串焼き(ウマイヤツ)
日が暮れたので晩飯にする。
朝から沢山獲物が取れ、その処理で食事をする暇がなかったのでとても腹が減っている。
身体のエネルギーもガス欠気味だ、たっぷりと栄養を取ろう。
「今日は豪華に行くぜ、腕がならぁ。」
まずは植木鉢亀の赤身肉をぶつ切りにして木で作った長い串にさしていく。
さらにうまそうなピンク色をした背ロースも別の串にさす。
さらに岩山蛇の肉もいってしまおう。今日の俺は止まらない止められない。
骨だらけの肉をぶつ切りにして葉に包み、さらに樹皮でつつんで泥を塗る。
これをかまどの下に埋めれば蒸し焼きになる、いわゆるオーブンだ。
樹皮が焼けるのを泥が守り、葉が中の湿度を保ってくれる。
石で囲っただけのかまどの周りに2本の植木鉢亀の串を刺し、かまどの下にぶつ切りにした岩山蛇の肉を埋めた。
枝をテントのように立て、内側に枯草を詰める。
発火──焚火には精神を落ち着かせる効果がある。
身体だけでなく、心を暖めるものでもあるのだ。
パチパチと木が爆ぜる音と、よくわからない種類の虫の声だけがあたりに響く。
腕がなるとか言ってぶつ切りにしたものを焼いているだけだが、一流のシェフを呼んでもたぶんあまり変わらないからいいんだよ。
まだ肉は沢山あるから、この調理法がダメなら次また考えればいいさ。
肉が焼けるのを待つ間、これからの事を考える。
水は手に入れた、火も手に入れた、簡易だが住む場所もある。
問題は資源の枯渇だ。
現在は狩って入手した肉が大量にあるものの、新たに魔物を狩らねばやがてそれも尽きてしまう。
だがこの環境では生息数がそれほど多くないはずなので、遭遇率は下がり続けるだろう。
そもそも魔物はかなり危険で、必ず俺の勝利に終わるという甘い考えは捨てるべきだ。
また、肉以外の栄養素も必要で、目下問題なのは炭水化物。
糖質を新たに入手していないので、そのうちグリコーゲン不足に陥って動けなくなるだろう。
そうなる前に炭水化物を見つけ出さなければならない。
薪の数も足りない……つまり火の維持が困難だ。
元々木が少ないのも手伝い、まばらに落ちている薪を集めるのも一苦労だ。
不思議な背嚢がある為、圧倒的に効率はいいはずなのだが、それでも時間がかかる。
以上の問題点から、長期滞在は難しい。
一週間かそこらは大丈夫であろうが、1ヵ月2か月の長期生活は致命的。
狩猟採集で生きていくにしても、人類を見つけるにも、この乾燥地帯からの脱出が必要になる。
集めるだけ資源を集めて長距離を移動し、そこでまた短期滞在しながら資源を集め、長距離移動する。
難易度は高いが、これならいつかは文明社会にたどり着けるだろう。
ちらりと、脇を見る。
何もない所に木の棒が差してあり、一定の間隔で石が置かれている。
日の入りまでの時間を大雑把に計れる日時計で、今朝起き抜けに作っておいたのだ。
大事なのは時間を計る事ではなく、より正確な方角を知る事にある。
石と石との間には直線が引いてあり、その線に十字になるよう垂直に線が引いてある。
この十字が方位になっているのだ。
太陽がどの方角から昇ってどの方角に沈んでいくかはわからないが、進路を決める際に重要な役割を果たす。
やみくもに長距離を移動しても移動距離が伸びるだけで、複数回移動するならなおのことひどい結果になるからだ。
いくつも描かれた十字模様はそれぞれほんの少しだけズレている。
わずか数度のズレでも、数キロ、数十キロの移動になると大変なものになってしまう。
片手間で出来る事なので、慎重に考えていこうと思う。
「おっといけない、肉が焼けすぎちまう。」
薪が燃え尽きて炭と灰になり、ちろちろと橙色が煌めいているかまどの傍から植木鉢亀の串焼きを取ってひと噛み。
余計な油が程よく抜けた柔らかい肉の感触がに口に広がる。
やや繊維質であるが、野生肉としてはかなりの上質だ。
(ああ、これはいかんぞ)
塩も何もかけていないので少々味気なかったが、約2日間で最も上質な食事に箸が止まらない。
いや、箸など無いが。
想像よりも上の味に、いい意味で期待を裏切られた。
「ならこっちも期待できるかもな。」
灰をかき、地面から岩山蛇のオーブン焼きを取り出す。
樹皮をどけ、茶色になるまで火が通った葉をどかせば中にはジューシーそうに肉汁をたらした肉が待っていた。
火が通って白くなった肉は簡単にほほろぎ、手でちぎりながら口へ運ぶ。
「うん、美味しくない!! 」
食感は硬めで歯ごたえのある魚だが、非常に生臭い。
肉の味が濃く、どこかあごだし(トビウオのダシ)のような風味を感じるので、まともに調理できれば化けそうだが、少なくともオーブン焼きはダメだったらしい。
「はぁ……調味料が欲しいな。贅沢は言わないから塩くらい欲しい……いや、塩は贅沢か? 」
この辺りに海は無いだろうし、枯れた塩水湖でもなければ手に入らないだろう。
普通に入手難易度が高いぞ。
まあ、真っすぐに旅を続けていればいつかは海にたどり着くだろう。
大地ばかりの気候ではない(と予想する)ので、海くらいあるだろう。
そこから海岸線にそって旅をすれば、港町があるかもしれない。
もしくは大きな川を見つければ、そこから海へつながる事も期待できる。
川と海が混じる汽水域なら、より人が住んでいる可能性が高いはずだ。
「とりあえず今は飯を楽しもう。」
岩山蛇の肉を骨ごとハイドラにわけてやりつつ、串焼きを頬張った。




