ー第1話その2
第1話その2
ドラムの横とギターアンプの間を通って出て行く。ステージの広さはクラブテラと変わらない。
観客は生粋のフィメールサーバントマニアで、特別配布されたスタッフTシャツを着ている。
ネットを頂くぞ!
俺は本気だ!
とプリントされている。
恭之助は久屋大通公園時代から基本的に変わらない。
何もかも順風満帆だ。
トラブルは恭之助が事前に回避してくれる。
そう思った。
ひらがなの
"ど
の1文字がおおきくプリントされているキャップのイギリス人がいた。彼は間違いなく10年前に居た。
彼も含めて観客が絶叫した。
センターに立ってエリアが呼び掛ける。
「バックトゥザロンドン!ウエルカム?」
ウエルカム!と帰ってくる。
ライブチャットがモニター横の画面に流れる。
凄まじい量だ。
カメラの向こうに2000万人が見ている。
1曲目のエンディングで、ゴトコットンに向いてジャンプした。
恭之助がステージに走り込んできた。
「逃げろ!ここを出ろ!振り返るな!楽器はすてろ!命だけ持って出ろ!」
美里は恭之助の指示を疑ってはいけないと日頃から気をつけていた。
ベースを捨てて、楽屋裏に走った。
メンバーも付いて来ていると思った。
楽屋口から外に出て、無印良品の看板の前で、02アカデミーの入口の様子を見た。
後ろを見ると、か奈美んちょがへばり付いていた。ゴトコットンも居る。
エリアが居ない。
反射的に入口に走った。
入口を入ると、マイクを握ったエリアが絶叫している。
「ラナウェイ!ラナウェイ!逃げて!逃げてよ!なんで逃げないのよ!」
恭之助が覆い被さるように、エリアをステージから押し出そうとしている。
その周りをイギリスのファンが盾になって囲み始めた。
手前にファンが集団で乗って抑え込もうとしている男が見える。
そこからマシンガンの先端が出ていた。
美里もか奈美んちょもゴトコットンも
そしてエリアも同じ言葉を同時に叫んだ。
「ダメっ!やめてっ!」
オモチャのような
カタカタカタカタ
と音がして、エリアを囲んでいたファンが血まみれになって崩れ落ちる。
エリアの顔に、跳ねた血が糸を曳いた。
「ギャー」
マイクで増幅されたエリアの絶叫が響く。
恭之助がマイクのコードを抜いても、マイクを持ったままエリアは叫び続ける。
マシンガンは天井を向き、配管を撃ち抜く。
罵声を浴びせながら、ファン達は泣いていた。
気絶したエリアを、恭之助がステージ奥に抱きかかえて消えた。
「美里さん。出ましょう」
そう言う通訳の安藤君を振り切って、エリアの元に走った。
楽屋で意識が戻ったエリアは、コードの繋がっていないマイクに向かって絶叫していた。
奇跡的にエリアにも恭之助にも銃弾は当たらなかった。
しかし、エリアの精神は崩壊した。
そしてファン12人が帰らぬ人になった。