「女癖が悪い」とパーティを追放されすぎて有名になった冒険者、幼馴染の錬金術師が作った薬で美少女になる ~心機一転頑張りたいと思いますが、ちなみに女癖の悪さは治りませんでした~
「あんたなんかパーティに入れるわけないでしょ! ダメったらダメよ!」
開口一番――とある冒険者のパーティの募集を見てやってきたのだが、いきなり俺は拒絶の言葉を投げられた。
俺は苦笑いを浮かべながら、少女に対して言う。
「おいおい、そんな邪険にするなよ。俺のことを知らないのか?」
「知ってるから言ってるんでしょ! 『女たらし』のヴェイ・ランダー!」
ビシッと少女は指を差して、威嚇するように言い放った。
明らかに敵意のこもった視線を受けて、俺は肩を竦める。
「まあ、そう呼ぶ奴もいるにはいるが……そっちじゃなくて冒険者としての実力だよ。前衛が足りてないんだろ? 俺なら、十分に条件を満たしていると思――」
「条件の問題じゃないわ! 人間性の問題よ! あんたみたいな女の敵は、絶対にパーティになんか入れないわ! 色んなところで噂になってるわよ! とにかく、この話はここでおしまいだから!」
バンッ、と彼女は扉を閉めて、拠点の中へと引きこもってしまう。
もはや、説得の余地もないというレベルであった。
「ちっ、お前みたいなガキには興味ねえっての……。だが、弱ったな……」
――少女の言葉は嘘ではない。
ここ最近、俺は確かに巷で噂になってしまっているらしい。
パーティに入る目的が女と遊ぶため、なんて色んなところで言われているらしい。
まあ、半分は間違っていない。
いい関係になれそうなら、もちろん俺は男なわけで……そういうことに手を出したりもする。
ただ単純に、正直に生きてきただけだ。
「女癖が悪い」――そう言われて、俺は色んなパーティから追放され、そして今はパーティに入ることすら叶わなくなってしまったのだ。
冒険者としての能力は、はっきり言ってしまえば高い方ではある。
今の俺のランクはAで、一応上にはSランクも存在するが――基本的にAのレベルまでくればトップクラスだ。
冒険者としての能力だけを見れば、雇って損はないはずなのだが……いかんせん、悪い噂が広まりすぎてしまった。
「ここまで広まってるとなると、面倒だな……」
活動拠点を変えたとしても、同じことの繰り返しだろう。
それに、冒険者のギルド間での情報はやり取りされる。
もうすでに、他のところでも俺の名が広がりつつある可能性は十分にあった。
こうなると、俺もいよいよパーティ抜きでソロ活動することになるが――まあ、そこは正直心配していない。
だが、冒険しながら女遊びができなくなる方が、どちらかと言えば問題であった。
この点に関しては、もはや変えられない俺の性なのだ。
「困ったなぁ……」
「――その話を、わざわざ僕に聞かせに来たのか?」
呆れた様子で俺を睨むのは、幼馴染で親友でもあるラース・クレイトルだ。
こいつは冒険者としての活動はほとんどせずに、錬金術で作った怪しげな薬を売っている。
まあ、それで生計を立てているのだから、薬としての効能は期待できるのだろうが。
「俺も困ったわけよ。このままじゃ、冒険者業も成り立たねえ」
「君ならパーティではなく、ソロでもいけるだろう」
「そりゃそうなんだが……」
「第一、原因は全て君にある。その女癖の悪さを少しでも治せれば問題はなかったはずだ。パーティにいくごとに色んな女性にちょっかいを出していては、それはもちろん悪い噂も広まるさ」
「いい女を見ると放っておけないのが俺なんだ」
親指を立てて答えるが、ラースは大きくため息を吐いた。
「それで、僕にどうしろと?」
「どうって、お前なら今の状況を打破できる案が浮かぶんじゃないかと思ってな」
「転生するしかないな」
「俺に死ねってのか!?」
「いや、馬鹿は死んでも治らないと言うからな。おそらくは死んだところで意味はないだろう」
「相変わらず辛辣だなぁ……。まあ、さすがにお前に相談したからってどうなる問題でもないと思ってるけどよ」
「全てにおいて自業自得でしかないんだ。それでどうにかできないかと言われても――まあ、方法はなくはないが」
ラースはそんなことを口にした。
俺は思わず、食い気味に問いかける。
「おいおい、あるのかよ? そんな方法が……?」
「まあ、転生と同じ類の話だな」
「またその話か? そもそも転生なんて無理だろうが」
「だから、要するに別人になればいいだけの話だろう?」
「……? 話が読めないんだが……?」
何を言っているのだろうか。
俺が首を傾げていると、ラースは戸棚から一本の薬品を取り出した。
「これは?」
「僕が作った試薬の一つだ」
「試薬? なんでそんなものを俺の前に……って、まさかこれを飲んだら別人になれるってのか?」
「そういうところの理解は早いな。その通り――まだ試験の段階ではあるが、この薬品は容姿を変えられる、はずだ」
「……はずっていうのは?」
「人間に試したことはない、という意味だ。さすがに容姿に直結するような薬品をおいそれと僕自身が飲むわけにもいかないので、試せる人間を探していた」
「俺に実験台になれってことかよ……」
「関係としてはお互いに損はしないはずだ。僕は試験薬の効能を確かめることができる。君は……まあ、運が良ければ別人の見た目を手に入れることができる」
