下っ端、参謀さん
国と国の戦争でとても大事なのは兵力、兵站、戦略、そして情報。
圧倒的な力を持って相手を屈服させるためには、維持できる食べ物、兵器、武器が必要。ただ無作為に戦争を仕掛けても意味が無いためどこを攻め落とせばよいのか考える必要もある。これらを統括的に考え実行しなければならない原材料として情報がある。
「とは言うものの、行うのは難しいってね」
「どうしたんだ。下っ端参謀さん」
ちっ、いつも下っ端呼ばわり。確かに、俺は参謀所の中でも下っ端、入ったばっかりだ。前線指揮の補佐なんて下っ端らしい仕事だろ。
俺のことを下っ端呼ばわりするこいつはこの防衛拠点の隊長。
肌は茶色に焼け焦げていて、無駄に筋力がありなおかつ汗臭い。体のあちこちに古傷もあり歴戦の強者感も併せ持つ。誰しもが認めないわけがない硬派な隊長さん。
「隊長さん。下っ端はいいですけど、この状況はどうにかならないものでしょうか?」
「適当に守っときゃ援軍は来るだろ」
今、まさに攻め入られる寸前で城塞に籠って防衛戦の真っ最中。
敵は総勢五万の大軍。対してこちらはというと守備兵が三千いるかいないか。
この状況でのんきに防衛をできるわけがない。俺は撤退も視野に入れて攻撃か、防衛かを考えていた。
「敵の指揮官は有名な軍師様だそうだ」
「えっ? それじゃあ勝ち目はないのでは」
敵の軍には文字通り百戦百勝の名軍師様がいる。歳は結構とっているという印象だが。
でも、噂のみで実際に会ったことはない。
こんな城塞、恐らく一日持つかどうか。国の行く末がここにかかっているのかもしれない。
そう思うと重圧で変な汗が出てくる。
「大丈夫か? そんなに気負うことはないと思うぞ」
「申し訳ございません。重圧となると昔から変な汗が流れやすい体質なので」
「もとより、勝利はないと思っている。ここにいるみんなが死ぬとわかっているからな」
隊長のその言葉で今まで忘れていた。味方兵士を見てみた。みんな、決意ある表情をしている。この隊長に付いて行って死ぬことになろうとも後悔はないと決めているようだった。
他にも大事なことがあるはずなのに。
「わかりました。私も考えうる限りの戦術を出します!」
「ああ、よろしく」
みんなとこの困難を打ち破るため、隊長と一緒に敵の陣形の把握、兵士たちの様子、土地の状況、敵の援軍、武器、食料の情報をすり合わせた。
「まず敵は五万、主な構成としては歩兵が多く約八割、後の二割は騎兵だ」
「馬自体が維持にお金と干し草などで不利。ですが攻撃力は歩兵では敵いませんが」
「ただ、その騎兵連中の様子を見てきた奴からはあまり練度が高くない様子だったと聞いている。何でも歩かせたりしているので精一杯だったそうだ」
「土地柄もよく見てください。敵は正面を川に後ろを山に挟まれたところに布陣しています。歴戦の軍師が考える配置としてはあまりにもずさんな気がしますが、罠という可能性もあります」
「で、あれば罠を食い破る様にして飛び込むしかない」
「隊長さん。それは早計かと。確かに罠であればもっとしっかりと陣形を組むか、全軍を陣地内に待機させはしないと思います」
「なるほど」
「明日の明け方奇襲で勝利になると思います」
罠を張っていたとしたら、通常通り城塞から出た場合か夜襲をかける場合。左右後方から伏兵で完全包囲されてしまう。
だが、準備している振りをして時間をずらして攻撃を仕掛ければ勝利の糸口をつかめるかもしれない。
敵の名軍師様からしてみたら俺のこの助言さえ見破られていると思うのだがな。
「申し上げます!」
「どうした?」
「敵軍の援軍、食料、武器に関して報告いたします」
敵情視察のため派遣していた偵察の兵だ。ちょうどタイミングが良い。
「敵の援軍はなく、後方の山向こう、森、左右の岸辺にわたって偵察しましたが人一人見つけられませんでした。さらに食料も長居できる分はなくもって四日ほどです。武器防具も精鋭部隊とは思えないほど粗末なものでした」
これは、間違いようもなくヒラの指揮官がいて別動隊が主体の陽動作戦。こちらの城塞が獲れたら儲けものくらいの感覚だ。
この状況がわかれば、攻撃もしやすい。
「隊長さん。決まりですね」
「ああ、下っ端参謀の作戦を決行する」
話し合いの数時間後。
たった三千の兵力で五万の軍勢を打ち破った。この時はただ単に敵を打ち負かし撃退させたことでみんなと喜んだ。