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SOCIETY ver.5.1  作者: 財天くらと
外伝 龍道川トオルの事件簿
35/45

EPISODE10 小林ヨシノリ

 マンションの階段を駆け上がり、三階のフロアを走る。

 三上と書かれた表札の隣にある玄関ドアを叩いて、中に入れてもらった。



「トオルくん! 大丈夫だったかい」

「……ええ。一応、尾行が付いてきていないことを確認しています。盗聴器も付けられていません」



 ツカサが連れ去られた後、三上に連絡して避難させてもらった。

 ここに来る途中で、村雨にも事の次第を伝えておいた。

 何もないリビングで、村雨が胡坐をかいて、ノートパソコンを操作している。

 落ち着いた口調で、三上は部屋の説明をした。



「この部屋は細工を施してある。簡単に位置情報を知られることはないし、もちろん盗聴にも気を配っている。身バレを防ぐために、全力を尽くしているんだ。安心してくれ」

「こんな真夜中に、すみません」

「構わない、君は大事な仲間だ。何か飲み物でも用意しよう。マサムネくんが、君を待っているよ」



 三上は横のキッチンに入っていった。

 キッチンという空間も非常にシンプルで、電子レンジや冷蔵庫ぐらいしかない。

 シンクに水滴は付いておらず、普段から使用している様子はなかった。

 スーツの上着を脱ぎながら、座り込んでいる村雨に近づく。



「早速だが、こいつを見てほしい」



 体を回して、ノートパソコンを床に置く。

 エンターキーを押すと、防犯カメラの映像が流れ始めた。

 映っているのは、俺の部屋だ。

 自分のマンションには、防犯カメラが設置されている。

 それをハッキングしたのだ。

 村雨の手にかかれば、人のプライベートなんてあったもんじゃない。



「ここを注目してほしい」



 指を差したところには、ツカサが映っている。

 トイレから帰ってきた後、椅子に座った。

 どうやら、テーブルで勉強しているらしい。

 直後、玄関ドアの開く音がスピーカーから流れた。



『トオル、兄?』



 ツカサが迎えに行こうとした瞬間、踵を返して逃げ出した。

 その理由は、すぐにわかった。

 カメラの隅から、全身黒ずくめの人物が現れたのだ。



「こいつは!」

「そうだ、お前の言う真犯人だ」



 黒のレインコートに、黒革手袋、黒の運動靴。

 そいつは、どんどんと間合いを詰めていった。

 ツカサも黙ってやられる性格じゃない。

 俺とツカサが編み出した格闘術で撃退しようと、拳を構えている。

 拳の届く範囲に入った途端、ツカサは顔面目掛けてパンチを繰り出した。

 だが、一瞬にして拳を握り潰され、隙だらけの首にスタンガンを打ち込まれる。

 感電し弱ったツカサを担いで、真犯人は部屋から出ていった。



「くそっ! ツカサが……」

「カメラを壊さなかったことから、相当な自信を感じる。強靭な精神力を持っているからこそ、堂々と正面から勝負を仕掛けるんだ」



 村雨は、米軍を名誉除隊するほど優秀な兵士だった。

 だからこそ説得力は凄まじく、敵を恐れてしまった。



「それと、奴のクラッキング技術も凄まじい。カメラをハックした形跡があり、ドアのセキュリティも難なく破壊した。そして、元通りに戻した。こいつは龍道川と同じくらい、完璧超人だ」

