。

近づくと、それが2m程の黒い棒状のもので、炎のように揺らめく光が時々表面を這っていた。

まるで燃えている最中の木の棒みたいだ。あちこちが白熱しているのだろう。

1mほどの距離でもやんわりと熱を感じる。


「なんだこれは……鑑定。」


生存者スキルについてきた低位の簡易鑑定を発動する。

変なものじゃなければいいのだが。



【トゥトゥマナの羽】

日喰(ヒハミ)の魔神トゥトゥマナが落とした羽。

町を燃やし尽くし、今は軸以外も燃えてしまった。


おっふ、こいつはやばい。

想像していたものと違った、色々と。

この町が燃やされたのは正しかったようだが、魔王ではなく魔神トゥトゥマナという奴がやったらしい。

魔王と魔神の何が違うかは知らないが、魔王より凄そうだ。

オアシスの池の中心に羽を落とし、町を燃やし尽くしたというのは……考え難い。

大量の水に炎がかき消されるはずだ。

いや、俺が知らない不思議な力……たとえば魔術なら可能かもしれない。

落ちる時点で町一つを飲み込むほどの炎を……いや核かよ、もっと考えにくい。

考えにくいが、おそらく事実なのだろう。

俺の中にあるのは低位魔術の詳しい知識だけで、その上の下級中級上級魔術などの知識はない。

さらに上の高位や超位に限界点といわれる精霊域ならば、いやあるいは魔神というくらいなのだろうから事実上不可能とされている神域の魔術ならばそれを為せるのかも。

いずれにせよ、目の前にあるのが町一つを消し去るほどの力を羽、魔神の素材だ。


「これってよ、もしかしてすんげーチートってやつなんじゃねぇの? 」


この周囲だけとてつもない熱量だ、気温が違う。

触れそうな距離まで手を近づけるとチリチリと肌が焼ける。

300~400℃はありそうだな、フライパンよりもずっと熱い。

何かに使えるだろうから回収しておきたい。


「しかしこれ結構深く刺さってるぞ、周りを掘らねぇとな。」


汗をかきながら木の枝で地面を掘ろうとしたが、どうやらすっかり焼き固まっているようで木では歯が立たなかった。

仕方がないので水生成(クリエイトウォーター)を周りの土にかける。

しゅうしゅうと音を立てて地面に少しずつ水が吸われていく。

そこに衝撃を与えてやると、地面がひび割れていく。

土器のようになっていたのだろう。

それを繰り返して掘り進めたが、30cmほど掘ったところで作業を中断する。

かなり深くまで刺さっているようだったので、明日また作業することにしたのだ。


「どれくらい時間がかかるかわからないからな、日和見してもいいだろう。別になくなるわけじゃない。」


今日は寝ることにする。

暖かいのでこの近くに野営地を越してきた。

この羽の軸を回収できれば少なくとも暖房にはなるな。

まどろみに沈む中、虫の声は聞こえなかった。

ここには、生きている動物はいないのだ。



────



「だめだだめだ、暑すぎて作業どころじゃねぇぞ」


次の日、俺は朝から作業を開始していた。

だが、この酷暑と羽の熱のダブルパンチで参っていた。

水を使って掘り進めたせいで、あたりの湿気も高くなってしまったのも追い打ちになった。

作戦を間違えた。


「まあ、町一つを滅ぼしたトンデモ兵器を掘り出そうってんだから、苦労なしってわけにはいかねぇだろうよ。」


いや、まてよ。

何かしら方法はあるんじゃないか?


「うん、そうだ。冷静になろう、横着するのはやめるんだ。」


別の方法を模索しよう。

もっと魔術を沢山つかえば簡単に掘り出せるんじゃないだろうか。

Lv5の俺のMPはおそらく低位魔術30発分程度で、すでに10発分ほどつかっている。

魔力は常に半分くらいは残しておきたいので、あと5発分程しか使いたくない。

だが、今のおれには別の魔力リソースがあるじゃないか。

背嚢から小さなノジュールを一つ取り出し、ダガーの塚頭で何度も叩いて割る。

中には小さな魔力結晶(マナタイト)が入っていた。

地面に低位魔術の魔方陣を描き、魔力結晶を置いて発動させる。


発動させる魔術は土感知(ソイル・サーチ)

指定した土を感知し、それを引き寄せる魔術。

相変わらず範囲が狭く、地質とはその周辺一帯は同じな為、基本的には使いどころがない魔術となる。

だが羽周辺の土は長い間熱せられたことで他の土に比べて変質していた為、この魔術が有効になる。

水感知よりも燃費が悪いのだが、いまは十分な魔力リソースがあるのでガンガン使っていけるというわけだ。


ダガーでガチガチと土をたたいて割り、魔術が土を引き寄せる手伝いをする。

しばらくそうしていると、徐々に羽の全貌が見え始めた。

おおよそ3.5mほどはあるだろう。

巨大すぎる羽だ……異世界はスケールが大きすぎる傾向があるが、それにしてもビックリなサイズだ。

3.5m、俺が生きていた時代では最大級とされるコンドルやアホウドリでも翼をいっぱいに広げてそれくらいなんだ。

それがたかが羽一つで……一体どれくらいの大きさになるのだろう。

20m?30m?それとも50m? 

魔神っていうくらいなんだからそれくらいのバカみたいなサイズでもおかしくはない。

どこぞの壁からひょっこり頭をだす巨人くらいのサイズが飛んでいる……うわぁ人類滅ぼしてそうだなぁ。

煙もプッシュップッシュッ出てそうだな、モワァッ。

水で濡らした服をまきつけ、ハイドラ達に手伝ってもらいながら思いっきり引き抜いた。


「魔神の素材、ゲットだぜ!! 」


たとえ火の中水の中草の中、森の中。俺は生き抜いて見せるぜ。

水も草も森もないけどね。

この黒く焦げた町の残骸に足を運んだかいがあったというものだ。

これだけの熱量を持つのだから、様々な使い道があるぞ。

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