第6話その2
ー第6話その2
美里にとっても新鮮で新しいサウンドだった。
この小さな苗木が、どんな困難を乗り越えて世界に枝を拡げるのか…見守るしかない。
セットリストが終了した。観客はアンコールを要求して、手拍子のボルテージを上げる。
汗にまみれた子供達が、ステージ横で円陣を組む。
恭太郎がエリアをじっと見詰めた後、最後にステージに出て行った。
イントロが始まる。
美里は…
ブルッと震えた。
エリアが美里の手を握りしめる。痛いくらいに強い力だ。
それは、02アカデミーの、あの夜の1曲目に紛れも無かった。
エリアは、目を見開いている美里の手を握ったまま、美里を引っ張ってステージに出て行った。
長女のサナコがマイクスタンドの前を、母親に開ける。
イントロはPCでループさせている。
引っ張られたまま美里もセンターに立った。
エリアはマイクに笑顔で叫んだ。
「バックトゥザロンドン!ウエルカム?」
数えきれない程視聴されている動画通りに観客は言ってくれた。
ウエルカム!
何年も表情を現さなかった表情筋が笑顔を爆発させた。
エリアが後ろ向いて、合図した。恭太郎がループを外す。
エリアは何年も、あの日の夜からまともに歌っていない歌を、出だしジャストで、そして美しい声で、歌い始めた。