「俺が完璧超人……ですか。それって弱点みたいなものじゃないですかね」

「弱点じゃなくて、お前の強みだ。らしくないぞ、龍道川」



 場を和ませるような声で発してくれた。

 そうだ、ツカサは強い。

 人質にされているというなら、生かされているはずだ。

 すぐに救い出さねば。

 三上はホットココアを差し出しながら尋ねた。



「真犯人の要求は、トオルくんの捜査が終了することを望んでいる。これから、君はどうするつもりだい?」

「決まっているじゃないですか。必ず、奴の正体を暴く。軽く半殺しにしますよ」

「おいおい、仲間にするんじゃなかったのか」



 村雨が口を挟む。

 首を振って、否定を表す。



「相手を倒して、仲間にする。これって、ゲームでもよくある流れじゃないですか」

「なるほどな、理解したよ。それじゃあ、私はもう休ませてもらおうか」

「布団を出すよ。トオルくんも寝た方がいい。疲れが顔に出てるよ」



 母親のような安心感が、三上から溢れていた。

 本当は調査を続行したかったが、村雨の協力なしではできない。

 それに、休息は必要だ。

 もしかしたら、明日は殺し屋と戦闘するかもしれない。

 万全の態勢で挑まなければ、勝てない相手だと思っている。

 俺も村雨に倣って、寝ることにした。







 翌朝、コンビニ弁当を食べながら作戦会議を開いた。

 何としてでも、奴を捕える。

 最強の軍人兼ハッカーの村雨マサムネ。

 情報収集と幅広い知識で圧倒する三上ハルト。

 そして俺、龍道川トオル。

 円になって座り、中央にパソコンを置く。

 村雨が俺に視線を合わせた。



「それで、何か策はあるのか」

「まず、気になることがあります。真犯人はどうして、俺が捜査していることに気が付いたのでしょうか」



 当然の疑問だろう。

 極秘で捜査している状況なのだ。

 三上は同意を示す相槌の後、顎をさすった。



「僕は考えるに、君が小林ヨシノリに接触したからではないだろうか。つまり、小林ヨシノリは真犯人と通じており、君が探っていることに勘づいた。それを真犯人に告げ口し、ツカサくんを誘拐した」

「俺も、そうではないかと思っています。やはり小林ヨシノリは真犯人と通じており、TRIPLE・AXELの殺害を依頼したのかもしれませんね」

「つまり、小林ヨシノリを追うことが、奴に繋がるということだな」



 村雨の問いに、その通りだと頷く。

 だが、確証はない。

 そうだ、俺の行動はどれも仮定があっての行動だ。

 小林ヨシノリに、真犯人と繋がりがあってほしいと願っている。

 思い返すと第一発見者としての反応は、どこかおかしかった。

 なぜ、動揺したんだ。

 そもそも、第一発見者になった理由は何なんだ。

 あの人の言う通り、偶然通りかかったからなのか。



「龍道川、小林ヨシノリを調べてみた」

「え、早くないですか!」



 何の感情もない顔で、村雨はキーボードに指を走らせた。

 ノートパソコンには、いくつもウィンドウが表示されている。



「といっても上辺だけだ。SOフーズの最高広告責任者として、名前が記載されていた。社員のSNSを覗いてみたが、特に嫌われているわけでもない。小林ヨシノリのSNSアカウントも確認してみよう。ほう、社長とよく飲みに行っているみたいだ」

「どうやら、彼はCM作りにも熱心みたいだよ」



 三上が、タブレットを差し出してくれた。

 テレビで見たことのあるコマーシャルだ。



「SOフーズは数ある食品会社の中でも、特に広告にこだわっている。ネット通販での販売が主だからね。『ずっと出来立て、熱々即席ラーメン』をキャッチコピーに、NewTubeを中心とした動画共有サービスに広告を掲載している。映画鑑賞しながら食べるポップコーンならぬ、即席ラーメンといったところを目指しているみたいだよ」



 なるほど、と首を小刻みに揺らす。

 三上にタブレットを返すと、更に話は続いた。



「消費者に対するイメージを大切にしているから、NewTuberによる企業案件も多い。逆に言えば、NewTuberが商品のイメージを損ねるような宣伝をすると、企業は大ダメージを受ける」



 NewTuberの収入に「企業案件」というのがある。

 企業案件とは企業が影響力のあるNewTuberに依頼し、商品を宣伝してもらうことだ。

 制作にコストと時間がかかるCMと違って、NewTubeなら宣伝の時間も長く、NewTuberのファンから見れば商品の魅力も向上する。

 NewTuberも企業案件で報酬を得られるので、両者WIN-WINの広告手法である。

 ここである考えが引っかかる。



「TRIPLE・AXELが、SOフーズの案件を引き受けたことがあったとしたら」



 そこで炎上してしまった、と考えれる。

 最高広告責任者として、殺し屋に依頼するだろう。

 だが、次の言葉で予想は外れたと知る。



「僕もそう思って、調べてみた。そしたら、過去にSOフーズの商品を宣伝していたんだ。だけど、炎上はしていない。彼らにしては、まともな動画だったんだよ。それにTRIPLE・AXEL自体、案件だけはキッチリとやるみたいで、企業からの信頼は厚い」

