ー第5話アンヒッラ村
ー第5話アンヒッラ村
レコーディングは瞬くように終わった。
美里にも小林君にも、目指す音が見えていて迷いが無かった。
すべて、一発録りで10曲が録音された。
美里は一応
「もう1回やっとく?」
と聞いたが、プロデューサーも恭之助も
「必要ない」
と答えた。
「恭之助。ツアーはどうするの?」
打ち上げパーティで美里は聞いた。
「この5ヵ所からだ」
紙を渡された。
英語の地名が書かれていた。
「これって…」
「12人の勇者が眠っている場所だ」
亡くなったファンと、その家族友達だけのアコースティックギター1本のライブだった。ワールドツアーのセットリストどおりにアンコールもやる。
だが、当日家族と友達は2000人に増えていた。墓地のある村や町の外には何万もの人々が、警察に止められて集まった。当初、マイクもスピーカーも使わない予定だったが、恭之助は集められるだけのスピーカーとケーブルコードでライブを聞けるようにした。
「拍手。歓声。すべてはしないで下さい。彼らの元に歌が届くように」
ファンも集まった野次馬もマスコミも沈黙を守ってくれた。
そして恭之助は、こうなる事を予測していた。
イギリス空軍が、5000基の簡易トイレを空輸して、回収した。
10万食の弁当とミネラルウォーターに、記念ラベルを印刷して渡し、全員がゴミとして捨てる事なく持ち帰った。
5ヵ所の追悼公演が終わると、ロンドンからヨーロッパツアーが始まった。各国の首都を周りベルリンで終了した。
一旦帰国して、アメリカツアーに行くはずだった。