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ー第4話足りない何か
ー第4話足りない何か
小林君は、あの日の彼とは別人だった。
リズムもメロディーもアイデアに溢れている。
にも関わらず、あの日の彼が歌の底にちゃんと有った。
そして、美里が失ってしまった、あの日の美里も。
足りない何かは、これだった。小林君の完コピは二人のあの日をしっかりと、変質させる事なく保存していたのだ。
彼のデビューシングルは素晴らしかった。
プロモーションにミスがなければ、売れるはずだ。
彼のプレイをバッキングしながら、それを願った。音楽的に素晴らしくても、プロモーションが失敗すれば消えて行くしかない。不運も有る。
このライブはしっかり動画が撮られている。アップされれば、フィメールのファンが見てくれる。 彼らは本物を見抜く目を持っている。熱狂してくれるはずだ。
アンコールを3回やった後、小林君と握手しながら頼んだ。
「忙しいと思うけど。今度のアルバムのレコーディング…手伝ってくれない?あなたの音が必要なの」
彼は言った。
「その為に僕は生まれてきました。やらせて下さい」
美里は人の不思議に目を潤ませた。