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転生者と魔王の娘  作者: 板橋稍梧
1/3

この転生は陰謀。

プロローグです。一部ホラー感出てますが、意識したわけではないです。


 

  学生時代は生きていく事が苦痛だった。けれども、死ぬのも怖かった。だから学校を卒業した今は、死んだように生きている引きこもりがちなアルバイターそれが今の肩書だ。別に辛くはない、楽しくも無いが……今日も無駄に時間を浪費して無為にしている。

 「……。」

  今日も『自殺の名所と噂されている場所に行ってみた。』という動画を動画サイトで閲覧していた。ある意味趣味の一つと言ってもいいかもしれない、時間を浪費するには最適だからだ。

  しかし、観たところで実際に行く度胸も無い癖に、と自分に悪態を吐いてみる。しかし心は揺れず、乾いた笑いが出ただけだった。

 「ん、新しい動画が上がってるな……この人、週一で新しい動画上げてるけどよっぽど好きなんだな。」

  投稿者名、十二翼の天使。

  という中二病センス溢れる名前を持つ彼が動画投稿を始めたのは約一年前で、その名前からは想像もつかない程硬派な動画を上げている事もあり密かに気に入っていた。

  今日上げられていた動画は〇△県□×市にある洞窟の先にある小さな泉だった。〇△県□×市はこの家からも近い、まさかそんな近い場所に自殺の名所と噂されている場所があったなんて。まるで、何者かの意志でも働いているかのようなタイミングに少しだけ変な笑いが出てしまったが考え過ぎだろうと頭を振った。



  翌日、あの動画で見た洞窟に行く為にコンビニなどで必要な物を調達し、電車やバスを乗り継いで洞窟近くの場所までやってきた。ここからは歩いて洞窟に向かうのだが……山道を少しばかり甘く見ていた。

 「引きこもりがちな、俺には……この山道は、キツイ……!」

  休憩にちょうどいい切り株がこの辺りには存在しなかったので、地面に腰を下ろし木の幹に背を預けた。息を整えつつ疲労回復と小腹を満たす為に買っておいた板チョコを齧る、ほのかな甘みが広がっていく微かに疲労が和らいだ気がした。

 「ま、その代わりに喉が渇くけど」


  しっかり休憩を取ったおかげで、日が落ちる前には洞窟に辿り着く事が出来た。途中で道に迷いかけたが無事に辿り着けたのだから方向音痴ではないと思いたい。

  動画で見た洞窟と寸分たがわぬ様相に中に入るのが躊躇われたがここまで来て引き返すという選択肢は消費した金額やら労力やらを鑑みると、ないも同然だった。

 「ここまで来たら、行くしかないだろ……。」


  洞窟内はとても暗く懐中電灯で照らしていてもそのほとんどが闇に包まれていた。入口で引き返さなかった事を早くも後悔し始めていたが、既にあの時には戻れない。

  しばらく進むと暗闇の中で何かが動いた気がした。まさか幽霊だろうか、生唾を飲み込みおそるおそる懐中電灯を向けてみると照らされた光に顔を顰める様にして立っている小学生くらいの少年がそこには居た。

 「眩しいからそれ早くどけてくれない?」

  声変わり前の少し高い声に生意気さを纏わせているかのような語感に少し心を乱されたので、わざと数秒間顔を照らし続けた。

 「大人げないお兄さんだね。」

 「ほっとけ」

  顔面照射から解放された少年からの最初の一言は呆れの籠もった言葉だった、顔ははっきり見えないがきっと同じような感情が示されているだろう。

  しかし、なぜ小学生がこんなところにいるのか……遊びにでも来ているのだろうか?一人で?友達も連れず?なるほど、ぼっちか。

 「お兄さんと一緒にしないでほしいけど、理由はきっとお兄さんと同じだよ。」

 「は?同じ?」

  知らない間に声に出ていたのか気を付けないと。この前も、考え事か何か知らないけど小声でブツブツ言うの止めた方がいいわよ。と母親に咎められたばかりだ。……いや、待て。理由も同じ……?この少年は一体何を言っているのか、言葉の意味が理解できない。言い知れぬ不安が少しずつ恐怖に変わり、このままこの少年とここに居ては何かまずい事が起こるのではと思い至った時。

 「え、あれ、お兄さんもあの動画見て探検に来たんじゃないの?」

 「え……動画……?」

  焦った少年の声と動画という言葉に少し冷静さを取り戻してよくよく話を聞いてみると、この少年……ミゲルというらしい。は、十二翼の天使のファンらしく今まで投稿された動画の場所すべてを回っているそうでその時の体験を楽しそうに話しているのを見ると年相応で優しい気持ちになれた。先程の大人げない自分に今の心があればあんな非道はしなかったろう。

