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出立の朝(ディパーチャー)

 日が昇る前に起き、シェルターの解体にかかる。

これはネイティブアメリカンの中でも狩猟採集で生きていく人々が作るシェルター「ティピー」を参考に作ったもので、解体して移動することを想定している。

変幻自在の影脅し(シャドウフェアリー)であるハイドラ達に手伝ってもらい、シェルターの樹皮をどかして蔓をほどき、支柱を回収していく。

不思議な背嚢にしまえば、簡単に持ち運んで建てられる移動式シェルターになるというわけだ。

ネイティブアメリカン達はソリで引っ張ったというが、俺は重さ0で運べる。

本当に便利だな……この背嚢。


「ご苦労だったな、ハイドラ。ほーらご褒美だぞ。」


3匹のハイドラ達に魔物や小動物の内臓を適当に与える。

ご褒美としてもだが、栄養を与えておかないと俺から吸われるのだ。

なにせ3匹分だからな……それなりにエネルギーを消耗してしまう。

俺が消化吸収できないような端材もこいつらは平気で食べることができるので、余すところなく魔物を利用できるのだ。


井戸の水はハイドラ達とたっぷり飲み、空いている容器すべてに満タンに補充し、残りはこの地に生きる魔物達に残していく。

恐ろしい荒野だったが、この地がくれた恵みで生き残れた。

さらば荒野、また来る日まで。


「いや、二度と来ねぇわ。」


脱出が目的だからね。

名残惜しさがあるのは、この先に待ち受ける不安からかもしれない。

ここの方がマシだった、そう思えるような険しさが牙をむくかもしれない。

だが、前に進まなければならない。

勇者だからではない、一人の生きる人間としてだ。

昇る朝日と共に、俺は真北へと向かって歩き出した。




────────




歩き始めて3時間程度。まだ日が高く上る前だというのに体が悲鳴を上げ始めていた。


「暑いな……いや、もう熱い。」


照りつける太陽の酷暑と照り返す大地の熱が肌を焼く。

ハイドラ達に交代で日傘をさしてもらっているのである程度は軽減されているのだが、それでも運動し続ければ苦しくもなる。

出る前にたっぷりと取ってきた水分は既にマイナス収支だ。

目測では10キロ近く歩いているはずだが、景色に変化が無い。

どこまでいっても禿げた岩山と枯れたような草が生えているばかり。


「あのひと際高い山に登って、辺りを見渡そう。」


高さは……1000mを超えるくらいだろうか? この辺りにはあまり高い山が無い。

だからこそ辺りが見渡しやすいのだが、同時に焦りも覚える。

高山が無いのは砂漠や広大な荒野、平原の特徴のひとつでもあるからだ。

もしこの荒野が途方もない広さを持っているなら、きっと登っても収穫は無く体力を消耗するだけだ。

どこまでも続く荒野に、心が折れてしまうかもしれない。


「いや、大丈夫だ。今の俺にはハイドラがいる。おいそれと死ぬわけにはいかないんでね。」


影に潜む3匹の魔物、きっと俺がくたばればこの地で死んでしまうだろう。

既にペットとしての愛着やパートナーとしての絆が芽生えている。誓ったんだ、ハイドラの為にも生きると。

そんなことではへこたれない、大丈夫なのだと自分に言い聞かせておく。

絶望を連れてくるのは希望だ。裏切られた瞬間が一番つらい。

最初から期待を下げておけば失う希望も小さくて済む、そんなライフワークさ。


「そんな事を歌ってた歌手もいたっけな……はは。」


現代的な音楽を使って吟遊詩人になるのも、チートのひとつではないだろうか。

受け入れられるかは知らないが……いやそもそも俺は音楽が出来ないが。




────────




尖った石と砂っぽい土のおかげでとても登りにくい。

滑落に気を付けながら慎重に峰を目指す。

太陽からみて正午くらいだろうか、1000mと侮った。


「思った以上に登りにくいな……頂上付近ほど難易度が上がるってのはわかってたはずなんだけど。」


山は専門じゃないんだ。

時折変幻自在のハイドラ達に支えてもらいながら、なんとか頂上へとたどり着く。


「はは……こいつはすげぇや…………」


頂上へと登りきった達成感で余裕が出来たのか、この世界に来て初めて景色を楽しんだ。

荒々しき大地が広がる雄大な地平線を、全てを焼き尽くす太陽が煌々と照らしている。

見える範囲にそう緑は多くない、きっと似たような気候が数十キロ、数百キロと広がっているのだろう。

だが、それを見た時の俺は不安ではなく、もっと別の何か────


「これが────ロマンって奴かな? 言ってて気恥ずかしいけど。」


内側に何か熱いものが灯るのを感じる。

絶望してしまうなんてのは杞憂だった。

冒険心とか、ワクワクとか、なにかそういうものが胸いっぱいに広がっていた。


「まさかモチベーションが上がるとは思ってなかったな……現実主義者(リアリスト)のこの俺がよ。」


この広い大地に、今は俺しかいない。

相も変わらず文明の痕跡はなく、その事実が不安なはずなのだが、この瞬間だけは不安を雄大な自然が塗りつぶしていた。


「しっかしどこまでいっても荒野────あ? 」


荒野の一角に、黒い地帯があった。

この地に置いての異物、異様な光景。


「なんだ……ありゃ? 」

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