ラースの提案は、かなりの博打であった。
だが、こいつの作る薬は決して効果がないわけでない――容姿を変えれば、俺は一から冒険者としてやり直すことになるわけだが、別にそこまで大きな問題にはならないだろう。
「へっ、いいぜ。確かに見た目が変わるなら、今の状況は打破できるな」
「見た目が変わっても、中身が変わらなければ同じことの繰り返しだとは思うけれどね」
「ま、そこは追々考えるさ。一先ず、今はまたどっかのパーティに入れるようになれば、俺を受け入れてくれるところも見つかるかもしれねえ。じゃ、早速……」
俺はラースから受け取った試験薬を一気に飲み干した。
迷わず飲んだ姿に、ラースはまた呆れたような表情を見せる。
「お、悪くねえ味だな」
「薬でも最近は味を気にする奴がいるからな。需要に応えている」
「さすがだな――って、なんか身体が熱くなってきたぞ?」
「早速、試験薬の効果が出たのだろう。目の前で見た目がどう変化するか、観察させてもらうよ」
「おう、しかしどう変わるのかねえ。今のまま、イケメンだとありがたいんだが」
「それは保障できない――」
瞬間、俺の身体から煙が噴き出した。
「うおおおっ!? なんだ、これ!?」
「……人体発火? 無事か、ヴェイ?」
ラースの姿も確認できないくらい、周囲に煙が満ちる。
だが、すぐに煙が晴れてききた。
「あ、ああ。めちゃくちゃ熱くなったけど、一瞬だった――って、なんか声が変になったぞ?」
「大分、甲高い感じになったね」
「おいおい、声が変わるだけなんて聞いてないぜ?」
「声だけとは限らない。見た目だって――は?」
ラースの姿がしっかりと確認できるようになって、最初に見えたのは彼の驚き顔だった。
目を見開いて驚愕するラースを見るのは、正直初めてで笑ってしまう。
「はははっ、なんだその顔!」
「いや、それは僕の台詞なんだが……」
「あ? お、もしかして俺の顔が変わってる!?」
「変わってるというか……まあ、そこに鏡があるから見てみるといい」
ラースに促されて、俺は壁に取り付けられた大きな鏡の前に立った。
何故かサイズの合わない靴に、ずり落ちそうなズボン――だぼついた服に違和感を覚えながらも、俺は鏡の前に立った。
そこにいたのは、とんでもない美少女であった。
俺の服を着た美少女が、鏡の前で間抜け顔をしている。
まあ、間抜け顔でも美少女と分かるくらいには美少女だが。
「……って、これが、俺か……!?」
頬に手を触れると、鏡の中の美少女も頬に手を触れた。うん、俺だ!
元々黒い髪は長くなって、腰にくるほどになっている。顔立ちは整っているが、随分と幼くなってしまった印象を受ける。
それどころか、全体的に二回りくらい小さくなってしまった。
見た目年齢的には十五、六歳くらいだろうか。
「おいおい、いくらなんでも変わりすぎだろ……」
「いや、正直僕も驚いている。だが、君だと分からないくらい変化はあったな」
「そりゃ、そうだけどよ。これじゃほとんど女――ん?」
そこで、俺はもう一つの違和感に気付いた。
たった今言葉にした通り、俺の姿は女の子なわけだが、何やら大事なものがなくなっている気がする。
そして、それは気のせいではなかった。
「いや、マジで女の子になってるんだが……?」
この日、俺はラースの作った薬品で別人になることに成功した。
男から女へと、性別が変わるという予想外の方向で、だ。
***
俺が美少女になってから、一月ほど経過していた。
薬の効果が切れるかと思えば、そんなことはなく――俺は完全に女の子になったままだ。
ラース曰く、試験薬の効果が予想外だったために、戻る方法についてしばらく待ってほしい、とのことであったが、俺自身は見た目が変われたので特に気にしてはいない。
むしろ、心機一転――美少女に生まれ変わったのなら、その道で冒険者として生きていく方向で問題なかった。
問題は、俺の見た目が美少女になっても、俺の中身は一切変わらないことであった。
朝、ベッドで目覚めると、俺の隣には一緒に『寝た』女の子がいる。
若すぎる子は趣味ではなかったのだが、逆に俺の今の見た目だと、若い子の方が俺の誘いに乗ってくれる。
俺の見た目が若いせいか、少し年上の女性に声を掛けても、「もう少し大きくなったらね?」とか、はぐらかされてしまうのだ。
ちなみに、今隣で寝ている子は、俺が最後にパーティ入りを拒まれたところのリーダーの少女だ。
同一人物など気付くこともなく、俺がパーティ入りを要望すると簡単に受け入れてくれて、俺が強気で誘うと、割と簡単に受け入れてくれた。
美少女ライフを結構、満喫できている。
ただ、唯一問題があるとすれば――
「えいっ」
不意に背中から引っ張られて、俺はベッドに押し倒される。
少女――エリは俺を見下ろしながら笑みを浮かべて、
「今日は休みにしたし、朝からゆっくりと楽しめるわね?」
「あ、ああ……そうだな。だが、もう少し休んでから――」
「ふふっ、どうしようかしらね」
完全に、俺が襲われる側になってしまった、という点だ。
その日もまた、俺はある意味で色んな冒険をさせられた。
美少女になって、何やら色々未知の世界に足を踏み入れた気分だが……これはこれで楽しめるのでいいのかもしれない。
見た目は変わって中身は変わらなかったが、俺の生活は美少女になったことで上手くいくようになった。
趣味の短編書きました。