 「けどまさか途中で懐中電灯の電池が切れて立ち往生なんて、まさか暗いところ苦手なのか?」

 「……うるさいな、誰にだって苦手なものくらいあるでしょ?」

  からかったつもりはなかったのだが、からかわれたと思ったのであろうミゲルはいじけてしまいそれを宥めつつ、この先どうするかを考える。携帯で時刻を確認すると十七時を少し回ったところで、季節柄この時刻を過ぎると夜の帳は恐ろしいほど早く下りる。となると、先にミゲルを送っていった方がいいだろう。別に、帰りたくなった訳では決してない。

 「時間も遅いし、駅まで送っていこうか?」

 「いいよ、僕の両親仕事で居ないし。あんまり僕の事興味ないみたいだし。」

  そう言いながらミゲルは奥の方へと駆け出す。暗いのが苦手なのではなかったか、ツッコミを入れたくなったがある程度ライトの光が届く範囲でこちらに振り返り手を振っている。

 「早く行こうよー!僕、怖いんだけどー!」

 「じゃあ先に行くなよ!」

  そのツッコミは洞窟内で笑い声と共に無数に反射していった。少し生意気な少年ミゲルとの小さな冒険はまだまだ続きそうだ。

  暗い洞窟内を懐中電灯の明かりを頼りに二人で並んで進んでいると、ミゲルが袖を引いてきた。何かあったのだろうか?子供は感受性が強いと聞く、見えてはいけないものが見えてしまったとか報告されてもどうしようもないが平静を装って聞き返す。

 「ん?なんだよ?」

 「あのね。僕、思い出した事があって」

  何を思い出したのだろうか、実はミゲルは幽霊でここに縛られているとかだったら勘弁願いたい。何かあればすぐにこの場から離脱できるようにしたかったが、ミゲルがずっと袖を掴んでいるので無理だろう。実に策士である。

 「泉から戻ってくる時、左側……だからえっと、こっちだと右側?に通れそうな脇道があったんだ。」

 「脇道……?」

  昨日見た動画の内容を思い返してみるがそんな脇道あっただろうか?単に見過ごしていただけという可能性もない訳ではないが、実際に見てみない事には判断のつけようもない。

 「ふーん、信じてくれないんだ。」

 「そうは言ってもな……」

  こちらの煮え切らない態度に苛立ったのか、手首を引っ掴んで強引に引き摺っていくミゲル。小学生の割りに意外と力が強いのか、それともこっちの筋力が弱っているのか、はたまた両方か。何にせよ引き摺られているから痛い、早く解放してほしい。

 「もし脇道があったら、お兄さんに一人で行ってもらうからね。」

  大分ご立腹のようだ。有無を言わさぬ雰囲気を放つ小学生に気圧されて思わず頷いてしまった。

 「……はい。」

  しばらく引っ張られていると本来のゴール地点である泉が見えてきた、だが今の目的は泉ではなくこの辺りにあるという脇道。どうせミゲルの見間違いだろうと高を括っていたのだが動きが止まって懐中電灯を引っ手繰られた。

 「あれ見なよ、穴、あるだろ?」

  懐中電灯の光に照らされた先には確かに人一人が通れそうな竪穴が存在していた。

 「確かにあるな、穴。」

 「でしょ?それじゃ、行ってくれるよね、お兄さん?」

  実に楽しそうに言って懐中電灯を差し出してきたミゲル。暗がりでまた一人になる訳だがそれは大丈夫なのだろうか?

 「心配しなくてもここで待ってるから平気だよ。」

 「そ、そうか……。」

  なかなか出発しなかったからだろうか、心配していると思ったらしい……間違ってはいないが察しが良すぎてちょっと怖い。流石にこれ以上ここに留まっていると怖がっていると思われてしまうので覚悟を決めて穴の中へと歩いていった。

  竪穴の中は先程まで居た洞窟よりもさらに暗くなっているように感じた。懐中電灯の光がまるで闇に吸い込まれているような錯覚さえしている、さっきまで二人だったからか余計に心細く感じてしまってそう思うのかもしれない。

  暫く歩いていくと、急に開けた場所に出た。相変わらず闇に支配された空間ではあったが、薄っすらと白い何かが光を反射している。近づくのは大変憚られたが、好奇心が背を押した。

 「これ、なんだ?」

  それは白い石のようなもので出来た祭壇に見えた。どうしてこんな所に祭壇があるのだろうか?あの竪穴は遺跡にでも通じていたのか、謎は深まるばかりで解決の糸口は見えそうにない。なのでここはいったん放置して、この広場を回ってみたのだがこれ以上は先がなく行き止まりだった。