「くっ、空振りか」

「すまない、無駄話だったな」

「いや、案件が動機ではないと分かりました。小林ヨシノリが、TRIPLE・AXELを殺す動機。企業存続のためではないのか。それとも、全くの筋違いなのか」

「案外、単純な動機かもしれない。僕たちは少し、複雑に考えすぎではないだろうか」



 複雑ではなく単純に。

 村雨のAIに打ち込むキーワードは最適な単語、最適な数に設定しなければ、より良い結果は得られない。

 キーワードを減らしてみるか。

 広告、炎上、NewTuber、企業……。

 人を殺そうと思うには動機がいる。

 企業に関するワードを抜いて、動機を考えると『私怨』になる。

 発端となる過去があって、怨恨は生じるものだが。



「小林ヨシノリの過去に、TRIPLE・AXELと何かがあったのか?」

「結びつける要素は、今のところNewTubeくらいだね。彼を訪ねた時、過去に関係する言動はしていたかい?」

「ああ……そう言えば、11年前に息子と奥さんを亡くしたと聞いた。不慮の事故だと」

「なら、この事件だな」



 村雨のノートパソコンに顔を寄せる。

 事件ファイルとネットの記事が映し出されていた。

 まず、指差したのは事件ファイルだ。



「2023年7月25日。C葉県の川で当時、小学4年生の小林ソラが遺体となって発見される。24日にソラは行方知れずとなり、不審に思った父親が警察に通報。25日、一緒に遊んでいた少年の証言によると、小林ソラと三人の同級生は渓流で川遊びをしていた時、ソラが溺れたのだと言う。怖くなった三人は家に帰って、翌日訪ねてきた小林ヨシノリに話した。警察と共に、渓流と川を探索。そして、小林ソラの遺体が川で発見された」

「小林ソラというのが、小林ヨシノリの息子なんだね」



 三上の問いに、村雨は頷く。



「だが、この水難事故に不可解な点が多い。まず、帰宅した三人の同級生が、誰にも通報しなかったことだ。それに、行き来に使われていた自転車がどこからも見つかっていない。父親の話によるとそもそも、ソラは泳げないらしい。だから、自分から川遊びをするとは考えにくい。それに川遊びの前日、山岳地は大雨に見舞われ、渓流で川遊びなんてできる状態ではなかったそうだ」

「……まさか、これって」



 嫌な予想が、脳にこびりつく。

 村雨は人差し指を、ネットの記事に突き付けた。



「それから、もう一つ。事故から一週間後に発覚したことだが、小林ソラは同級生三人にいじめられていた。警察は結局、水難事故と断定し、捜査を打ち切った。ネットの記事によると、その後もソラの両親が再捜査を要求したそうだが、聞き入れられることはなかった。その後、母親が自宅で首を吊って自殺。側にあった遺書には『錯乱状態の夫を止めるために、死にます』と書かれていた」



 あまりにも悲劇的な結末だ。

 息子と妻を亡くした小林ヨシノリが黙っていられるはずはない。

 もし、これが今回の事件と関係しているのであれば。



「ありがとう。三上さん、村雨さん」



 立ち上がって、上着の袖に手を通す。

 村雨が準備をしている俺に声をかける。



「どこへ行くんだ?」

「小林ヨシノリのところです」



 こうなったら、本人に訊くのが手っ取り早い。

 三上は、タブレットを操作する。



「今だったら、SOフーズ本社にいるかもしれないね。君のブレスレットに、情報を送っておくよ」

「ありがとうございます」



 ここから立ち去ろうとする前に、一つ思い出したことがある。

 腰に差していたものを、三上に手渡した。



「これの洗浄をお願いしたいのですが」

「……ID銃か。君の銃だろう。怪しまれないのかい?」



 冷たくて重い、黒の拳銃。

 弾丸は装填されており、いつでも撃てる状態だ。

 ただし、撃てるのはID登録されている俺だけ。

 ふっと笑みを浮かべて。



「バレない細工は施しました。位置情報はずっと、警視庁の保管庫です」

「君を疑ってすまない。つい、昔の失敗を思い出してね。おっと……気を付けて、行ってくれ。僕たちは情報収集しておこう」



 村雨も立ち上がって、三上の横に並んだ。



「小林も警戒しているはずだ。油断するなよ、龍道川。君は大事な戦友なんだ。戦友が死んだ戦場は虚しいものだ。何かあったら、助けを呼べ。君を助けてみせる」

「マサムネくんの説得力には負けるが、トオルくんは誇らしい仲間だ。君がいなければ、僕は深い闇に閉じこもったままだっただろう。今度は、僕が君を救う番だ」

「……詰まるところ、真犯人を仲間にしたいという俺の我儘なんです。それに付き合ってくれて、本当にありがとうございます」



 深く頭を下げて、感謝を伝える。

 その後、ドアを開いて、外に出た。

 朝日が、全身を浄化するように照らしている。

 目を細めて、T京都の町を見下ろした。

 ようやく掴んだ真犯人のしっぽ。

 絶対に、その正体に辿り着いてやる。

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