 「ここ以外は何にもないのか……、仕方ない一旦戻ってミゲルと合流するか。」

  元の道を戻ってきたのだが、入ってきた筈の穴が無くなっている。瓦礫で塞がれたとかではなく、穴そのものが綺麗さっぱりまるで初めからそこに穴などなかったかのように消滅していたのだ。道を間違えたかと壁に触れながら進むとさっきの広場に出た。念の為今度は反対側の壁を触りながら戻ったがどう考えても一本道で間違えようがなかった。

 「どうなってるんだよ……!」

  閉じ込められたことへの恐怖を忘れようと穴があった場所に向かって大声で叫びながら壁も叩いた。それほど分厚くはない筈なので声は届くと思っていた、のだが……反応はない。さっきの場所から離れてしまったのだろうか?いや、暗がりを苦手と言ったミゲルの言葉に嘘はない筈……そう信じなければ平静を保てない。

  どれほどの時間が経ったかわからないが、もう叫ぶ気力も壁を叩き続ける体力も残ってはいなかった。その時、お腹が鳴った。人間という生き物はこういう状況でも暢気に空腹を知らせるものなのかと、乾いた笑いが出た。残っていたチョコを噛み砕きつつ少しばかり回復した思考を回す。

  唯一の入口であり出口であった筈の竪穴は消滅している、奥の広場には白い祭壇があるだけで別の場所に出られるような穴は存在していなかった。つまり、絶望的な状況である。

 「こういう時、ゲームとかなら入口の消滅確認がフラグになって広場で何か起きてるんだろうけどな……。」

  残念ながらこれは、セーブポイントもコンティニューもフラグ管理もなくデウスエクスマキナすら存在しない現実という名の自己育成ゲームだ。だから、あり得る筈もない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という普段ならどう考えても自ら笑い飛ばすような愚かな考え。だがそれでも、降って沸いたこの非現実的な希望に今は縋るしかない。変化などなくて当たり前なのだ、それを確認した所でこれ以上落ちる事はない。歯を食いしばって立ち上がり、広場へと向かった。

 「うそ、だろ……?」

  そこには、非現実的な希望とやらが存在していた。

  白い祭壇の上にはそれと同じ素材で出来ているのであろう杯が鎮座している、先ほどここを見た時には確かに存在していなかったものだ。何が起こるかわからないがこの杯が脱出のヒントになるのなら迂闊に触れないなんて尻込みしている場合じゃない。

 「えぇい、ままよ!」

  勢い良く触れてみたが特に何もない。持ち上げてみたりもしたが仕掛けが作動するなどという事も無い。揺らしてみると、何かが手に掛かった……匂いを嗅いでみるが無臭。一度杯を置いて、少し揺らしながら中身を照らしてみたが無色透明なのか底が見えた。

 「水……?祭壇にでもぶちまけてみるか」

  中身を無くせば何か起こるかと思い、祭壇に勢い良く水を掛けてみたがやはり何も起きない。諦めて祭壇に杯を戻すと水が空気を含んだ時に出る音が聞こえてきた。覗いてみると水は再び注がれている、杯を持ち上げて底を覗いてみるが切れ目のようなものは無い、一応押してみたが流れ出てくる事も無かった。こうなってくると最早出来る事は限られる、怪しいが飲むしかない。

 「どうせ待ってても死ぬなら、俺はこいつに賭ける!」

  杯の水を一気に飲み干した、喉越しは普通の水と大差ない。こけおどしだった様だ、警戒して損した……その上、脱出の手がかりすら失ってしまった。まぁ、水が手に入るなら救出が絶望的でも生存はある程度できる。ここの酸素が無くなるまでだが……。そう思って歩き出そうとして急に力が抜けた。

 「ぐっ……!がっ……!?」

  体が燃えるように熱い、手足がバラバラに引きちぎられるような感覚。苦しい、熱い、痛い、苦しい、苦しい、苦しい、熱い、痛い。声にならない声で叫び続け、心が何も感じなくなった頃に糸が切れたように意識が闇へと沈んでいった。



  異世界には惑星環境を地球と同じにしながらも大気中に魔力が存在する星がある。その星の遥か辺境に存在する村に、かつて世界を蹂躙し混沌に陥れた魔王を討伐した勇者を祀った遺跡がある。そこは、その勇者の生家があった場所……彼の寝所があった場所には白き祭壇が設置され、今も勇者は世界を見守っているという伝承が語られている。

  その祭壇に、今一人の赤子が出現した。彼は後に勇者の生まれ変わりと語られる事になるがそれはまだ先の話。今は彼の新たなる人生の門出を祝福しよう。

次回!勇者の冒険が始まる!(嘘)

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